160 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
蜘蛛の脚 10
しおりを挟む
もし、蝶男にバレているとしたらどこまで見透かしているのかしら。
「ゆっくり話がしたかったのよ。紅茶のこととかね」
蔦の感触はまだある。蝶男とあたしは互いに勘ぐりをする。
蝶男の関心があたしに向いたのなら時間稼ぎはあたしが担う。
「ああ、そうそう。すっかり忘れていたよ」
蝶男はあたしの顎を乱雑に掴むと引き寄せて、右、左に交互に顔を向かせる。
「この新薬でも駄目だったか。うまくいかないな。あと試していないのは」
独り言をぽつり、ぽつりと呟いてあたしの顔、首筋を研究者の目でじっくりと観察する。
合図を待たないで、カッターで切りつけてやりたい。
湧いてくる殺意を抑えて、カッターを悟られないように努める。
蝶男の手は顎から離さず、あたしの目線は右左へと動かされる。
そうして、自由の効かないあたしの視界はカンダタとすみれを入れる。
カンダタは内にある黒い殺意と葛藤して、あれほど喚いていたすみれは静かになっている。
その原因は身体に変化が起きていたからだ。黒蝶の模様が肌に浮き出て、千切れた片腕から緑色の触手が伸びていた。触手にはパッションフラワーと大きな葉が生えていた。もしかして、あれもパッションフルーツの一部?
あたしが飲んだ紅茶は黒蝶化させるものだった。すみれにも清音にも同じものを出していたのなら、カンダタと同じ怪物になるのは必然ね。
すみれは人とは思えない獣のような雄叫びをあげると蔦を自在に操って、跨るカンダタを絡ませ、宙へと放り出す。カンダタは指揮台の上に落ちる。
背後で起こった出来事に蝶男は振り返り、あたしから手を放す。同時に、手首に巻いてあった。蔦の感触がなくなった。ケイたちがやり遂げたみたいね。
「蝶男!」
あたしは叫んだ。呼ばれた蝶男は視線を戻す。彼の意識があたしに向いたところで光弥がカッターを振りかざす。
蝶男の視界の上で光弥は額から目を切りつけようとしていた。小さな刃が額の肌と接触した瞬間、あたしは蝶男の懐をかいくぐり、怪物同士の戦いに乱入しようとしていた。
すみれは身体を起き上がらせると、自分を襲ったカンダタではなくあたしへと向き直る。
破壊された片腕はもう人としての肌や骨、血の欠片もなく、緑と花が犇めく怪物の触手となっていた。
「さぁあああづかああああ」
理性まで消えたすみれは回らない舌であたしの名前に怒りを込めて叫ぶ。
しっかりとした発音ではないものの苗字を呼ばれるのは腹が立つ。でも、今の彼女にそれを言っても無駄ね。あたしも相手にしていられない。
あたしはカンダタが落ちた指揮台へと真っ直ぐに走る。背を向けて走るあたしを捉えようと蔦を伸ばす。
すみれに捕まっては目的が果たせない。だから、あたしは指示を出した。
「ハク!投げて!」
白い腕にあたしの両足が乗る。地を這ってくる蔦から逃れ、カンダタを目指してあたしを投げる。
蔦に捕まらず、短略する為に出した指示。焦っていたからか忘れていた。ハクは力加減が下手くそだった。
「ゆっくり話がしたかったのよ。紅茶のこととかね」
蔦の感触はまだある。蝶男とあたしは互いに勘ぐりをする。
蝶男の関心があたしに向いたのなら時間稼ぎはあたしが担う。
「ああ、そうそう。すっかり忘れていたよ」
蝶男はあたしの顎を乱雑に掴むと引き寄せて、右、左に交互に顔を向かせる。
「この新薬でも駄目だったか。うまくいかないな。あと試していないのは」
独り言をぽつり、ぽつりと呟いてあたしの顔、首筋を研究者の目でじっくりと観察する。
合図を待たないで、カッターで切りつけてやりたい。
湧いてくる殺意を抑えて、カッターを悟られないように努める。
蝶男の手は顎から離さず、あたしの目線は右左へと動かされる。
そうして、自由の効かないあたしの視界はカンダタとすみれを入れる。
カンダタは内にある黒い殺意と葛藤して、あれほど喚いていたすみれは静かになっている。
その原因は身体に変化が起きていたからだ。黒蝶の模様が肌に浮き出て、千切れた片腕から緑色の触手が伸びていた。触手にはパッションフラワーと大きな葉が生えていた。もしかして、あれもパッションフルーツの一部?
あたしが飲んだ紅茶は黒蝶化させるものだった。すみれにも清音にも同じものを出していたのなら、カンダタと同じ怪物になるのは必然ね。
すみれは人とは思えない獣のような雄叫びをあげると蔦を自在に操って、跨るカンダタを絡ませ、宙へと放り出す。カンダタは指揮台の上に落ちる。
背後で起こった出来事に蝶男は振り返り、あたしから手を放す。同時に、手首に巻いてあった。蔦の感触がなくなった。ケイたちがやり遂げたみたいね。
「蝶男!」
あたしは叫んだ。呼ばれた蝶男は視線を戻す。彼の意識があたしに向いたところで光弥がカッターを振りかざす。
蝶男の視界の上で光弥は額から目を切りつけようとしていた。小さな刃が額の肌と接触した瞬間、あたしは蝶男の懐をかいくぐり、怪物同士の戦いに乱入しようとしていた。
すみれは身体を起き上がらせると、自分を襲ったカンダタではなくあたしへと向き直る。
破壊された片腕はもう人としての肌や骨、血の欠片もなく、緑と花が犇めく怪物の触手となっていた。
「さぁあああづかああああ」
理性まで消えたすみれは回らない舌であたしの名前に怒りを込めて叫ぶ。
しっかりとした発音ではないものの苗字を呼ばれるのは腹が立つ。でも、今の彼女にそれを言っても無駄ね。あたしも相手にしていられない。
あたしはカンダタが落ちた指揮台へと真っ直ぐに走る。背を向けて走るあたしを捉えようと蔦を伸ばす。
すみれに捕まっては目的が果たせない。だから、あたしは指示を出した。
「ハク!投げて!」
白い腕にあたしの両足が乗る。地を這ってくる蔦から逃れ、カンダタを目指してあたしを投げる。
蔦に捕まらず、短略する為に出した指示。焦っていたからか忘れていた。ハクは力加減が下手くそだった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる