糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

時計草 14

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   体育館の調光室には2つの出入り口がある。外に出る屋外階段の戸。もう一つは2階に設置された観客が立つ通路。瑠璃はそこをギャラリーと呼んでいた。
   「どどこ、どこおにいるのおお」
   時計草と一体化した桜尾  すみれの視線は2階のギャラリーと同じ高さにあった。
   「ここにいるわよ」
   震えのない透き通った声が桜尾  すみれに届く。調光室から怖じけず、勇ましい姿勢の瑠璃を彼女は捉えた。
   「ひと目見てから相性が悪いってわかったわ。それはお互い、そうだったでしょ」
   会話をする知能もなくなった桜尾  すみれは瑠璃の話を理解しようと首を傾げる。 
   「自分を悲劇のヒロインだって勘違いしているみたいね。けれど、あなたは憐れや可哀想に当てはまらない。例えるなら、そうね、ピエロかしら」
   怪訝に傾げていた形相が変わり始めた。馬鹿にされていると自覚を持ち始めた。
   「自分が正しいと思い込んで、周りは間違いを修正しようともしない。あなたの空回った正論を高らかに語って、しまいには疎まれて。こんなおかしな人をピエロと例えないでなんて例えるのかしらね」
   「うあ゛あ゛あ゛あ゛」
   最骨頂の怒りに達した彼女ひたすらに叫ぶ。
   「良い演出ね」
   大気が震えてしまう程の怒声を一身に受けているのに瑠璃は笑って嫌みを吐く余裕も見せていた。
   「あ゛あ゛!あ゛あ゛!あ゛あ゛!」
   桜尾  すみれの雄叫びは止まらず、蔦はギャラリーに立つ瑠璃を打つ為に伸びてくる。
   こうなると予見していた瑠璃は緑の鞭に当たらないようにギャラリーを走り出す。頭上で薙ぎ払ってくる緑の鞭には屈んで避け、足をひっかけようとする鞭には飛んで危機を逃れる。
   瑠璃が跳ねて身を浮かせた一瞬、別の鞭が飛んできて胴体を掴まれる。彼女は蔦に捕らわれ、振り回されながら半円を描くように空中を横断する。瑠璃と蔦が結ばれたままだったのは桜尾  すみれの下等な者を支配したい心理的な表現だろう。
   「さああさあづうう」
   空中に振り回されれば流石に滅入る。眉を顰めて、怪我を負った左腕から再び流血が始まる。それでも、締め付けられた現状に耐える。
    そうして、彼女が囮になってくれたお陰でカンダタは刀に辿り着き、手に持つことができた。
   カンダタは足元の蔦に白い刀を突き刺して、彼女の注意を引く。
   刺された痛みに怒りを忘れ、瑠璃を手放す。蔦の上に落ちたので、落下の怪我はせずに済む。瑠璃は足場の悪い蔦の上でも態勢を保ちながら起き上がった。
    対してカンダタは桜尾  すみれと睨み合う。
   刀を手に入れたまではいい。後は彼女を斬るだけだ。あの高さに行くまでにはどうするべきか。白鋏は瑠璃が持っている。
   ギャラリーから跳んで時計草の花弁に落ちるか。カンダタから階段は遠く、壁を登るのにもそれに適した場所が見つからない。
   「茎よ!茎!」
   声を張り上げて助言したのは瑠璃だった。彼女からの助言は意外なもので不安しかない。
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