糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
197 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

とある生徒の終幕 11

しおりを挟む
   「感想を聞かせてよ。ライターさん」
   ライターさん、か。
   それが笹塚  瑠璃の皮肉だったとしても喜ぶ自分がいる。何もかも捨てたつもりだったのに描いた夢はまだ持っていた。ほんちゃんがいなければ意味のない夢なのに。
   私はすぐにでも立ち上がって2人の勇姿の前に現れたかったが、嘔吐したばかりの体調がよろしくない。
   これもまた変な話だ。私の身体はないのに死後の魂が体調不良になる。
   口の周りについた唾液を腕で拭き取り、たれ幕の外へと出た。ステージ台に立つ私は静寂に戻った体育館を見おろす。
   強大な花や茎・蔦が黒い泥になり、額を貫かれた桜尾  すみれは彼らの後ろで倒れている。
   赤眼の男と笹塚  瑠璃によって彼女が撃たれるのは私のシナリオ通りだった。いくつかの誤算はあったが、大元の流れは変わっていない。
   「これ返すわ」
   口を開いたのは瑠璃だった。手帳を放り投げ、私はそれを受け取る。
   佐矢  蛍の生徒手帳。確かに笹塚  瑠璃の下駄箱にこれを入れたのは私だ。
   彼女たちとほんちゃんは関わり合っていない。しかし、事件のルーツにはほんちゃんがいる。あの悲劇なくして今回の事件は起きなかった。だから、この子の存在を教えたかった。何より、桜尾  すみれを悲劇のヒロインに仕立てたくなかった。
   「よく、私だってわかったね」
   意外だったのは笹塚  瑠璃が私の名前を言い当てたことだった。魂の定義を知っていたなら、演劇部と直接関わり合いもなく、生半可に生きている私よりも酷い仕打ちを受けて死んでしまったほんちゃんを疑うのが筋というものだろう。
   「当てたのはカンダタよ。3月に死んでいるなら、すでに魂はハザマに流れているし、身体が意識不明でも魂は動ける。あたしがそうだったから」
   「そういえば、階段から落ちて三日間寝ていたんだよね」
   「あなたが従う先生のせいで地獄を彷徨ってたの。迷惑な話よ。能力があるって言うだけで狙われる。あなたも復讐ついでにあたしの魂を採るように言われたんでしょ。今すぐ輪廻に送ってやりたいところだけど、蝶男の情報を提供してくれたら許してあげてもいいわよ」
   図太い性格をしているなぁ。私は先輩で、連続殺人犯だ。だというのに恐れ知らずの彼女は堂々と軽口を叩く。
   この子のような強い精神があれば私もほんちゃんもあんな結末を迎えなかった。
   「長野先生は恩人なんだ。裏切れない」
   「自分が利用されていることがわかっていて言っているんだな」
      カンダタと呼ばれた男が言う。私を責めている厳しい口調ではなかった。理解して寄り添うような声色。
   「悪魔を恩人扱いするのは私だけだろうね。理解はしているよ。あの人にとって私は食料源でしかない。それでもいいんだ。こんな我が儘に付き合ってくれた」
   「あら、これが見るに耐えないエゴイストの復讐劇だって自覚はあったのね」
   思わず、吹き出してしまう。嘲笑とかではなく、本当におかしくて笑えてしまう。エゴイストの復讐劇、これほどこの劇に合うタイトルはない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...