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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
鬼ごっこ 14
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すみれ先輩は今も私に微笑んでくれている。私が信じてあげるべきものはなんだろう。罪人のカンダタさん?微笑むすみれ先輩?
そしてもう1人。
西棟の非常出入り口の前で長野先生が私たちを待っていた。先生の手には工具箱と小型の電動丸ノコギリがあった。
「やっぱり、彼女も連れてきたんだね。どうするのか決めたかい?」
「それは話を聞いてもらってからにします」
「そうか、ではまず彼を校庭まで持っていこうか。真ん中あたりがいいかな」
すみれ先輩が短い返事をして、私たちは上履きのまま雨で濡れた泥当然の地に足を踏み入れる。三日月が浮かぶ雨は静寂の学校に潜む矛盾を表現しているようでどこか不気味だった。
「長野先生も計画に加担しているんですか?」
私は問いかける。カウンセリングの時と変わりのない長野先生は鬼を目の前にしても淡々と歩く。
「むしろ、先生が主犯格よ。先生が提案して計画を企て、私に能力をくれた。そして私が実行するの」
すみれ先輩が代わりに答える。
「清音の思っている通りよ。こんなの道理に外れてる。長野先生は先生と言うべきじゃない。でもね、感謝はしているのよ。例え先生にとって私は道具の1つに過ぎなかったとしても」
「そんな、長野先生は」
「真実だよ。僕は教師と呼べる人柄をしていない」
すみれ先輩に教師としての立場を非難されても長野先生の態度は変わらない。月の光が顔の明暗をくっきりと分けて、静かに笑う彼がなんだか怖く感じた。
「ここら辺でいいかな」
長野先生が立ち止まると鬼にも立ち止まり、カンダタさんを地面に捨てる。ゴミを扱うような乱雑さ。地面に軽く叩かれたから身体を1回バウンドさせた。
「うつ伏せがいいかな」
先生が1つの要望を出すと鬼の手がカンダタさんを裏返す。
なんて声をかけるべきなのかな。長野先生が工具箱を開いて作業を始めているし、すみれ先輩は黙ったまま作業を見守る。状況が掴めず、疑問ばかりが浮かんでいるのは私だけ。
「光弥に頼んだプログラムは間に合わなかったな」
「魂のプログラム、ですよね。それがないと計画に支障が出るんですか」
「そうだね。考えないといけないね」
長野先生は大きめのハサミを手に取ると襟から腰あたりまで鈍色の刃がカンダタさんの黒衣を裂く。次に長野先生は電動丸ノコギリのスイッチを入れる。ギザギザの丸い刃が高速回転を始めた。
彼は笑顔で皮膚に刃をたて、うなじから切り込む。
私は慄き、両手で口を塞ぐ。笑顔の長野先生、沈黙を守るすみれ先輩。これを異常だと思うのは私だけ?
電動ノコギリが皮を裂く。校庭に響く不快な音。なのに、私を支配していたのは静寂。私と2人の間にいる溝が広がり、そこから訪れる広大な静寂に脚が竦む。
「起因は私にあるかもしれない」
電動ノコギリの音と静寂の中ですみれ先輩が思いの心境を語る。
「いくつもの些細なことが重なって、膨らんでいって、気がつけば手に負えなくなっていた。でも、誰も止めてくれなかった」
長野先生はスイッチを切ると赤くなった切り口に10本の指を入れて皮を剥ぐ。
「自分は悪くない、何もしてないって、私を無視するようになった。腫れ物扱いみたいね」
剥がれた皮膚が覆っていたのは筋肉と脊椎。
「清音も同じ気持ちなんでしょ?平然とするあいつらを許せる?」
「それは」
長野先生は邪魔な筋肉を小道具で掻き出して、脊椎だけを残す。
「あの山崎が死んだ時、本当はどう思った?」
「どうして、山崎さんのことを?もしかして、彼女も?」
「ええ、そうよ。私がやったの。清音を助けたかったの。スカッとしたでしょ?」
そしてもう1人。
西棟の非常出入り口の前で長野先生が私たちを待っていた。先生の手には工具箱と小型の電動丸ノコギリがあった。
「やっぱり、彼女も連れてきたんだね。どうするのか決めたかい?」
「それは話を聞いてもらってからにします」
「そうか、ではまず彼を校庭まで持っていこうか。真ん中あたりがいいかな」
すみれ先輩が短い返事をして、私たちは上履きのまま雨で濡れた泥当然の地に足を踏み入れる。三日月が浮かぶ雨は静寂の学校に潜む矛盾を表現しているようでどこか不気味だった。
「長野先生も計画に加担しているんですか?」
私は問いかける。カウンセリングの時と変わりのない長野先生は鬼を目の前にしても淡々と歩く。
「むしろ、先生が主犯格よ。先生が提案して計画を企て、私に能力をくれた。そして私が実行するの」
すみれ先輩が代わりに答える。
「清音の思っている通りよ。こんなの道理に外れてる。長野先生は先生と言うべきじゃない。でもね、感謝はしているのよ。例え先生にとって私は道具の1つに過ぎなかったとしても」
「そんな、長野先生は」
「真実だよ。僕は教師と呼べる人柄をしていない」
すみれ先輩に教師としての立場を非難されても長野先生の態度は変わらない。月の光が顔の明暗をくっきりと分けて、静かに笑う彼がなんだか怖く感じた。
「ここら辺でいいかな」
長野先生が立ち止まると鬼にも立ち止まり、カンダタさんを地面に捨てる。ゴミを扱うような乱雑さ。地面に軽く叩かれたから身体を1回バウンドさせた。
「うつ伏せがいいかな」
先生が1つの要望を出すと鬼の手がカンダタさんを裏返す。
なんて声をかけるべきなのかな。長野先生が工具箱を開いて作業を始めているし、すみれ先輩は黙ったまま作業を見守る。状況が掴めず、疑問ばかりが浮かんでいるのは私だけ。
「光弥に頼んだプログラムは間に合わなかったな」
「魂のプログラム、ですよね。それがないと計画に支障が出るんですか」
「そうだね。考えないといけないね」
長野先生は大きめのハサミを手に取ると襟から腰あたりまで鈍色の刃がカンダタさんの黒衣を裂く。次に長野先生は電動丸ノコギリのスイッチを入れる。ギザギザの丸い刃が高速回転を始めた。
彼は笑顔で皮膚に刃をたて、うなじから切り込む。
私は慄き、両手で口を塞ぐ。笑顔の長野先生、沈黙を守るすみれ先輩。これを異常だと思うのは私だけ?
電動ノコギリが皮を裂く。校庭に響く不快な音。なのに、私を支配していたのは静寂。私と2人の間にいる溝が広がり、そこから訪れる広大な静寂に脚が竦む。
「起因は私にあるかもしれない」
電動ノコギリの音と静寂の中ですみれ先輩が思いの心境を語る。
「いくつもの些細なことが重なって、膨らんでいって、気がつけば手に負えなくなっていた。でも、誰も止めてくれなかった」
長野先生はスイッチを切ると赤くなった切り口に10本の指を入れて皮を剥ぐ。
「自分は悪くない、何もしてないって、私を無視するようになった。腫れ物扱いみたいね」
剥がれた皮膚が覆っていたのは筋肉と脊椎。
「清音も同じ気持ちなんでしょ?平然とするあいつらを許せる?」
「それは」
長野先生は邪魔な筋肉を小道具で掻き出して、脊椎だけを残す。
「あの山崎が死んだ時、本当はどう思った?」
「どうして、山崎さんのことを?もしかして、彼女も?」
「ええ、そうよ。私がやったの。清音を助けたかったの。スカッとしたでしょ?」
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