糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

とある生徒の独白 2

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   熱心に指導していた先輩もため息と呆れが増えていって、周囲の人たちも私に対する期待を捨る。
   わかっている。私が悪いんだってことは。色の塗り方も道具の使い方も知らない私が悪いの。私がわからないと言う度に先輩はため息を吐きながらも教えてくれる。それを2度聞いてしまう私が悪いの。
   全部、愚図でとろい私が悪いの。あの時も私のミスが原因だった。
   木目板に赤色を塗るはずが、オレンジ色を塗ってしまった。繰り返したミスに先輩の堪忍袋が切れた。
   愚図、鈍間と怒鳴った先輩はペンキ缶を頭からかけた。
   開けたばかりのペンキ缶にはオレンジの液体がなみなみと入っていて、鮮やかな液体が私の頭からジャージの袖までを染めて、黒い前髪からオレンジの水玉が垂れる。
   “何度も何度も注意しているのに。なんでわかってくれないの。どこまで私を落胆させるのよ。あんたみたいな役立たずは初めてよ”
   あの時の惨めな気持ちはよく覚えている。
   そこにいる誰もが振り向いてしまう程の声量で叫ぶように怒鳴る。何度も私自身の評価を下げる言葉を並べた。
   同級生も他の先輩も顧問も通りすがり人も多くいたけれど私と先輩を止めてはくれなかった。
   オレンジの視界の隅にすずちゃんがその場から逃げるように立ち去るのが見えた。
   これは私が悪いの。
   いつしか口癖になってしまった言葉を罵声を浴びながら心の中で言い聞かせる。
    先輩を怒らせてしまったのは私なんだ。私が招いたことなんだ。私が悪い。
    先輩の指導について顧問に相談したことがある。
   “うちはこれで全国に行ったんだ。この厳しさと努力で勝利を掴んだ。指導について行けないのなら辞めてしまえ”
  これが顧問の言い分だった。相談にもならなかった。
   他の先輩たちも同じように厳しく指導されて困難を乗り越えたと自負していた。
   先輩も顧問も私の弱さを指摘する。弱い者は出て行け、と言われているようだった。
   それでも、部活は辞めたくなかった。演劇に触れられるのは部活だけだった。
   裏方に回されても、先輩に毎日怒られても、私が弱くても、演劇を傍で感じたかった。輝いて魅せる舞台を座席から見るのではなく、大作が出来ていくまでの練習・試行錯誤に関わりたかった。
   なのに、今の私はどうだろう?
   頭をオレンジ色のペンキで染めたまま、蛇口から流れる冷水でジャージを洗う私。今、どんな姿をしているのだろう?
   目から落ちた涙は冷水とともに下水道へと流れる。
  “何、泣いてるの”そう言ってきたのは先輩だった。1人残ってジャージを洗う私を心配してきたらしい。
   “あんたさ、先生に私のこと相談したんだってね”
   また怒鳴られるのかなと萎縮したけど、今度は声を荒げたりしなかった。その代わり、ため息と疲れ、呆れを混ぜた声色で話す。
  “ 確かにさ、あんたにはきつく当たっているけど、それは成長して欲しいからだって、なんでわかってくれないのかなぁ。自分ばかり辛い思いしてるとか思わないでくれる?怒ってる私だって辛いんだよ”
   水道の水を流したまま、聞いていた。私が悪いから、愚図な私が悪いから、聞かないといけない。
   “それにさ、役者希望だんだって?まぁ気持ちはわかるよ。私もそうだったから。でもさ、あんたみたいな顔じゃ無理だから”
   ハンマーで殴られた衝撃が私を襲った。意味がわからなかった。
   “気づかなかったの。役者チーム、顔がいいじゃない。私たちみたいなブスは向いていないんだよ。オーディション書類で落ちたんでしょ?”
   先輩が 言っているのは事実だ。数ヶ月前、結果の書類が届いた。その噂がクラスに広まったのも数ヶ月前。それを知っているのは仲の良いすずちゃんと両親、クラスの友人2人ぐらいだ。
  その内の誰かが噂を流したらしい。 クラスから浮いていた私は笑い種となっていた。
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