売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
83 / 83
エピローグ

エピローグ(2)

しおりを挟む



「では、エレナさん、ヘルムートのこと、よろしくお願いします。ギルベルトさんは、薬草園のこと、よろしくお願いしますね」

 エレナと一緒にここに来た夫のギルベルトは、今はユリウスの薬草栽培を手伝ってくれている。
 夫妻に挨拶し、その隣で椅子に座っている女性へと身を屈めた。声色を一段やわらかくし、声をかける。

「グレータ様。お嬢様……、カレン様に何か伝言はありますか?」

 グレータは、元の辺境伯夫人でカレンの血の繋がらない母親だ。ユリウスにとっては、生みの母でもある。今は辺境伯夫人がユリウスになったため、彼女のことは皆、名前で呼ぶようになった。

「……カレン……私の娘……どこ…………」

 夫人は今も虚ろな瞳をしていることが多いが、以前よりは会話が可能になったし、食事も少しずつは食べてくれるようになった。
 調子がいいときは、ヘルムートとおもちゃで遊んでくれたりもする。

「今も王宮におられますよ。カレン様は出産されたばかりで、しばらくは長旅ができませんから。きっと来年には、お子様を連れて、会いに来てくださるはずです。僕は2週間ほどで帰ってきますから。エレナさんとお茶会をして、待っていてくださいね」

 不安げに瞳を揺らしていたグレータが、安堵した様子で頷く。
 それを見て、ユリウスは屈めていた腰を上げた。

「ユーリ。もし、お前に難癖をつける貴族がいたら、名前を控えておけ。あとで刺客を送ってやる」
「ちょっと、ライニ様が言うと冗談にならないから、やめてください!」
 
 ラインハルトとユリウスのやりとりに、皆がどっと笑う。
 ユリウスが今回都に行くのは、宮廷議会に陳情書を提出するためだ。提出するだけでなく、議会での発言の機会も与えられている。
 陳情書の内容は、選定の儀の廃止と、それに伴うオメガに対する公助を要望したものだ。
 平民のオメガにだけ結婚の自由がないのはおかしい。
 その思いで、この二年間、国中の色んな立場の人達と手紙のやりとりをし、支援者を増やしてきた。
 全部、『ユーリのやりたいようにやったらいい』とラインハルトが背中を押してくれたお陰だ。

 本当は去年の選定の儀に間に合わせたかったけど、去年は出産と重なって都に行くことができなかったため陳情書のみ送ったら、議題には上げてもらえたが法を廃止することまでは叶わなかった。
 その際に問題点として挙げられたのが、オメガが市中で暮らすことの危険性だ。選定の儀は結婚の自由がない代わりに、定期的な発情期ヒートに悩まされるオメガが、王族や貴族の庇護下に入ることで身の安全を保障されるという側面もあった。

 そこで、それからの一年は、つがいを亡くした未亡人のオメガなど、発情抑制薬を必要としている人たちにユリウスが主導で開発した発情抑制薬を試してもらい、その効果をまとめた報告書も添えることにした。
 その報告書によれば、発情期ヒートの際に安全に隔離できる環境があり、加えて発情抑制薬があれば、市中で暮らすことも十分可能と考えている。
 もちろん、発情期ヒートの程度によってはそれが難しいオメガもいて、職業や結婚相手を自分で選ぶよりも、貴人の庇護下に入りたいと願う人もいるだろう。ただ少なくとも、選定の儀に参加することを希望制にすることは要望したかった。

 エイギルは他の貴族に働きかけてくれたし、国王陛下の妾となったカレンは、宮廷内の他のオメガの意見を取りまとめてくれた。意外にも、王族や貴族の妾となったオメガたちにも、発情抑制薬は重宝されていた。
 そういった人たちの助けもあって、今年は議会での発言の機会ももらえることになった。

 ユリウスはヘルムートの頬にキスをし、ラインハルトとも、少し長めのキスをして、赤くなった顔で馬車に乗り込んだ。
 護衛の兵たちが若き領主に敬礼し、馬に跨る。 
 見送りに出てきたのは、家族や近しい人達だけじゃなかった。
 この城で働くたくさんの兵士や使用人たちが、城の正面の入り口から城門に向かって、ずらりと並んでいた。 

「ユーリ様、頑張って!」
「応援しています!」

 皆、口々に応援の言葉を送ってくれる。
 この城には、ユリウスのことを『辺境伯夫人』と呼ぶ人は一人もいない。皆、愛称で呼んでくれる。
 たかだか陳情書を提出しに行くだけなのに、まるで魔物退治に行く勇者のように扱われるのは、気恥ずかしくもあったが、嬉しくもあった。

 この一年、ラインハルトと相談しながら、城で働く人たちの負担を減らし、効率よく同じ成果が得られるように、試行錯誤してきた。
 その変革が、実際に働いている人達に歓迎されているのかもしれない。
 ユリウスは小窓から顔を出し、見送りの人たちの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

 早春の風は肌寒かったが、窓はしばらく開けたままにしておいた。
 主のもとから逃げ出し、血の繋がらない子を抱え、かつての恋人を頼って母が歩いた道。そう思ったら、流れる景色をもうしばらく見ていたくなった。
 全ての人達が、誰かと恋をして、愛し合って、愛する者同士で結婚できる世の中になればいい。
 それは今のユリウスにとって、願いではなく目標であった。






 ………… 『侍従でいさせて』 fin. …………



 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

 書籍化された作品について、近況ボードにお知らせとお願いを載せておくので、お時間のある方はそちらも覗いていただけると嬉しいです(*´▽`*)





しおりを挟む
感想 20

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(20件)

なお
2025.09.19 なお
ネタバレ含む
2025.09.20 灰鷹

なお様

こちらまでお読みくださり、またまたあたたかい感想までお寄せくださって、ありがとうございます!
「めちゃくちゃ読みやすいし話も面白い」と仰っていただけて、めちゃくちゃ嬉しかったです🥹✨
「ユーリとライニ2人の愛やその周りの人たちの愛情に涙した」と仰っていただき、この話を書けてよかったと改めて思いました😊💕

こんな話が書きたい!という気持ちだけが先走りして小説を書く技量が全然追いついていないので、少しずつでも成長して、読者様にも一緒に楽しんでいただけたらいいなと思っております。
またご縁がありましたら幸いです!!🥰

解除
ナカムラ
2024.12.13 ナカムラ
ネタバレ含む
2024.12.13 灰鷹

ナカムラ様

長文の感想をありがとうございます!!

そうなんですよ。😅国家レベルのごたごたの陰(?)で、大昔のとりかえばや事件が判明していました😅💦
再会+両片思いが好きなので、過去に出会っていた設定にしようとしたらこんな感じになりました😅💦
仰るように、ユーリが連れ去られてなかったら、子供の頃、殿下と会うこともなかったし、家族に愛されて育ったので、ユーリにとってはそのほうがよかったのかもしれません😅とばっちりを追うことになったカレン(腹違いの妹)は可哀相でしたが😢

殿下は言葉足らず過ぎるのと、ユーリは気を使って余計なことを言ってしまうので、本当「話せばわかる」な二人でした😂会話、大事!

「承認不要」の感想へのお返事もちょっとだけ。
ユーリにパンツ洗わせていた騎士達は、殿下にパンツを全部焼却処分されたことと思います😂

ご自身の創作でもお忙しい中、こちらまで短期間で一気読みしてくださり、本当にありがとうございました!!
こちらはだいぶ前に完結してすっかり存在を忘れていたのですが、熱い感想を送っていただき、改めて、これを書けてよかったと思いました😊💕

ご縁に感謝します🥰
どうかナカムラ様もご自愛なさって、これからも創作を楽しんでくださいね😊💕

解除
ナカムラ
2024.12.12 ナカムラ
ネタバレ含む
2024.12.12 灰鷹

ナカムラ様

またまた感想ありがとうございます!
そうなんですよ😅💦こちらの攻めもなかなかの口下手で😅💦
もっとちゃんと言葉にしてあげてーとツッコミながらお読みいただければ幸いです😂

一気読みしていただくのはもちろん嬉しいですが師走でお忙しい時期だと思うので、まずはしっかり休息を取ってくださいね😊💕

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。