糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

瑠璃、幼少期 14

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   高速を降りてからも緊迫したドライブは続くようだった。
   母は安物の衣服を取り扱う店の前で停まると急ぎ足で店内に入り、彰は近くのコンビニに向かった。あたしは言いつけ通り、身体を小さくして車内で帰りを待つ。
   今日のうちに車から出ることはほとんどなかった。あたしが外に出れたのはトラックさえ停めまっていない人気のないパーキングエリアでトイレに立ち寄ったくらい。
   遠出のドライブと言うより車に閉じ込められたみたいだった。その上、車窓から顔を出さず、他人に見られないようにと指示を受けていた。その結果、シートの下で小さく身体を丸めて何もない時間を耐えていた。
   母は20分ほどで戻ってきた。格好が変わっていた。
   おそらく、店内のトイレで着替えたのだろう。自慢のスタイルを隠したサイズ大きめの服装、金髪、目を隠す地味な帽子。お洒落好きな母とは思えない。
   手には大きなビニール袋がある。
   「これに着替えて」
   説明もなしに簡潔に言われた指示に頭を項垂れる。
   ビニールから出したのは男の子が好むような服ばかりだ。あたしパンツよりはスカートを着たい。レースやリボンがいいのに母は真逆のものを渡してくる。
   「着ないと駄目?」
   母はいつもあたしが着たいと思ったもの買ってくれて、いつもあたしを可愛くコーデしてくれた。ビニール袋から取り出された安物の衣服に龍のプリントとジーンズのパンツ、地味な色の帽子。着たいとは思えなかった。
   「言うことを聞いて。悪い子にならないでよ」
   息が詰まりそうなドライブに母も疲れているようだった。あたしの小さな拒否でさえ困惑し、眉間に皺を作る。
   「悪い子」初めて言われたそれが心に突き刺さった。母を困らせた悪い子。刺された痛みは罪悪感となった。
   「ごめんなさい」
   この謝罪に不服はなかった。母が「悪い子」とを呼んだのならきっとそうなのだろう。悲しいのは母を落胆させてしまったことだ。
   だから、「愛してる」くれなくなったのだ。私が悪い子だから。
   何がいけなかったのか考えてみても答えは出なかった。家事は毎日していた。掃除も洗濯も行ったことはなかった。
   学校も行かなくていいって言ったのは母だ。なら、母は何であたしを悪い子と判断したのか。
   その質問に答えを求めるのはやめた。考えなたくなかった。そんなことよりも名誉挽回に尽力を注ごうと子供なりの結果論があたしを動かした。
   好きでもない服を着て、地味な帽子で人目を引く金髪と青目を隠す。男の子用の靴は少しだけ大きい。
   少し経って彰が戻ってきた。コンビニで買ってきたのは3人分の食料でその量からして当分は車での生活が続くのだろうと悟った。
   無骨に手渡されたおにぎりを口に運ぶ。母も無言でおにぎりを食べ、彰はおにぎりを片手に持ちながら車を発進させる。
   あたしの食生活では会話をするのが当たり前だった。母との食事が1日の楽しみだった。
   陰湿な車内時間の経ったお米が虚しく、陰湿となった心ではツナや塩の味でさえわからなくなる。
   運転中は常にラジオからのニュースが流れている。母と彰は集中してニュースを聞き入れる。それもそのはずで、ケータイといったメディアを取り入れる道具を2人は置いてきていた。
   世間が関心を向けている問題を知る術はラジオしかなかった。しかし、2人が聞き入っていたのはそうした理由ではない気がする。世間が向ける様々な問題よりもただ1つのニュースばかりを2人は知りたがっていた。
   CEOの妻子誘拐、身代金狙い、なくなった会社の大金、電子系大学院生の行方。
   増えた単語に冷や汗を浮かべては手に持ったおにぎりでさえ、食べるのを忘れている様子だった。
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