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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
雨に潜む 12
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本日、最後の授業があるからと瑠璃は放送室から出ると人の行き交いが多くなった廊下を歩いていく。背筋を伸ばし、躊躇いもなく足を踏み出す姿は得体の知れない怪異の恐怖に惑わされない勇ましい姿勢をしていた。
「授業」と「学校」の仕組みはこの1日で理解した。ここの者たちは全て鐘に支配されているのだ。1つ鐘が鳴れば机と椅子に縛られて1つの鐘が鳴れば束縛から解放される。鐘1つで作用される人の動きが妙な心理に見えた。
再び、鐘が鳴り、人々は教室に吸い込まれる。教室を眺めてみると授業とやらが開始されていて1人の男が教壇に立つ。
授業というものは聞いていて飽きなかった。あれは日本史と言ったか、歴史という物語は密かに興奮して、社会や現国で現代を知れた。
しかし、知識が増えるほど虚しさが広がる。
知識を得てもそれを生かす道がないと悟ったのは誰もカンダタと目が合わないからだ。
今も、教師の前に立っても視線はカンダタをすり抜けて生徒たちに注がれる。
生徒の頭を叩いてみたり、板書する白い頁を捲ろうとしても触れられない。叩く手は感触もなく頭をすり抜けて、頁は風も起こさない。
誰も見えない、聞こえない、触れられない。地獄にあった孤独がカンダタに纏わり付いてそこに疎外感が加わる。
例えば、あの鐘。鐘が支配する学校でカンダタは縛られず、自由にどこへでも行ける。ただ、カンダタ以外の人々は生きている故に縛られる。
この世界で真の自由を得られているのはカンダタだけだった。
「生と束縛が切り離せないものなら現世で1番幸せ者は俺になるな」
死んだ男が自分に向けた皮肉を吐く。
小さな呟きは静寂に響いても聞く者はいない。
階段を上って屋上とやら行ってみる。
強くなった雨に打たれてみたいと思った。しかし、大量に降っているはずなのに、一滴の雨水もカンダタを濡らしてはくれなかった。
大きく広がる曇天さえもカンダタを疎外する。
これが死なのだ。
豪雨の中で雨に濡れない男が世界の矛盾を感じていた。
死んでいるのに意識は存在していて、意識はあるのに他者からの認識はない。カンダタはそこに立っているはずなのに雨の冷たさも風も触れられない。
どこにでも行けばいい、と瑠璃は言った。
どこに行けばいいのか。目的も記憶もないカンダタは道標もないのだ。
「いい絵になるね。雨からも疎外された男。タイトルは、透明人間なんてどうだろう」
悪天候の空にわざわざ外を歩く者はいない。授業中であり、カンダタに話しかけられる人物も限られている。
「瑠璃は協力しないと言ってるぞ」
隠すこともないとはっきりと言う。光弥は知っていたような余裕のある笑みを浮かべる。
「あの時は言い争いで終わったからさ。あんたともゆっくり話したいと思っていたんだ」
光弥は傘を差してコンクリートの上を歩く。水分を含んで布地の靴が重くなっている。
「現世に適応するためにさ器を用意したんだ。君みたいな透明人間だと色々と不便だからね」
足ばかり見ていたせいかカンダタが持つ疑問を察したらしい。
雨でさえ身体をすり抜けて黒い単衣は乾燥しているのに同じ世界線に立っているはずの光弥は世界に切り離されず、雨に濡れる。
カンダタは手を挙げて光弥の頭を叩いてみる。狙って振った手の平は後頭部をすり抜けて虚しく宙を切る。
「俺は現世の、こちら側に立っている。あんたが何をしたって痒くもないないのさ」
1日経って光弥はそれなりに冷静になっていた。自身の目的を思い出し、確固した意思を持ってカンダタの隣に立つ。
これでは挑発させて口を滑らせす作戦も効かないだろう。
「授業」と「学校」の仕組みはこの1日で理解した。ここの者たちは全て鐘に支配されているのだ。1つ鐘が鳴れば机と椅子に縛られて1つの鐘が鳴れば束縛から解放される。鐘1つで作用される人の動きが妙な心理に見えた。
再び、鐘が鳴り、人々は教室に吸い込まれる。教室を眺めてみると授業とやらが開始されていて1人の男が教壇に立つ。
授業というものは聞いていて飽きなかった。あれは日本史と言ったか、歴史という物語は密かに興奮して、社会や現国で現代を知れた。
しかし、知識が増えるほど虚しさが広がる。
知識を得てもそれを生かす道がないと悟ったのは誰もカンダタと目が合わないからだ。
今も、教師の前に立っても視線はカンダタをすり抜けて生徒たちに注がれる。
生徒の頭を叩いてみたり、板書する白い頁を捲ろうとしても触れられない。叩く手は感触もなく頭をすり抜けて、頁は風も起こさない。
誰も見えない、聞こえない、触れられない。地獄にあった孤独がカンダタに纏わり付いてそこに疎外感が加わる。
例えば、あの鐘。鐘が支配する学校でカンダタは縛られず、自由にどこへでも行ける。ただ、カンダタ以外の人々は生きている故に縛られる。
この世界で真の自由を得られているのはカンダタだけだった。
「生と束縛が切り離せないものなら現世で1番幸せ者は俺になるな」
死んだ男が自分に向けた皮肉を吐く。
小さな呟きは静寂に響いても聞く者はいない。
階段を上って屋上とやら行ってみる。
強くなった雨に打たれてみたいと思った。しかし、大量に降っているはずなのに、一滴の雨水もカンダタを濡らしてはくれなかった。
大きく広がる曇天さえもカンダタを疎外する。
これが死なのだ。
豪雨の中で雨に濡れない男が世界の矛盾を感じていた。
死んでいるのに意識は存在していて、意識はあるのに他者からの認識はない。カンダタはそこに立っているはずなのに雨の冷たさも風も触れられない。
どこにでも行けばいい、と瑠璃は言った。
どこに行けばいいのか。目的も記憶もないカンダタは道標もないのだ。
「いい絵になるね。雨からも疎外された男。タイトルは、透明人間なんてどうだろう」
悪天候の空にわざわざ外を歩く者はいない。授業中であり、カンダタに話しかけられる人物も限られている。
「瑠璃は協力しないと言ってるぞ」
隠すこともないとはっきりと言う。光弥は知っていたような余裕のある笑みを浮かべる。
「あの時は言い争いで終わったからさ。あんたともゆっくり話したいと思っていたんだ」
光弥は傘を差してコンクリートの上を歩く。水分を含んで布地の靴が重くなっている。
「現世に適応するためにさ器を用意したんだ。君みたいな透明人間だと色々と不便だからね」
足ばかり見ていたせいかカンダタが持つ疑問を察したらしい。
雨でさえ身体をすり抜けて黒い単衣は乾燥しているのに同じ世界線に立っているはずの光弥は世界に切り離されず、雨に濡れる。
カンダタは手を挙げて光弥の頭を叩いてみる。狙って振った手の平は後頭部をすり抜けて虚しく宙を切る。
「俺は現世の、こちら側に立っている。あんたが何をしたって痒くもないないのさ」
1日経って光弥はそれなりに冷静になっていた。自身の目的を思い出し、確固した意思を持ってカンダタの隣に立つ。
これでは挑発させて口を滑らせす作戦も効かないだろう。
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