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過保護な主
過保護な主(7)
しおりを挟む二人で一頭の馬に乗ったのは、その一度きりだった。
ユリウスはその日の夕刻にも馬の世話をすることを申し出たが、今度は「一緒に」とは言われなかった。
朝の様子を見て、ユリウスを一人で馬に乗せても大丈夫だと判断されたのだろう。ほんの少し残念に思う気持ちもあったが、散歩をしながら「今度の休みに街の薬草屋に行こう」と誘ってもらったことで、それを楽しみにする気持ちに塗り替えられた。
それ以降、朝夕、二人で別々の馬に乗って、一緒に庭を散歩させるのが日課になった。
それだけでなく、ラインハルトは家を出るときと帰って来たとき、いつも挨拶がわりにユリウスの頭をくしゃりとひと撫でするようになった。家族みたいにハグをしたり頬にキスをすることはないが、ワーグナー夫妻の頭を撫でることはないから、それはユリウスだけの特別待遇と言える。
ユリウスのほうにも、一つ大きな変化があった。
ラインハルトの衣に対し、触れたいし匂いを嗅ぎたいという衝動を覚えるようになったのだ。洗濯したてのものには興味が湧かず、脱いだあとの、彼の汗や彼本来の匂いが残っているものに無性に惹かれる。
匂いを嗅ぐと体がむずむずして落ち着かない気分になるのに、こっそり自分の部屋に持ち帰って、それを抱きしめて眠りたくなる。
許可なく他人様の持ち物を部屋に持ち帰るのは、盗人と一緒だ。
それにもし、そのことを本人に知られたら、絶対に気持ち悪がられるに決まっている。
でも、一枚だけなら気づかれないんじゃないか……。という浅ましい気持ちも捨てきれず、洗濯中、彼のシャツを両手で広げ、そんなことを悶々と考え込んでいたら、エレナに考えていることを見破られてしまったらしい。
「ライニ様は衣をたくさんお持ちですから、お借りしても気づかれませんわよ」
そう言ってウィンクされた。
それ以降、洗う前の彼の衣を一枚だけ自分の部屋に持ち帰るのが、小さな秘密になった。
ラインハルトは毎日、ユリウスが淹れたお茶を飲み、ユリウスが用意した薬草湯で汗を流す。彼の衣を洗い、髪を乾かし、最近は疲れが溜まっているのか朝から彼が起きてこない日も多いので、ユリウスが起こしに行く。そんな時間が、ユリウスにはたまらなく嬉しかった。
ラインハルトは相変わらず愛想はないし無口だが、行動の端々に優しさが垣間見える。
彼に見つめられ、髪に触れられると、それよりもっと親密な接触――ハグをしたり頬にキスしたり――を期待してしまう。
僕はライニ様のことが好きなんだ……。
はっきりとその想いを自覚したのは、姉の家を訪ねたときのことだった。
その日、ユリウスは姉夫妻からラインハルトとともに夕食に招かれ、『選定の儀』以来、二カ月ぶりに姉の家を訪ねていた。
夕食後、エイギルが仕事の話があるからとラインハルトを伴い書斎に引っ込んだので、ユリウスはローザに、実は選定の儀で誰にも選ばれず、ラインハルトの慈悲で従僕になっていた事実をようやく打ち明けた。
ローザはあからさまに落胆を顔に浮かべたが、すぐに気を取り直して、「でも、ライニ様は絶対に、ユーリを気に入ってくれると思うわ」と、根拠のない慰めの言葉をくれた。
ユリウスを励ましたいというローザの気持ちは痛いほど伝わってきたから、ユリウスは「そうだといいけどね」と、控えめな笑みを返した。
本気でそう思っていたわけではない。その場しのぎの、ただの相槌のようなものだった。
ただ、「本気じゃない」と思い込もうとしている時点で、すでに自分の中にその願望があったのかもしれない。
ローザがマリアを寝かしつけに行ったため、ユリウスはその間に持参していたカモミール茶を淹れ、エイギルの書斎にもそれを届けることにした。
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