184 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
時計草 16
しおりを挟む
白鋏からできた刀だとケイは言っていた。なら、斬りたいと思ったものを思い通りに斬ってくれるはず。それがカンダタに茎の切断を指示した瑠璃の考え方だった。
だが、焦りと体勢がまずかった。確かに茎に白い刃が入り、今までにない出血量がカンダタの頭から腰を赤く染めている。それでも茎の両断はできなかった。
「いだああ!いだああああい!」
まるで子供の癇癪のように高音の鳴き声が体育館を反響させて蔦も予測できない動きを見せる。
床を埋めていた渦状の蔦が茎に集まりひとつになろうとしていた。そこにいたカンダタは刀を振り回し、凝縮する蔦たちから脱出しようとするも増えていく蔦の量に困惑し、巻き込まれるようにして呑まれてしまう。
「瑠璃!」
安否を確認するようにカンダタが呼ぶ。
上空で桜尾 すみれと共にいる瑠璃は時計草の花弁に閉じ込められようとしていた。咲いた花は蕾へと戻り、瑠璃と桜尾 すみれは花弁に守られるように密閉された暗闇に埋もれていく。カンダタの身体にも蔦が絡まり、身動きが困難になっていくと遂にはカンダタの姿が隠され、茎の一部と化した。
そんな、瑠璃が、カンダタさんが。
その光景を目にした私は調光室で肩を震わす。
床を埋めていた蔦は全て1本の茎になり、強大な花は固く閉ざした蕾となった。
私にはそれが一種の防衛反応のように見えた。傷をつけた茎を守るため、蔦を集合させて、本体が危険に晒される前に蕾の中へと逃げる。
体育館に立つ1本の蕾は沈黙し、静寂を支配する。
瑠璃は縛られ、カンダタさんは茎に埋もれた。
私は、何もできない私は。
「キ、ヨネ」
恐怖と孤独に押し潰されそうになっていた私に安息の声が聞こえた。ケイが目を覚ました。
怪我が治ったわけではない。声は弱々しく、覚束ない足取りをしていた。私にとってはそれだけでも充分だった。
「ケイ!ケイ!平気?傷は?痛くない?」
「痛い。だが、心配しなくていい。状況は?」
私はこれまでに起きたことを簡潔に述べてケイは頷く。
「やっぱり、行くの?」
「それが役目だ」
ケイは迷うことなく言う。瑠璃もカンダタさんもそうだった。彼らは強いからあんな怪物にも立ち向かえる。私は弱いからケイに怪我を負わせてしまった。
「ごめん、全部私のせい。ケイの怪我も、瑠璃たちが捕まったのも」
「キヨネは悪いことをしていない」
「そうだけど、私迷ってばっかりで。すみれ先輩を助けに来たつもりなのに、私は、わからなくなった。助けたいけど、本当は死んでしまえって思っていたのかな。私の助けたいは建前だったのかな」
私が弱いから迷ってしまうんだ。怪我を負わせてしまうんだ。私が弱いから、軽蔑してしまうんだ。
私の戸惑いは自責の念となり、身体の震えは更に酷くなっていく。
「キヨネはゴミ捨て場から俺を助けた」
ケイは何を伝えたいのか、いつもの淡々とした口調では彼の真意も感情も汲み取れない。
「親に負担をかけると知りながら助けた。何故か」
「それは」
「答えなくてもいい。理由もいらない。その根底にあるものが全てだ」
私がケイを助けた理由。すみれ先輩を前に迷ってた訳。そこにあるのは単純で私が目を背けていた事実で、結局は瑠璃が正しいのだと認めるしかない。
私は立ち上がり、体育館中央の蕾を見つめる。迷いがなくなったわけじゃない。答えを見つけたわけじゃない。自分の根底にあるものを知っただけ。なら、この想いをすみれ先輩に伝えよう。
それは自分勝手で、とても怖い行動だった。
「ねぇ、もう少しだけ傍にいてくれる?見守ってほしいの」
「キヨネがそう言うのなら見届けよう」
怪我を負った小さな黒猫。その返答が心強く、気がつけば身体の震えが止まっていた。
私は落ち着いた指先でマイクのスイッチを入れる。
だが、焦りと体勢がまずかった。確かに茎に白い刃が入り、今までにない出血量がカンダタの頭から腰を赤く染めている。それでも茎の両断はできなかった。
「いだああ!いだああああい!」
まるで子供の癇癪のように高音の鳴き声が体育館を反響させて蔦も予測できない動きを見せる。
床を埋めていた渦状の蔦が茎に集まりひとつになろうとしていた。そこにいたカンダタは刀を振り回し、凝縮する蔦たちから脱出しようとするも増えていく蔦の量に困惑し、巻き込まれるようにして呑まれてしまう。
「瑠璃!」
安否を確認するようにカンダタが呼ぶ。
上空で桜尾 すみれと共にいる瑠璃は時計草の花弁に閉じ込められようとしていた。咲いた花は蕾へと戻り、瑠璃と桜尾 すみれは花弁に守られるように密閉された暗闇に埋もれていく。カンダタの身体にも蔦が絡まり、身動きが困難になっていくと遂にはカンダタの姿が隠され、茎の一部と化した。
そんな、瑠璃が、カンダタさんが。
その光景を目にした私は調光室で肩を震わす。
床を埋めていた蔦は全て1本の茎になり、強大な花は固く閉ざした蕾となった。
私にはそれが一種の防衛反応のように見えた。傷をつけた茎を守るため、蔦を集合させて、本体が危険に晒される前に蕾の中へと逃げる。
体育館に立つ1本の蕾は沈黙し、静寂を支配する。
瑠璃は縛られ、カンダタさんは茎に埋もれた。
私は、何もできない私は。
「キ、ヨネ」
恐怖と孤独に押し潰されそうになっていた私に安息の声が聞こえた。ケイが目を覚ました。
怪我が治ったわけではない。声は弱々しく、覚束ない足取りをしていた。私にとってはそれだけでも充分だった。
「ケイ!ケイ!平気?傷は?痛くない?」
「痛い。だが、心配しなくていい。状況は?」
私はこれまでに起きたことを簡潔に述べてケイは頷く。
「やっぱり、行くの?」
「それが役目だ」
ケイは迷うことなく言う。瑠璃もカンダタさんもそうだった。彼らは強いからあんな怪物にも立ち向かえる。私は弱いからケイに怪我を負わせてしまった。
「ごめん、全部私のせい。ケイの怪我も、瑠璃たちが捕まったのも」
「キヨネは悪いことをしていない」
「そうだけど、私迷ってばっかりで。すみれ先輩を助けに来たつもりなのに、私は、わからなくなった。助けたいけど、本当は死んでしまえって思っていたのかな。私の助けたいは建前だったのかな」
私が弱いから迷ってしまうんだ。怪我を負わせてしまうんだ。私が弱いから、軽蔑してしまうんだ。
私の戸惑いは自責の念となり、身体の震えは更に酷くなっていく。
「キヨネはゴミ捨て場から俺を助けた」
ケイは何を伝えたいのか、いつもの淡々とした口調では彼の真意も感情も汲み取れない。
「親に負担をかけると知りながら助けた。何故か」
「それは」
「答えなくてもいい。理由もいらない。その根底にあるものが全てだ」
私がケイを助けた理由。すみれ先輩を前に迷ってた訳。そこにあるのは単純で私が目を背けていた事実で、結局は瑠璃が正しいのだと認めるしかない。
私は立ち上がり、体育館中央の蕾を見つめる。迷いがなくなったわけじゃない。答えを見つけたわけじゃない。自分の根底にあるものを知っただけ。なら、この想いをすみれ先輩に伝えよう。
それは自分勝手で、とても怖い行動だった。
「ねぇ、もう少しだけ傍にいてくれる?見守ってほしいの」
「キヨネがそう言うのなら見届けよう」
怪我を負った小さな黒猫。その返答が心強く、気がつけば身体の震えが止まっていた。
私は落ち着いた指先でマイクのスイッチを入れる。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる