糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

雨に潜む 10

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   身体測定は20分程度で済んでしまったから時間が余ったわね。
   あたしはゆっくりとした歩調で廊下を歩きながら測定結果を改めて眺める。
   気になったのは身長。体重に対しては日ごろからの食事制限のお陰で悩みの種にはならない。しかし、身長というものは努力・工夫しても変わらない。
   ハクやカンダタと話す際、あたしは必然的に顔を上げないといけない。それがどうも気に食わない。さすがに2人ほどの高さは望まないけれど160cmは欲しいわね。
   「それはなんだ?」
   後から唐突に覗いてきたカンダタがあたしの後ろに立っていた。
   個人的な数値を知られたくて咄嗟に用紙を折り畳む。
   「カンダタには関係ないものよ。というより、どこから出てきたのよ」
   「いや、いろいろと見て回っていたら道が分からなくなって」
   「迷子になったわけね」
   「瑠璃がいてくれてよかったよ」
   「永遠に迷子になってればよかったのに」
   カンダタはあたしの皮肉を聞き流して窓を叩く雨粒を眺める。
   「ここは変なところだ。こんなに人が多いのに全員が同じ人に見える」
   「それが学校なのよ。同じ服を着て同じ授業受けて同じ人間を作っていくの」
   あたしとカンダタ以外、廊下に人の気配は無い。それは当たり前のこと。今は授業中で、そこから抜け出るのは許されない。
   この沈黙の了解が1本の廊下に絶対的な静寂を作る。
   廊下に並ぶいくつかの部屋の1室にあの放送室がある。ドアは先生たちのタックルによって外されてそこを通るだけでも室内を見ることができる。
   時間が余っているから寄り道しても怒る人はいないわね。そう思い至ったあたしは興味本位で寄ることにした。
   首吊りはなかったと語る放送室の中は平然とした空気と静かな雨音が出来ていて、流れている。あんなことがあっても放送室は使われているみたいだけれど近寄る人は少なくなっているわね。
   自殺未遂のことを知っていて中に入る私もまた物好きね。
   聞いた話では男子生徒が発見される直前、全校舎に女子生徒の独白が放送されたらしい。それはいじめを受けていた事実と悲痛・憎しみに満ちた独白で教師たちは急いで放送室へと急いだようだ。
   放送室は鍵がかけられていて数人の教師がドアをタックルして突入したところ、男子生徒が首を吊っていたという。
   「自殺だって言う人が多いみたい。けれど、あたしは違うと思うの」
   この呟きは確信のない思い込みと同等の推測だった。
   地獄の夢から目を覚ましたあたしは人為的に操られた黒い獣を想像する。次々と噛み殺された状態で見つかる遺体。彼らはここの卒業生・教師。自殺未遂の男子生徒。全員、この学校に繋がっている。
   「共通点が他にもあるのよ。皆、演劇部に所属していた。放送の独白も演劇部のことを話していた。偶然だと思える?」
   「誰かが演劇部の人たちを殺害してるってことか?」
   「どうかしらね?凶器は大きな獣らしいわよ。でも、熊や野犬の目撃情報はない」
   発見されない凶悪な獣。鈍いカンダタでも嫌な汗を流す。
   あたしの悪夢に現れた黒い獣が現世にいるかもしれない。
   「あれは地獄の話だ」
   「えぇ、そうね」
   機器が並ぶの台に置かれたラジカセを撫でる。女子生徒が録音していた独白。このラジカセで流したみたいね。
   「この怪異はハザマ側の仕業だと考えているのか」
   「そう、考えるべきだけど」
   どことなく自信のない声色。あたしは正直に考え事をカンダタに伝える。
  「辻褄が合わないのよね。ニュースで報道された事件の日付とあたしが目覚めた日」
   最初の事件は水曜日、次は木曜日。金曜日に男子生徒の自殺未遂。
   もし、これがハザマ側の仕業であたしを捕らえる為の計画だとしたら水曜日から事件に起きるのは不自然。
   だって、彼らがあたしの存在、つまり白糸と白鋏の存在を知ったのが木曜日。あたしが階段から落ちて地獄に落ちたのも木曜日。やっぱり、どう考えても辻褄が合わない。
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