123 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
鬼ごっこ 5
しおりを挟む
清音は顔を俯かせて口を閉じる。カンダタが考えていたよりも深い事情があるようだ。清音はカンダタを一瞥するとしばらく思い耽り、そして重い唇を開く。
「幽霊のあなたなら信じてくれるかもしれませんね。私、見たんです。人を咬み殺す獣を」
「それは」
心臓の脈が早くなった。それは瑠璃との会話で話題になったものだ。目撃されていない獣。大きな爪と牙の跡。この怪事件を結びつけるものを2人は知っている。
カンダタは適切な説明ができる自信がなかった。清音に鬼だと説明しても伝わるだろうか。だが、意外にもそれを口にしたのは彼女からだった。
「ケイは鬼だと言っていました」
鬼を知っていた。ケイという、カンダタも瑠璃も知らない人物が話していたようだ。そのケイは何者か、ハザマ側のものか、清音はどこまで知っているのか、問いつめたい衝動を抑え、カンダタは黙って話を聞く。
「先週の木曜日のことです。ケイを追いかけてそれで」
「あの事件を目撃したのか。ケイは何者なんだ?」
つい衝動抑えきれずに話を遮ってしまう。
「えっと、猫です黒猫」
猫?さっき「ケイが言っていた」と話した。猫が喋ったのか?
「その、言葉の前後が合わないようだが、ケイは猫なのか?」
「はい。喋る猫です」
清音は当然のように答える。
「カンダタさんも幽霊ですし猫が喋っても不思議じゃないですよね」
何も言えなくなってしまう。確かにカンダタは幽霊である。自覚もある。だが、喋る猫は対面したことがない。彼女は猫又を飼っているのか。
「あの、大丈夫ですか?」
唖然となってしまったカンダタは清音の話を聞いていなかった。
そうしている間にも部活棟の渡り廊下に来ていた。
「悪い。続きを聞くよ」
「ええ、それで」
そう言いながら渡り廊下の扉を開けようとする。しかし、押して動くはずの扉が開かない。清音は扉をカタカタと鳴らしてはドアノブを揺らす。
「どうした?」
「ドアが開かないんです。鍵もかかっていないのに」
焦る清音はドアノブを押して引いてを繰り返す。外出を許さないドアは1㎜も動かない。
カンダタは扉に手を当ててみる。普段ならすり抜けて外の空気に触れるのだが、幽体である手は鉄の扉に当たる。当たってしまう。カンダタでさえ外に出れない。
それだけはなかった。雨音がしない。
窓越しからは雨の雫が水溜りの上で跳ねて波紋を混じり合わせているのにその音がしない。世界を遮断されているような錯覚を起こす。
「なんで!窓も開かないの!」
扉を諦めた清音は窓の鍵を開けようと試みるも硬く重くなった鍵は岩のように動じない。
閉じ込められた。そうした事実が清音を恐慌させようとしていた。
「外に出れないだけだ。しばらくすれば開く」
原因は不明だが、まずは清音を落ち着かせるべきカンダタへ出来るだけ優しく話しかける。
その声かけは空回りして、清音は気休めの言葉を振り払う。
「ケイがいったいたんです。鬼がいるって」
「いるって、どこに?」
切迫した彼女から悟る。鬼が校内にいるのだ。心臓が跳ね上がり身体が硬直するほどの寒気は地獄から脱出した時以来だ。
「それもケイという奴が教えたのか?」
清音は頷く。
「ケイは鼻が利くんです。それで、糸と鋏を探しているみたいで。さっきまで一緒にいたんですけど、糸と鬼の匂いを同時に嗅ぎとって」
「瑠璃が?帰ったんじゃなかったのか?」
食い違う説明に思わず声を張り上げる。対して清音は怪訝な表情を浮かべる。
「どうして、彼女の名前が?まさか、ケイが探していたのって」
清音にあった謎が1つ解けようとしていた。その|
最中《さなか》に校内の静寂を裂いて響いた鐘が平穏の終わりを告げた。
「チャイム?鳴る時間じゃないのに」
鐘の役目はもう終わってる。にも関わらず響く鐘は兆しを告げる。
「幽霊のあなたなら信じてくれるかもしれませんね。私、見たんです。人を咬み殺す獣を」
「それは」
心臓の脈が早くなった。それは瑠璃との会話で話題になったものだ。目撃されていない獣。大きな爪と牙の跡。この怪事件を結びつけるものを2人は知っている。
カンダタは適切な説明ができる自信がなかった。清音に鬼だと説明しても伝わるだろうか。だが、意外にもそれを口にしたのは彼女からだった。
「ケイは鬼だと言っていました」
鬼を知っていた。ケイという、カンダタも瑠璃も知らない人物が話していたようだ。そのケイは何者か、ハザマ側のものか、清音はどこまで知っているのか、問いつめたい衝動を抑え、カンダタは黙って話を聞く。
「先週の木曜日のことです。ケイを追いかけてそれで」
「あの事件を目撃したのか。ケイは何者なんだ?」
つい衝動抑えきれずに話を遮ってしまう。
「えっと、猫です黒猫」
猫?さっき「ケイが言っていた」と話した。猫が喋ったのか?
「その、言葉の前後が合わないようだが、ケイは猫なのか?」
「はい。喋る猫です」
清音は当然のように答える。
「カンダタさんも幽霊ですし猫が喋っても不思議じゃないですよね」
何も言えなくなってしまう。確かにカンダタは幽霊である。自覚もある。だが、喋る猫は対面したことがない。彼女は猫又を飼っているのか。
「あの、大丈夫ですか?」
唖然となってしまったカンダタは清音の話を聞いていなかった。
そうしている間にも部活棟の渡り廊下に来ていた。
「悪い。続きを聞くよ」
「ええ、それで」
そう言いながら渡り廊下の扉を開けようとする。しかし、押して動くはずの扉が開かない。清音は扉をカタカタと鳴らしてはドアノブを揺らす。
「どうした?」
「ドアが開かないんです。鍵もかかっていないのに」
焦る清音はドアノブを押して引いてを繰り返す。外出を許さないドアは1㎜も動かない。
カンダタは扉に手を当ててみる。普段ならすり抜けて外の空気に触れるのだが、幽体である手は鉄の扉に当たる。当たってしまう。カンダタでさえ外に出れない。
それだけはなかった。雨音がしない。
窓越しからは雨の雫が水溜りの上で跳ねて波紋を混じり合わせているのにその音がしない。世界を遮断されているような錯覚を起こす。
「なんで!窓も開かないの!」
扉を諦めた清音は窓の鍵を開けようと試みるも硬く重くなった鍵は岩のように動じない。
閉じ込められた。そうした事実が清音を恐慌させようとしていた。
「外に出れないだけだ。しばらくすれば開く」
原因は不明だが、まずは清音を落ち着かせるべきカンダタへ出来るだけ優しく話しかける。
その声かけは空回りして、清音は気休めの言葉を振り払う。
「ケイがいったいたんです。鬼がいるって」
「いるって、どこに?」
切迫した彼女から悟る。鬼が校内にいるのだ。心臓が跳ね上がり身体が硬直するほどの寒気は地獄から脱出した時以来だ。
「それもケイという奴が教えたのか?」
清音は頷く。
「ケイは鼻が利くんです。それで、糸と鋏を探しているみたいで。さっきまで一緒にいたんですけど、糸と鬼の匂いを同時に嗅ぎとって」
「瑠璃が?帰ったんじゃなかったのか?」
食い違う説明に思わず声を張り上げる。対して清音は怪訝な表情を浮かべる。
「どうして、彼女の名前が?まさか、ケイが探していたのって」
清音にあった謎が1つ解けようとしていた。その|
最中《さなか》に校内の静寂を裂いて響いた鐘が平穏の終わりを告げた。
「チャイム?鳴る時間じゃないのに」
鐘の役目はもう終わってる。にも関わらず響く鐘は兆しを告げる。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる