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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
雨に潜む 14
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帰路を歩く瑠璃は傘を差して悟られないようカンダタに目を向ける。
放送室で別れた時と風貌は変わらない。だが、顔に落ちた影が声もなく語っている。
瑠璃は気づかれないよう傘で自身の顔を隠しているようだが、カンダタにはその仕草が見て取れた。
カンダタは視線を合わせず、瑠璃を視界の隅に置いたまま目前にあるコンクリートの道を見据える。
瑠璃は雲るカンダタの顔を探る目つきで見ていた。だが、すぐに目の前の帰路へと視線を戻す。彼女にとってはカンダタの心情の変化などどうでもいいのだ。ただ、風景の1つが変わった。それだけなのだと認識する。
行く道を見据えていたカンダタの目は雨に濡れ、黒く染められたコンクリートを見ていなかった。
カンダタが視認にしようとしていたのは自身の記憶だった。
地獄に落ちる前の記憶、死ぬ前の自分。赤い着物の君を求めて記憶の海を探ろうとしても、頭にあるのは浅瀬しかなく、潜って探るべき場所もなかった。探して見つかったのは曖昧なものばかりだ。蔑んだ目と春のようにぼやけた笑顔。
生活や会話、生業といったものは手がかりすら見つからない。光弥が言っていた孤独がカンダタに乗しかかる。
「カンダタ!」
怒鳴って呼ばれた名前にカンダタはやっと目前にあるそれに気付く。
黒く丸いそれは透明な紙包みにくるまれており、それを差し出した瑠璃は不機嫌に顔を歪める。
「いらないって言うなら首を動かすぐらいのことはしてよ」
何度も呼びかけていたようだ。その間、上の空だったカンダタは目の前にあるそれに戸惑う。
「饅頭よ。それも忘れたの?」
「そういうわけじゃ」
瑠璃が気まぐれに立ち寄った一軒家。それはコンビニという名称であり、食品から雑貨まで多種多様の品々を取り扱う棚商いであると学んでいた。右も左もわからない時代だが、現世で身を置いててから3日目、それなりのものを学んでいた。
なので、引き戸が勝手に開いても巨大な鉄の箱が道路を走っても驚くことはしなくなった。饅頭に包まれたビニール袋との邂逅もこれが初めてだったが、カンダタは動じなかった。
カンダタが戸惑っていたのは饅頭そのものではない。
「くれるのか?」
彼女の性格からしてありえない行動だった。瑠璃が人の為に代価を払う、と考えられなかった。
「何よ、あたしが饅頭1つをケチる人に見えるの?」
「人にものを与える性格してないだろ」
「あたしだって一時の哀れみを与える時もあるのよ。募金箱に小銭を入れたりしてね。あたしの隣で雨に打たれた可哀想な浮浪者がいたから80円程度の食物を分けてあげようって思ったのよ」
カンダタは饅頭を受け取り、瑠璃は自分用に買った甘い蒸しパンを頬張る。
つるつるとした包みの慣れない肌触りに印刷された文字。眉を寄せて睨み合う。
瑠璃はあることに気付いてカンダタから饅頭を取る。
「このぐらいできるようになってよ」
そんな小声を呟きながら透明なビニールを剥ぐとカンダタに戻す。
「ありがとう」
一応、礼を言うもそれを口にするか迷っていた。瑠璃の様子を伺ってみると、彼女は笑みを浮かべながら蒸しパンを食す。
「せっかくの人の好意を無下にする気?」
一向に食べようとしないカンダタだったが、食物を無駄にしてはいけないという心情が芽生えて黒く小さなそれを1口で放り込む。
味はしなかった。いくら噛んでも、舌であんこや皮を転がして見ても、感じるのは無そのものだ。
固体を噛む行為に意味は無い。生きる為ではなく、食を嗜むためでもない。噛むだけの虚しい行為。
「感想ないの?礼 1つで終わり?」
饅頭の感想求められても無味は無味なのだ。
「美味しいよ」
脆弱で虚しい笑顔で隠された嘘であった。カンダタは敢えてそう答えた。
瑠璃は気にくわなそうに鼻を鳴らし、つまらないと呟きながら白いビニール袋をコンビニのゴミ箱に捨てる。
放送室で別れた時と風貌は変わらない。だが、顔に落ちた影が声もなく語っている。
瑠璃は気づかれないよう傘で自身の顔を隠しているようだが、カンダタにはその仕草が見て取れた。
カンダタは視線を合わせず、瑠璃を視界の隅に置いたまま目前にあるコンクリートの道を見据える。
瑠璃は雲るカンダタの顔を探る目つきで見ていた。だが、すぐに目の前の帰路へと視線を戻す。彼女にとってはカンダタの心情の変化などどうでもいいのだ。ただ、風景の1つが変わった。それだけなのだと認識する。
行く道を見据えていたカンダタの目は雨に濡れ、黒く染められたコンクリートを見ていなかった。
カンダタが視認にしようとしていたのは自身の記憶だった。
地獄に落ちる前の記憶、死ぬ前の自分。赤い着物の君を求めて記憶の海を探ろうとしても、頭にあるのは浅瀬しかなく、潜って探るべき場所もなかった。探して見つかったのは曖昧なものばかりだ。蔑んだ目と春のようにぼやけた笑顔。
生活や会話、生業といったものは手がかりすら見つからない。光弥が言っていた孤独がカンダタに乗しかかる。
「カンダタ!」
怒鳴って呼ばれた名前にカンダタはやっと目前にあるそれに気付く。
黒く丸いそれは透明な紙包みにくるまれており、それを差し出した瑠璃は不機嫌に顔を歪める。
「いらないって言うなら首を動かすぐらいのことはしてよ」
何度も呼びかけていたようだ。その間、上の空だったカンダタは目の前にあるそれに戸惑う。
「饅頭よ。それも忘れたの?」
「そういうわけじゃ」
瑠璃が気まぐれに立ち寄った一軒家。それはコンビニという名称であり、食品から雑貨まで多種多様の品々を取り扱う棚商いであると学んでいた。右も左もわからない時代だが、現世で身を置いててから3日目、それなりのものを学んでいた。
なので、引き戸が勝手に開いても巨大な鉄の箱が道路を走っても驚くことはしなくなった。饅頭に包まれたビニール袋との邂逅もこれが初めてだったが、カンダタは動じなかった。
カンダタが戸惑っていたのは饅頭そのものではない。
「くれるのか?」
彼女の性格からしてありえない行動だった。瑠璃が人の為に代価を払う、と考えられなかった。
「何よ、あたしが饅頭1つをケチる人に見えるの?」
「人にものを与える性格してないだろ」
「あたしだって一時の哀れみを与える時もあるのよ。募金箱に小銭を入れたりしてね。あたしの隣で雨に打たれた可哀想な浮浪者がいたから80円程度の食物を分けてあげようって思ったのよ」
カンダタは饅頭を受け取り、瑠璃は自分用に買った甘い蒸しパンを頬張る。
つるつるとした包みの慣れない肌触りに印刷された文字。眉を寄せて睨み合う。
瑠璃はあることに気付いてカンダタから饅頭を取る。
「このぐらいできるようになってよ」
そんな小声を呟きながら透明なビニールを剥ぐとカンダタに戻す。
「ありがとう」
一応、礼を言うもそれを口にするか迷っていた。瑠璃の様子を伺ってみると、彼女は笑みを浮かべながら蒸しパンを食す。
「せっかくの人の好意を無下にする気?」
一向に食べようとしないカンダタだったが、食物を無駄にしてはいけないという心情が芽生えて黒く小さなそれを1口で放り込む。
味はしなかった。いくら噛んでも、舌であんこや皮を転がして見ても、感じるのは無そのものだ。
固体を噛む行為に意味は無い。生きる為ではなく、食を嗜むためでもない。噛むだけの虚しい行為。
「感想ないの?礼 1つで終わり?」
饅頭の感想求められても無味は無味なのだ。
「美味しいよ」
脆弱で虚しい笑顔で隠された嘘であった。カンダタは敢えてそう答えた。
瑠璃は気にくわなそうに鼻を鳴らし、つまらないと呟きながら白いビニール袋をコンビニのゴミ箱に捨てる。
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