70 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
とある生徒の独白 2
しおりを挟む
熱心に指導していた先輩もため息と呆れが増えていって、周囲の人たちも私に対する期待を捨る。
わかっている。私が悪いんだってことは。色の塗り方も道具の使い方も知らない私が悪いの。私がわからないと言う度に先輩はため息を吐きながらも教えてくれる。それを2度聞いてしまう私が悪いの。
全部、愚図でとろい私が悪いの。あの時も私のミスが原因だった。
木目板に赤色を塗るはずが、オレンジ色を塗ってしまった。繰り返したミスに先輩の堪忍袋が切れた。
愚図、鈍間と怒鳴った先輩はペンキ缶を頭からかけた。
開けたばかりのペンキ缶にはオレンジの液体がなみなみと入っていて、鮮やかな液体が私の頭からジャージの袖までを染めて、黒い前髪からオレンジの水玉が垂れる。
“何度も何度も注意しているのに。なんでわかってくれないの。どこまで私を落胆させるのよ。あんたみたいな役立たずは初めてよ”
あの時の惨めな気持ちはよく覚えている。
そこにいる誰もが振り向いてしまう程の声量で叫ぶように怒鳴る。何度も私自身の評価を下げる言葉を並べた。
同級生も他の先輩も顧問も通りすがり人も多くいたけれど私と先輩を止めてはくれなかった。
オレンジの視界の隅にすずちゃんがその場から逃げるように立ち去るのが見えた。
これは私が悪いの。
いつしか口癖になってしまった言葉を罵声を浴びながら心の中で言い聞かせる。
先輩を怒らせてしまったのは私なんだ。私が招いたことなんだ。私が悪い。
先輩の指導について顧問に相談したことがある。
“うちはこれで全国に行ったんだ。この厳しさと努力で勝利を掴んだ。指導について行けないのなら辞めてしまえ”
これが顧問の言い分だった。相談にもならなかった。
他の先輩たちも同じように厳しく指導されて困難を乗り越えたと自負していた。
先輩も顧問も私の弱さを指摘する。弱い者は出て行け、と言われているようだった。
それでも、部活は辞めたくなかった。演劇に触れられるのは部活だけだった。
裏方に回されても、先輩に毎日怒られても、私が弱くても、演劇を傍で感じたかった。輝いて魅せる舞台を座席から見るのではなく、大作が出来ていくまでの練習・試行錯誤に関わりたかった。
なのに、今の私はどうだろう?
頭をオレンジ色のペンキで染めたまま、蛇口から流れる冷水でジャージを洗う私。今、どんな姿をしているのだろう?
目から落ちた涙は冷水とともに下水道へと流れる。
“何、泣いてるの”そう言ってきたのは先輩だった。1人残ってジャージを洗う私を心配してきたらしい。
“あんたさ、先生に私のこと相談したんだってね”
また怒鳴られるのかなと萎縮したけど、今度は声を荒げたりしなかった。その代わり、ため息と疲れ、呆れを混ぜた声色で話す。
“ 確かにさ、あんたにはきつく当たっているけど、それは成長して欲しいからだって、なんでわかってくれないのかなぁ。自分ばかり辛い思いしてるとか思わないでくれる?怒ってる私だって辛いんだよ”
水道の水を流したまま、聞いていた。私が悪いから、愚図な私が悪いから、聞かないといけない。
“それにさ、役者希望だんだって?まぁ気持ちはわかるよ。私もそうだったから。でもさ、あんたみたいな顔じゃ無理だから”
ハンマーで殴られた衝撃が私を襲った。意味がわからなかった。
“気づかなかったの。役者チーム、顔がいいじゃない。私たちみたいなブスは向いていないんだよ。オーディション書類で落ちたんでしょ?”
先輩が 言っているのは事実だ。数ヶ月前、結果の書類が届いた。その噂がクラスに広まったのも数ヶ月前。それを知っているのは仲の良いすずちゃんと両親、クラスの友人2人ぐらいだ。
その内の誰かが噂を流したらしい。 クラスから浮いていた私は笑い種となっていた。
わかっている。私が悪いんだってことは。色の塗り方も道具の使い方も知らない私が悪いの。私がわからないと言う度に先輩はため息を吐きながらも教えてくれる。それを2度聞いてしまう私が悪いの。
全部、愚図でとろい私が悪いの。あの時も私のミスが原因だった。
木目板に赤色を塗るはずが、オレンジ色を塗ってしまった。繰り返したミスに先輩の堪忍袋が切れた。
愚図、鈍間と怒鳴った先輩はペンキ缶を頭からかけた。
開けたばかりのペンキ缶にはオレンジの液体がなみなみと入っていて、鮮やかな液体が私の頭からジャージの袖までを染めて、黒い前髪からオレンジの水玉が垂れる。
“何度も何度も注意しているのに。なんでわかってくれないの。どこまで私を落胆させるのよ。あんたみたいな役立たずは初めてよ”
あの時の惨めな気持ちはよく覚えている。
そこにいる誰もが振り向いてしまう程の声量で叫ぶように怒鳴る。何度も私自身の評価を下げる言葉を並べた。
同級生も他の先輩も顧問も通りすがり人も多くいたけれど私と先輩を止めてはくれなかった。
オレンジの視界の隅にすずちゃんがその場から逃げるように立ち去るのが見えた。
これは私が悪いの。
いつしか口癖になってしまった言葉を罵声を浴びながら心の中で言い聞かせる。
先輩を怒らせてしまったのは私なんだ。私が招いたことなんだ。私が悪い。
先輩の指導について顧問に相談したことがある。
“うちはこれで全国に行ったんだ。この厳しさと努力で勝利を掴んだ。指導について行けないのなら辞めてしまえ”
これが顧問の言い分だった。相談にもならなかった。
他の先輩たちも同じように厳しく指導されて困難を乗り越えたと自負していた。
先輩も顧問も私の弱さを指摘する。弱い者は出て行け、と言われているようだった。
それでも、部活は辞めたくなかった。演劇に触れられるのは部活だけだった。
裏方に回されても、先輩に毎日怒られても、私が弱くても、演劇を傍で感じたかった。輝いて魅せる舞台を座席から見るのではなく、大作が出来ていくまでの練習・試行錯誤に関わりたかった。
なのに、今の私はどうだろう?
頭をオレンジ色のペンキで染めたまま、蛇口から流れる冷水でジャージを洗う私。今、どんな姿をしているのだろう?
目から落ちた涙は冷水とともに下水道へと流れる。
“何、泣いてるの”そう言ってきたのは先輩だった。1人残ってジャージを洗う私を心配してきたらしい。
“あんたさ、先生に私のこと相談したんだってね”
また怒鳴られるのかなと萎縮したけど、今度は声を荒げたりしなかった。その代わり、ため息と疲れ、呆れを混ぜた声色で話す。
“ 確かにさ、あんたにはきつく当たっているけど、それは成長して欲しいからだって、なんでわかってくれないのかなぁ。自分ばかり辛い思いしてるとか思わないでくれる?怒ってる私だって辛いんだよ”
水道の水を流したまま、聞いていた。私が悪いから、愚図な私が悪いから、聞かないといけない。
“それにさ、役者希望だんだって?まぁ気持ちはわかるよ。私もそうだったから。でもさ、あんたみたいな顔じゃ無理だから”
ハンマーで殴られた衝撃が私を襲った。意味がわからなかった。
“気づかなかったの。役者チーム、顔がいいじゃない。私たちみたいなブスは向いていないんだよ。オーディション書類で落ちたんでしょ?”
先輩が 言っているのは事実だ。数ヶ月前、結果の書類が届いた。その噂がクラスに広まったのも数ヶ月前。それを知っているのは仲の良いすずちゃんと両親、クラスの友人2人ぐらいだ。
その内の誰かが噂を流したらしい。 クラスから浮いていた私は笑い種となっていた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
合成師
盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる