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3章 死神が誘う遊園地
瑠璃、幼少期 16
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母が隠れ家と呼んだ場所に着いたのは4日目の朝だった。知らない土地、大自然と例えてもいいような田舎町で誰も住んでいないボロアパート。
雨漏りしていそうなトタン屋根、黒ずみと赤錆で本来の色をなくした外装。アパートを囲むブロック塀はあたしよりも背が高く、外からはアパート内の様子は伺えなかった。
あたしたちはアパートの階段を上る。足で踏むたびに錆びたトタンの階段がカンカンと鳴った。
しばらくはここで過ごすと母が言う。それを聞いてひどく気落ちした。このアパートは見た目も汚ければ、中身も同じくらいに汚れていたからだ。
替えられていない畳は擦り切れて変色し、襖を閉めているのに冷たい風がどこからともなく吹いてくる。風呂場も長らく使われていなければ洗ってさえもいない。汲み取り式のトイレは臭いし、和式なんて使ったこともない。
部屋は2室あった。まず、玄関を開けるとキッチンがあり、奥手にトイレ、風呂場がある。そこを抜けると窓と畳しかない部屋が2室。
大金の入った黒鞄と荷物を置いた母はその隣に荷物と同じように私は座らせた。窓はカーテンが敷かれ、絶対に外は見るなときつく警告される。
「ママ」
私は母を呼んだ。黒鞄の隣で体育座りをして、見上げる。
「何?」
溜息混じりに聞き返す。
この数日間のうちに母も精神を削られていた。不眠症になったせいで目の下にクマを作り、手入れをしていない肌が粉を吹いていた。パンとおにぎりだけの食生活に吹出物がついき、下顎の肉が弛む。
母は端麗な顔立ちと容姿を自信に持っていて、それを保つための努力を惜しまなかった。毎日の努力で得た美麗は長いドライブのストレスによって失われてしまった。
不健康に肥満した顔で溜息と苛立ちであたしを見下す。
そんな母に心臓を掴まされたような、追い詰められたような緊張感が背筋に走る。心臓が握り潰されそうだ。
呼んだのには深い理由がない。怖かった。それだけだ。
彰には好感だって持てるはずがない。あたしをないものとして扱って、目が合うとベルトに差し込んだサバイバルナイフの柄を握り、あたしを睨む。それが殺意だとはっきりと伝わった。
あの男の頭にあるのは、ストレスのガス抜きとしてあたしを殺害する妄想だ。
この数日間、あたしを殺害する妄想を繰り返す男と狭い車内で暮らしていたのだ。
そのことに母は気付いているのか、気付いていないのならわかって欲しい。
「あの、」
緊張で言葉が詰まる。
「どうしたの?」
訳もわからず涙が出そうになった。いつもなら、微笑んで目線を合わせてくれるのにあたしの前に立つ母は面倒事と子供を嫌う目つきをしていた。
「寒くて、シャワーも入りたい」
無言の圧力はあたしを追い詰めて、伝えたかった思いは言えなかった。
「ブラケットは荷物の中よ。知ってるでしょ。シャワーは駄目」
「なんで?」
「我儘言わないで」
あたしの素朴な疑問はシャワーに入れない不快さによる駄々だと認識された。
「ごめんなさい」
何が悪いわけでもないのに謝った。
十分に嫌われていると察していた。
それでもこれ以上は嫌われたくない。もしかしたら、あたしを見直してくれるかもしれない。そうした可能性を秘めた謝罪だった。
母の「愛してる」が欲しかった。何十回とまではいかない。一回だけでいい。
荒屋のようなアパートでは冷たい風が吹いてくる。秋の雨は冷たくて痛い。
雨漏りしていそうなトタン屋根、黒ずみと赤錆で本来の色をなくした外装。アパートを囲むブロック塀はあたしよりも背が高く、外からはアパート内の様子は伺えなかった。
あたしたちはアパートの階段を上る。足で踏むたびに錆びたトタンの階段がカンカンと鳴った。
しばらくはここで過ごすと母が言う。それを聞いてひどく気落ちした。このアパートは見た目も汚ければ、中身も同じくらいに汚れていたからだ。
替えられていない畳は擦り切れて変色し、襖を閉めているのに冷たい風がどこからともなく吹いてくる。風呂場も長らく使われていなければ洗ってさえもいない。汲み取り式のトイレは臭いし、和式なんて使ったこともない。
部屋は2室あった。まず、玄関を開けるとキッチンがあり、奥手にトイレ、風呂場がある。そこを抜けると窓と畳しかない部屋が2室。
大金の入った黒鞄と荷物を置いた母はその隣に荷物と同じように私は座らせた。窓はカーテンが敷かれ、絶対に外は見るなときつく警告される。
「ママ」
私は母を呼んだ。黒鞄の隣で体育座りをして、見上げる。
「何?」
溜息混じりに聞き返す。
この数日間のうちに母も精神を削られていた。不眠症になったせいで目の下にクマを作り、手入れをしていない肌が粉を吹いていた。パンとおにぎりだけの食生活に吹出物がついき、下顎の肉が弛む。
母は端麗な顔立ちと容姿を自信に持っていて、それを保つための努力を惜しまなかった。毎日の努力で得た美麗は長いドライブのストレスによって失われてしまった。
不健康に肥満した顔で溜息と苛立ちであたしを見下す。
そんな母に心臓を掴まされたような、追い詰められたような緊張感が背筋に走る。心臓が握り潰されそうだ。
呼んだのには深い理由がない。怖かった。それだけだ。
彰には好感だって持てるはずがない。あたしをないものとして扱って、目が合うとベルトに差し込んだサバイバルナイフの柄を握り、あたしを睨む。それが殺意だとはっきりと伝わった。
あの男の頭にあるのは、ストレスのガス抜きとしてあたしを殺害する妄想だ。
この数日間、あたしを殺害する妄想を繰り返す男と狭い車内で暮らしていたのだ。
そのことに母は気付いているのか、気付いていないのならわかって欲しい。
「あの、」
緊張で言葉が詰まる。
「どうしたの?」
訳もわからず涙が出そうになった。いつもなら、微笑んで目線を合わせてくれるのにあたしの前に立つ母は面倒事と子供を嫌う目つきをしていた。
「寒くて、シャワーも入りたい」
無言の圧力はあたしを追い詰めて、伝えたかった思いは言えなかった。
「ブラケットは荷物の中よ。知ってるでしょ。シャワーは駄目」
「なんで?」
「我儘言わないで」
あたしの素朴な疑問はシャワーに入れない不快さによる駄々だと認識された。
「ごめんなさい」
何が悪いわけでもないのに謝った。
十分に嫌われていると察していた。
それでもこれ以上は嫌われたくない。もしかしたら、あたしを見直してくれるかもしれない。そうした可能性を秘めた謝罪だった。
母の「愛してる」が欲しかった。何十回とまではいかない。一回だけでいい。
荒屋のようなアパートでは冷たい風が吹いてくる。秋の雨は冷たくて痛い。
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