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従僕を解雇されました
従僕を解雇されました(2)
しおりを挟むラインハルトが、隣に座っているユリウスをちらりと見やり、向かいの席のワーグナー夫妻に向かって話を続ける。
「一度配属されれば数年は動かないし、次の配属先が都とは限らない。ここは貴族街で、お前たちだけでここに住んでもらうわけにもいかないから、この家は売り払おうと思っている。息子のところに行くならそれでもいいし、二人で住むつもりなら、平民街に別の家を用意しよう。次の勤め先は、お前たちさえよければ、エイギルのところで雇ってもらえるよう、話はついている」
続いて、彼は椅子に座ったまま体を斜めにずらし、ユリウスに向き直った。
「ユーリ。お前はどうする? エイギルのところに身を寄せてもいいし、故郷に帰るなら、俺が赴任先に行くついでに送っていく。お前のご両親にも、一度ちゃんと挨拶をしたかったからな」
……え…………?
彼についていく以外の選択肢を考えていなかったユリウスは、思わず間抜けな声を漏らしそうになった。
「私たちはこの年ですから一緒に行くことは難しいですが、ユーリ様はお連れになった方がよろしいのではありませんか? ライニ様のお世話をする人が必要でしょう?」
言葉を失くしたユリウスにかわり、エレナが口を挟んでくれる。
ラインハルトが、わずかに視線を揺らしたかに思えた。
「危険を伴うため、一緒に連れて行くことはできない。身の回りの世話は部下がやってくれるから、心配いらない」
それ以上、彼の目を見つめ返すことができず、ユリウスは顔を俯かせた。
都に残るか故郷に戻るか――。ただそれを決めればいいだけなのに、頭と心がばらばらになったみたいに、考えがまとまらなかった。
「第五騎士団の軍営のあるウェルナー辺境伯領はお前の故郷に近いから、お前が故郷に戻るなら、任務が休みの日には俺も会いに行ける。都に残りたいと言うのなら、それでもかまわない。エイギルにはお前のことも頼んである」
ラインハルトの言葉が右の耳から左の耳へすり抜けていく中で、『ウェルナー辺境伯』という単語が、ユリウスの頭に引っかかった。
トマスが言っていた、「ライニ様がなんとかって辺境伯の娘婿になるって噂」の「なんとか」の部分に、「ウェルナー辺境伯」という単語がぴったりと重なった。
ウェルナー辺境伯には、ユリウスと同じ年ごろのオメガの令嬢がいたことを思い出したのだ。ユリウスと違って貴族だから、選定の儀には参加していない。
騎士団の軍営が置かれるくらいの力のある辺境伯だから、そのご令嬢となると王弟殿下とも身分が吊り合うのだろう。
ウェルナー辺境伯領は、ユリウスの故郷であるカッシーラー辺境伯領と隣接していて、辺境伯同士の関係も良好だ。そのため、カッシーラー辺境伯の甥であるエイギルの結婚式には、ウェルナー辺境伯とその令嬢も招かれていた。
親子については記憶にないが、弟が「ウェルナー辺境伯の令嬢は絶世の美女だ」と大騒ぎしていたのを覚えている。
エイギルの従弟であるラインハルトも、あの結婚式に参列していた。ウェルナー辺境伯令嬢とは、あのとき同じ場所に居合わせていたことになる。もし顔を合わせていたなら、美男美女の二人が惹かれ合ってもおかしくはない。
あるいは、エイギルの結婚式以外でも、夜会やら舞踏会やらで顔を会わせる機会もあったかもしれない。
そう考えたら、今しがたラインハルトが言った、『第五騎士団への転属は俺がずっと希望していた』という言葉も、彼が今までずっと選定の儀に参加してこなかったことも、エイギルの家で聞いた、ラインハルトには心に決めた人がいるという話も、全ての辻褄が合った。
それでも、せめて二人が正式に結婚するまでの間だけでも、従僕として彼の役に立てるのなら、それでよかった。
でも、従僕としても必要ないと言われてしまった今……。彼の傍に、ユリウスの居場所は完全になくなってしまった。
テーブルの下で、衣をぎゅっと握りしめる。
口を開けば泣き声になってしまいそうで。何度か浅い呼吸を繰り返し、ようやくひと言だけ絞り出した。
「少し……考えさせてください……」
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