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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
雨に潜む 3
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「不幸自慢のつもりじゃないのよ。悲しまれたり、同情はいらないの。それにそこに入ると轢かれるわよ」
あたしとハクはすでに横断歩道を渡りきっていて、カンダタは白い一文字の上に呆然となって立っている。
そういえば、カンダタはまだあれを見ていないのよね。昨日は一日中、院内を探索していたみたいだけど、外に出るのは初めてだから。
そうなるとあたしが言った「轢かれる」は伝わっていないはず。
案の定、カンダタはそのワードの危険性も知らず、疑問符を浮かべた顔をこちらに向けている。
わざわざ忠告するのも面倒ね。丁度、来たから説明する必要もなさそう。
カンダタは何のことだか分からずに立ったまま呆けていたせいで近づくエンジン音とタイヤの擦れる音に気付くのが遅かった。
騒がしい音のほうへと顔を向けてみれば、目前に迫っていた市営バスがカンダタの視界を埋めた。
指ー本動けずに硬直したカンダタと鉄の塊が接触して、あたしの目の前でバスが通り過ぎる。
バス停はあっちみたいね。
走り去ったバスについていくようにあたしはバス停に向かう。バスと接触したカンダタはバスのタイヤに引きずられずにまだ漠然とした表情で立っていた。
カンダタは幽霊と同じ扱いになる。あたし以外に視認できる人はいなく、カンダタも物や人に触れられない。だから、走るバスの前に立っても運転手はブレーキを踏まないし、何の障害もなく走り去る。
バスが貫通する体験をしたカンダタにとっては精神的な衝撃があった。
「あれはなんだ!」
放心状態から回復したカンダタは問い詰めるような勢いで走ってきた。
「歩行者の味方、バスよ」
「中に馬がいるのか!」
「馬がいたら人は乗れないわよ」
バス停の最終尾に並ぶと前にいる主婦が怪訝な目であたしを見る。
「なら牛か!」
「生き物じゃないわよ」
カンダタの熱は冷めず、恐怖やら好奇心やらで沸騰した感情は質問となって次々に投げられる。
「呪いで動いているのか!」
「ガソリンで動いているのよ」
熱したカンダタに対してあたしは簡潔で冷めた回答をする。猿みたいに喚かれるのは気分が良くない。それにしつこい。
「中に入って大丈夫なのか!」
「静かにしてくれる?」
発行された整理券受け取り、1人用の座席に座る。バスは発進される予定時刻まで待機する。その間に利用者が次々にバスに乗る。
「平気なのか?このまま胃袋に入るんじゃないか?」
カンダタの熱は下がって落ち着きを取り戻したけれど、好奇心と恐怖は止められない。挙動不審に身体を揺らしては同じ質問を繰り返す。
「バスは生き物じゃないの。胃袋行きにはならないわよ。静かにって言ったよね?」
「けど、動くだろう。ものが勝手に動くのは生物の仕業だ」
あたしの注意も聞かないくせに自分ばっかり質問してくる。
「 先頭に座っている人の仕業よ。彼がバスを動かしてるの。わかったなら口閉じて」
「ただの老人じゃないか。もしかして妖怪なのか?」
「そうじゃなくて、ガソリンが」
「がそりんも生物なのか?」
「ああ!もう!」
しつこい。本当に耐え切れなくなって、立ち上がり声を上げる。同時にバスが発進して身構えていなかったあたしは少しだけよろめいた。
そうして、周囲の目を意識する。ハクもカンダタも周囲の目には映らない。バスに乗った人々は独り言を呟くあたしを不審者扱いの目つきで見ていた。声を上げて立ち上がったのでその目つきに驚きが混じり、あたしを凝視する。
痛い視線が至る所から降りそそがれてはさすがのあたしも気まずい。固く唇を結ぶと何事もない風を装って腰を下ろす。けれど、赤くなった顔は誤魔化せない。
「なぁ?」
カンダタもこの痛い視線に気を遣っているみたいで小声で問い掛けてくる。そもそも、こいつのせいであたしが痛い視線を浴びることになった。
あたしとハクはすでに横断歩道を渡りきっていて、カンダタは白い一文字の上に呆然となって立っている。
そういえば、カンダタはまだあれを見ていないのよね。昨日は一日中、院内を探索していたみたいだけど、外に出るのは初めてだから。
そうなるとあたしが言った「轢かれる」は伝わっていないはず。
案の定、カンダタはそのワードの危険性も知らず、疑問符を浮かべた顔をこちらに向けている。
わざわざ忠告するのも面倒ね。丁度、来たから説明する必要もなさそう。
カンダタは何のことだか分からずに立ったまま呆けていたせいで近づくエンジン音とタイヤの擦れる音に気付くのが遅かった。
騒がしい音のほうへと顔を向けてみれば、目前に迫っていた市営バスがカンダタの視界を埋めた。
指ー本動けずに硬直したカンダタと鉄の塊が接触して、あたしの目の前でバスが通り過ぎる。
バス停はあっちみたいね。
走り去ったバスについていくようにあたしはバス停に向かう。バスと接触したカンダタはバスのタイヤに引きずられずにまだ漠然とした表情で立っていた。
カンダタは幽霊と同じ扱いになる。あたし以外に視認できる人はいなく、カンダタも物や人に触れられない。だから、走るバスの前に立っても運転手はブレーキを踏まないし、何の障害もなく走り去る。
バスが貫通する体験をしたカンダタにとっては精神的な衝撃があった。
「あれはなんだ!」
放心状態から回復したカンダタは問い詰めるような勢いで走ってきた。
「歩行者の味方、バスよ」
「中に馬がいるのか!」
「馬がいたら人は乗れないわよ」
バス停の最終尾に並ぶと前にいる主婦が怪訝な目であたしを見る。
「なら牛か!」
「生き物じゃないわよ」
カンダタの熱は冷めず、恐怖やら好奇心やらで沸騰した感情は質問となって次々に投げられる。
「呪いで動いているのか!」
「ガソリンで動いているのよ」
熱したカンダタに対してあたしは簡潔で冷めた回答をする。猿みたいに喚かれるのは気分が良くない。それにしつこい。
「中に入って大丈夫なのか!」
「静かにしてくれる?」
発行された整理券受け取り、1人用の座席に座る。バスは発進される予定時刻まで待機する。その間に利用者が次々にバスに乗る。
「平気なのか?このまま胃袋に入るんじゃないか?」
カンダタの熱は下がって落ち着きを取り戻したけれど、好奇心と恐怖は止められない。挙動不審に身体を揺らしては同じ質問を繰り返す。
「バスは生き物じゃないの。胃袋行きにはならないわよ。静かにって言ったよね?」
「けど、動くだろう。ものが勝手に動くのは生物の仕業だ」
あたしの注意も聞かないくせに自分ばっかり質問してくる。
「 先頭に座っている人の仕業よ。彼がバスを動かしてるの。わかったなら口閉じて」
「ただの老人じゃないか。もしかして妖怪なのか?」
「そうじゃなくて、ガソリンが」
「がそりんも生物なのか?」
「ああ!もう!」
しつこい。本当に耐え切れなくなって、立ち上がり声を上げる。同時にバスが発進して身構えていなかったあたしは少しだけよろめいた。
そうして、周囲の目を意識する。ハクもカンダタも周囲の目には映らない。バスに乗った人々は独り言を呟くあたしを不審者扱いの目つきで見ていた。声を上げて立ち上がったのでその目つきに驚きが混じり、あたしを凝視する。
痛い視線が至る所から降りそそがれてはさすがのあたしも気まずい。固く唇を結ぶと何事もない風を装って腰を下ろす。けれど、赤くなった顔は誤魔化せない。
「なぁ?」
カンダタもこの痛い視線に気を遣っているみたいで小声で問い掛けてくる。そもそも、こいつのせいであたしが痛い視線を浴びることになった。
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