糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
181 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

時計草 13

しおりを挟む
   一方で清音は緊張の糸が切れたのだろう。猫を降ろして、角によると血の鉄と果実の甘臭さに酔ったのか吐き出していた。
   「で、頼りになるナイトはどうしたわけ?見殺し?」
   瑠璃が清音に言う。吐き気に苦しめながら清音は反論する。
   「まだ生きてるわ」
   「なら、未遂ね」
   「違う!」
   「いいから、2人とも静かに」
   怒鳴る清音にカンダタは焦りを覚え、抑えた声量で尚且つ強かな口調で警告する。
   「どおおおおこおおおだあああ!うら、うらあああぎりもおおお!」
   カンダタが警告を出さずとも植物人間の怒声でいやでも3人は黙る。彼女はまだカンダタたちを見つけていないらしい。
   「刀は?落ちていたはずよ」
   瑠璃は小声でカンダタに問いかける。確かにケイがいたのなら刀があったはずだが、清音を優先に行動していたので、そこまでの余裕はなかった。
   「あの状況だったんだ。探すのも無理だ」
   「その役立たず無視すれば良かったじゃない」
   「瑠璃、さっき君は清音を人殺しだと非難した。なのに、それと同等の発言は許すのか?」
   「何よ、嘆いて喚くだけの人なんて死んでも構いわよ。それにゲロ臭いわ」
   これには清音も思うところがあるらしく、顔を俯かせる。
   瑠璃が教室のカーテンをほんの少し開けて、桜尾  すみれに気付れないように体育館の中を見渡す。その間に清音を励まそうかと考えるが、乏しい頭では元気付ける言葉が浮かばない。そもそも彼女には嫌われているのだ。何を言っても彼の言葉は届かないだろう。
   「刀があったわ」
   その窓からは体育館がよく見えるらしい。瑠璃は月光で白く反射する刀を発見する。
   「離れたところにあるわね」
   「俺が行く」
   「1人で?頼りにならないくせに、よく言えるたわね」
   「白鋏があれば」
   「すぐ返してくれるんじゃなかった?」
   「ま、待って。その刀でどうする気なの?」
   どんどんと話を進めていく中で清音が慌てだす。カンダタたちの会話でその真意を掴んでいた。
   「わかりきってることわざわざ聞かないでくれる?」
   「だって、それって瑠璃たちがすみれ先輩を」
   「その先輩は放送室で遺体の四肢・内臓を散らかしていたわよ」
   「そんな!じゃあ、あれは!」
   「カンダタと同じよ。利用され殺された挙句蝶男のおもちゃになったのよ。あたしたちはその1つを壊すだけ。人殺しよりも罪は軽いわ」
   「その理屈が通るって本気で考えているの?瑠璃がやろうとしているのは」
   「なら、あの先輩と一緒に死ぬ?彼女はあなたのことを何とも思っていないみたいよ?」
   「それは、それが問題じゃないでしょ」
   「あなたの良い子ちゃんぶりにはつくづく呆れる。あたしはね、義理のために命の糧を消費するつもりはないの」
   声を張り上げないよう祈りながらカンダタは2人の潜めた会話を聞いていた。
   清音の愚かさにも瑠璃の冷血さにもカンダタの言い分はあった。しかし、口には出さず、論争を見守るしかない。なぜなら、これは生者の問題なのだ。死の領域に立つカンダタでは彼女たちの間に割って入る事は許されない。
   「目を背けたいなら屋外階段から出ていけばいい。役に立っていないから見捨てたからとか意味のない罪悪感に苦しまなくてもいいのよ。あたしはあなたがいなくなっただけでも大助かりだから」
   清音の結論は出ず、瑠璃は既に覚悟を決めていた。彼女が答えを出すまで待ってあげたいが、そこまで悠長にしていられない。
   「行こうか」
   カンダタは静かに告げる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...