糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

鬼ごっこ 5

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   清音は顔を俯かせて口を閉じる。カンダタが考えていたよりも深い事情があるようだ。清音はカンダタを一瞥するとしばらく思い耽り、そして重い唇を開く。
   「幽霊のあなたなら信じてくれるかもしれませんね。私、見たんです。人を咬み殺す獣を」      
   「それは」 
   心臓の脈が早くなった。それは瑠璃との会話で話題になったものだ。目撃されていない獣。大きな爪と牙の跡。この怪事件を結びつけるものを2人は知っている。
   カンダタは適切な説明ができる自信がなかった。清音に鬼だと説明しても伝わるだろうか。だが、意外にもそれを口にしたのは彼女からだった。
   「ケイは鬼だと言っていました」
   鬼を知っていた。ケイという、カンダタも瑠璃も知らない人物が話していたようだ。そのケイは何者か、ハザマ側のものか、清音はどこまで知っているのか、問いつめたい衝動を抑え、カンダタは黙って話を聞く。
   「先週の木曜日のことです。ケイを追いかけてそれで」
   「あの事件を目撃したのか。ケイは何者なんだ?」
   つい衝動抑えきれずに話を遮ってしまう。
   「えっと、猫です黒猫」
   猫?さっき「ケイが言っていた」と話した。猫が喋ったのか?
   「その、言葉の前後が合わないようだが、ケイは猫なのか?」
   「はい。喋る猫です」
   清音は当然のように答える。
   「カンダタさんも幽霊ですし猫が喋っても不思議じゃないですよね」
   何も言えなくなってしまう。確かにカンダタは幽霊である。自覚もある。だが、喋る猫は対面したことがない。彼女は猫又を飼っているのか。
   「あの、大丈夫ですか?」
   唖然となってしまったカンダタは清音の話を聞いていなかった。
   そうしている間にも部活棟の渡り廊下に来ていた。
   「悪い。続きを聞くよ」
   「ええ、それで」
   そう言いながら渡り廊下の扉を開けようとする。しかし、押して動くはずの扉が開かない。清音は扉をカタカタと鳴らしてはドアノブを揺らす。
   「どうした?」
   「ドアが開かないんです。鍵もかかっていないのに」 
   焦る清音はドアノブを押して引いてを繰り返す。外出を許さないドアは1㎜も動かない。
   カンダタは扉に手を当ててみる。普段ならすり抜けて外の空気に触れるのだが、幽体である手は鉄の扉に当たる。当たってしまう。カンダタでさえ外に出れない。
   それだけはなかった。雨音がしない。
   窓越しからは雨の雫が水溜りの上で跳ねて波紋を混じり合わせているのにその音がしない。世界を遮断されているような錯覚を起こす。
   「なんで!窓も開かないの!」
   扉を諦めた清音は窓の鍵を開けようと試みるも硬く重くなった鍵は岩のように動じない。
   閉じ込められた。そうした事実が清音を恐慌させようとしていた。
  「外に出れないだけだ。しばらくすれば開く」
   原因は不明だが、まずは清音を落ち着かせるべきカンダタへ出来るだけ優しく話しかける。
   その声かけは空回りして、清音は気休めの言葉を振り払う。
   「ケイがいったいたんです。鬼がいるって」
   「いるって、どこに?」
   切迫した彼女から悟る。鬼が校内にいるのだ。心臓が跳ね上がり身体が硬直するほどの寒気は地獄から脱出した時以来だ。
   「それもケイという奴が教えたのか?」
   清音は頷く。
   「ケイは鼻が利くんです。それで、糸と鋏を探しているみたいで。さっきまで一緒にいたんですけど、糸と鬼の匂いを同時に嗅ぎとって」
   「瑠璃が?帰ったんじゃなかったのか?」
   食い違う説明に思わず声を張り上げる。対して清音は怪訝な表情を浮かべる。
   「どうして、彼女の名前が?まさか、ケイが探していたのって」
   清音にあった謎が1つ解けようとしていた。その|
最中《さなか》に校内の静寂を裂いて響いた鐘が平穏の終わりを告げた。
   「チャイム?鳴る時間じゃないのに」
   鐘の役目はもう終わってる。にも関わらず響く鐘は兆しを告げる。
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