糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

時計草 16

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   白鋏からできた刀だとケイは言っていた。なら、斬りたいと思ったものを思い通りに斬ってくれるはず。それがカンダタに茎の切断を指示した瑠璃の考え方だった。
   だが、焦りと体勢がまずかった。確かに茎に白い刃が入り、今までにない出血量がカンダタの頭から腰を赤く染めている。それでも茎の両断はできなかった。
   「いだああ!いだああああい!」
   まるで子供の癇癪のように高音の鳴き声が体育館を反響させて蔦も予測できない動きを見せる。
   床を埋めていた渦状の蔦が茎に集まりひとつになろうとしていた。そこにいたカンダタは刀を振り回し、凝縮する蔦たちから脱出しようとするも増えていく蔦の量に困惑し、巻き込まれるようにして呑まれてしまう。
   「瑠璃!」
   安否を確認するようにカンダタが呼ぶ。
   上空で桜尾  すみれと共にいる瑠璃は時計草の花弁に閉じ込められようとしていた。咲いた花は蕾へと戻り、瑠璃と桜尾  すみれは花弁に守られるように密閉された暗闇に埋もれていく。カンダタの身体にも蔦が絡まり、身動きが困難になっていくと遂にはカンダタの姿が隠され、茎の一部と化した。


   
  そんな、瑠璃が、カンダタさんが。
   その光景を目にした私は調光室で肩を震わす。
   床を埋めていた蔦は全て1本の茎になり、強大な花は固く閉ざした蕾となった。
   私にはそれが一種の防衛反応のように見えた。傷をつけた茎を守るため、蔦を集合させて、本体が危険に晒される前に蕾の中へと逃げる。
   体育館に立つ1本の蕾は沈黙し、静寂を支配する。
   瑠璃は縛られ、カンダタさんは茎に埋もれた。
   私は、何もできない私は。
   「キ、ヨネ」
   恐怖と孤独に押し潰されそうになっていた私に安息の声が聞こえた。ケイが目を覚ました。
   怪我が治ったわけではない。声は弱々しく、覚束ない足取りをしていた。私にとってはそれだけでも充分だった。
   「ケイ!ケイ!平気?傷は?痛くない?」
   「痛い。だが、心配しなくていい。状況は?」
   私はこれまでに起きたことを簡潔に述べてケイは頷く。
   「やっぱり、行くの?」
   「それが役目だ」
   ケイは迷うことなく言う。瑠璃もカンダタさんもそうだった。彼らは強いからあんな怪物にも立ち向かえる。私は弱いからケイに怪我を負わせてしまった。
   「ごめん、全部私のせい。ケイの怪我も、瑠璃たちが捕まったのも」
   「キヨネは悪いことをしていない」 
   「そうだけど、私迷ってばっかりで。すみれ先輩を助けに来たつもりなのに、私は、わからなくなった。助けたいけど、本当は死んでしまえって思っていたのかな。私の助けたいは建前だったのかな」
   私が弱いから迷ってしまうんだ。怪我を負わせてしまうんだ。私が弱いから、軽蔑してしまうんだ。
   私の戸惑いは自責の念となり、身体の震えは更に酷くなっていく。
   「キヨネはゴミ捨て場から俺を助けた」
   ケイは何を伝えたいのか、いつもの淡々とした口調では彼の真意も感情も汲み取れない。
   「親に負担をかけると知りながら助けた。何故か」
   「それは」
   「答えなくてもいい。理由もいらない。その根底にあるものが全てだ」
   私がケイを助けた理由。すみれ先輩を前に迷ってた訳。そこにあるのは単純で私が目を背けていた事実で、結局は瑠璃が正しいのだと認めるしかない。
   私は立ち上がり、体育館中央の蕾を見つめる。迷いがなくなったわけじゃない。答えを見つけたわけじゃない。自分の根底にあるものを知っただけ。なら、この想いをすみれ先輩に伝えよう。 
   それは自分勝手で、とても怖い行動だった。
   「ねぇ、もう少しだけ傍にいてくれる?見守ってほしいの」
   「キヨネがそう言うのなら見届けよう」
   怪我を負った小さな黒猫。その返答が心強く、気がつけば身体の震えが止まっていた。
   私は落ち着いた指先でマイクのスイッチを入れる。
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