売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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嵐のあと

嵐のあと(2)

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「じゃあ、僕が倒れそうになったときに抱き留めてくれたのも、君?」

「いや。あれはフリッツさんだよ。俺は君を助けるほうは間に合いそうになかったから、とりあえず短剣だけ投げたんだ。まぁ、あの方なら服の下に鎖帷子チェインメイルを着こむくらいはしてたんじゃないかと思うけどね。ついでに殿下まで助けたら報酬が上乗せされるかもって思って頑張っちゃった」

「報酬?」

 ユリウスは小首をかしげた。

「俺は元々、都で用心棒をやっていたんだ。親方が元は王宮騎士団の騎士で王宮関係者にも顔がきくからね。稀に王族からの依頼もあって、今回は国王陛下の依頼で、君の護衛を任されていたんだ。途中で追いついて、都からの道中もずっと後をつけて宿も同じところに泊まっていたのに、君、俺のこと全然覚えていなかったよね」

「……そうだったのか!?」

 だとしたら、ユリウスが貴族の庶子とわかったとき、「めちゃくちゃやんごとなきお坊ちゃまじゃないか!」と大袈裟に驚いていたのも、全て演技だったのだろう。
 仕事仲間で友達だと完全に思い込んでいたから、騙されていたことが些か腹立たしくもある。

「だったら、護衛だって言ってくれたらよかったのに……」
「陛下から口止めされていたんだよ。知ったら絶対に、君が俺を追い返すだろうからって。でも、こうなった以上は話さないわけにいかないからね」

 確かに、聞かされていたら絶対に断っていたと思う。もしくは申し訳なさすぎて使用人をやめていたかもしれない。
 ユリウスとアルミンの二人分の使用人の給金を合わせても、護衛を雇うほうが遥かに高いに決まっている。使用人として働くために護衛が必要になるのなら、金銭的にはかなり無駄なことをしていたことになる。
 アルミンは冗談めかして言ったが、きっと報酬の上乗せがなくても、ラインハルトのことも守ってくれたに違いない。

「アルミン。本当にありがとう。この恩は、一生忘れないよ」
「仕事だからね」

 アルミンは照れくさそうに目を逸らした。

 親方が王宮関係者と親しく、用心棒として商団の護衛で他国に行くこともあるアルミンは、宮廷やウェルナー辺境伯領の内情にも精通していた。陛下の指示でユリウスを護衛していたことを明かしたことで、今回の陰謀の背景についても、ラインハルトから差し障りのない範囲で話を聞けたらしい。

 舞踏会の夜にラインハルトが騎士団長に向けて放った言葉の中で、地図や何かの設計図が隣国に渡されようとしていたことや、「第一王弟」という言葉を耳にした記憶がある。
 アルミンの話では、第一王弟が王宮の書記官を懐柔し、軍用地図や開発中の火器の設計図の写しを作らせたことが発端だった。第一王弟は第五騎士団の騎士団長を介して、それを手土産にケースダルムへ帰属を願うよう、ウェルナー辺境伯に勧めた。一方で宮廷では、辺境伯の離反に対し、派兵して制裁を加えることを推進し、その隙を突いてクーデターを起こすか、国王の責任を追及する形で王位を奪う算段だったらしい。

 母君がケースダルムの王女だった第一王弟は、現在のケースダルム王の甥にあたる。第二王子であっても王妃の息子で、本来なら王になるべき人であった。ウェルナー辺境伯領を失うことにはなるが、第一王弟が王位に就けば、現王の即位以来冷え切っていた隣国との関係性は今より良くなると思われる。騎士団長にも、第一王弟とウェルナー辺境伯の橋渡しをすることで、ゆくゆくは辺境伯令嬢の婿となり辺境伯の後継となるという目論見があったようだ。

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