30 / 83
従僕を解雇されました
従僕を解雇されました(2)
しおりを挟むラインハルトが、隣に座っているユリウスをちらりと見やり、向かいの席のワーグナー夫妻に向かって話を続ける。
「一度配属されれば数年は動かないし、次の配属先が都とは限らない。ここは貴族街で、お前たちだけでここに住んでもらうわけにもいかないから、この家は売り払おうと思っている。息子のところに行くならそれでもいいし、二人で住むつもりなら、平民街に別の家を用意しよう。次の勤め先は、お前たちさえよければ、エイギルのところで雇ってもらえるよう、話はついている」
続いて、彼は椅子に座ったまま体を斜めにずらし、ユリウスに向き直った。
「ユーリ。お前はどうする? エイギルのところに身を寄せてもいいし、故郷に帰るなら、俺が赴任先に行くついでに送っていく。お前のご両親にも、一度ちゃんと挨拶をしたかったからな」
……え…………?
彼についていく以外の選択肢を考えていなかったユリウスは、思わず間抜けな声を漏らしそうになった。
「私たちはこの年ですから一緒に行くことは難しいですが、ユーリ様はお連れになった方がよろしいのではありませんか? ライニ様のお世話をする人が必要でしょう?」
言葉を失くしたユリウスにかわり、エレナが口を挟んでくれる。
ラインハルトが、わずかに視線を揺らしたかに思えた。
「危険を伴うため、一緒に連れて行くことはできない。身の回りの世話は部下がやってくれるから、心配いらない」
それ以上、彼の目を見つめ返すことができず、ユリウスは顔を俯かせた。
都に残るか故郷に戻るか――。ただそれを決めればいいだけなのに、頭と心がばらばらになったみたいに、考えがまとまらなかった。
「第五騎士団の軍営のあるウェルナー辺境伯領はお前の故郷に近いから、お前が故郷に戻るなら、任務が休みの日には俺も会いに行ける。都に残りたいと言うのなら、それでもかまわない。エイギルにはお前のことも頼んである」
ラインハルトの言葉が右の耳から左の耳へすり抜けていく中で、『ウェルナー辺境伯』という単語が、ユリウスの頭に引っかかった。
トマスが言っていた、「ライニ様がなんとかって辺境伯の娘婿になるって噂」の「なんとか」の部分に、「ウェルナー辺境伯」という単語がぴったりと重なった。
ウェルナー辺境伯には、ユリウスと同じ年ごろのオメガの令嬢がいたことを思い出したのだ。ユリウスと違って貴族だから、選定の儀には参加していない。
騎士団の軍営が置かれるくらいの力のある辺境伯だから、そのご令嬢となると王弟殿下とも身分が吊り合うのだろう。
ウェルナー辺境伯領は、ユリウスの故郷であるカッシーラー辺境伯領と隣接していて、辺境伯同士の関係も良好だ。そのため、カッシーラー辺境伯の甥であるエイギルの結婚式には、ウェルナー辺境伯とその令嬢も招かれていた。
親子については記憶にないが、弟が「ウェルナー辺境伯の令嬢は絶世の美女だ」と大騒ぎしていたのを覚えている。
エイギルの従弟であるラインハルトも、あの結婚式に参列していた。ウェルナー辺境伯令嬢とは、あのとき同じ場所に居合わせていたことになる。もし顔を合わせていたなら、美男美女の二人が惹かれ合ってもおかしくはない。
あるいは、エイギルの結婚式以外でも、夜会やら舞踏会やらで顔を会わせる機会もあったかもしれない。
そう考えたら、今しがたラインハルトが言った、『第五騎士団への転属は俺がずっと希望していた』という言葉も、彼が今までずっと選定の儀に参加してこなかったことも、エイギルの家で聞いた、ラインハルトには心に決めた人がいるという話も、全ての辻褄が合った。
それでも、せめて二人が正式に結婚するまでの間だけでも、従僕として彼の役に立てるのなら、それでよかった。
でも、従僕としても必要ないと言われてしまった今……。彼の傍に、ユリウスの居場所は完全になくなってしまった。
テーブルの下で、衣をぎゅっと握りしめる。
口を開けば泣き声になってしまいそうで。何度か浅い呼吸を繰り返し、ようやくひと言だけ絞り出した。
「少し……考えさせてください……」
729
あなたにおすすめの小説
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
騎士は愛を束ね、運命のオメガへと跪く
夕凪
BL
(本編完結。番外編追加中)
サーリーク王国郊外の村で暮らすエミールは、盗賊団に襲われた際にオメガ性が顕現し、ヒートを起こしてしまう。
オメガの匂いに煽られた男たちに体を奪われそうになったとき、狼のように凛々しいひとりの騎士が駆け付けてきた。
騎士の名は、クラウス。サーリーク王国の第二王子であり、騎士団の小隊長でもあるクラウスに保護されたエミールは、そのまま王城へと連れて来られるが……。
クラウスとともに過ごすことを選んだエミールは、やがて王城内で湧き起こる陰謀の渦に巻き込まれてゆく。
『溺愛アルファの完璧なる巣作り』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/26677390)スピンオフ。
騎士に全霊で愛されるオメガの物語。
(スピンオフにはなりますが、完全に独立した話ですので前作を未読でも問題ありません)
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる