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3章 死神が誘う遊園地
夢楽土会 10
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振り返るとさえりでは険しい顔つきで近寄ってくる。
「この子の保護者?あ、笹塚社長の愛人?それとも義母?」
「違います」
さえりは記者を突き放すように言う。あたしの肩に手を添えてこの場を去ろうとする。
「あなたも知ってるんでしょ?笹塚社長と夢楽土との」
「警察呼びますよ」
普段のさえりは険しい顔と険しい口調で般若と比べても変わりがない。その般若が皺を深く刻ませて、声色にも鋭い棘があった。
「そんな話を聞きたいだけですよ」
警察というワードに記者は慄いて身を引く。
「彼女は何も知りません。取材なら私がうけます」
さえりは自身の名刺を渡す。記者も社長秘書の名刺を貰いそれなりに満足して、その場を離れる。
「あんなの無視すればよかったのに」
さえりから凍てついた口調がなくなって、無愛想な彼女に戻っていた。
「別に」
肩に添えられたさえりの手を払い、短く答えた。
「何か言われましたか?」
さえりは問いかける。色のない声は心配なんかしていなくて、保護者代表としての義務的な質問だった。
「さえりの上司が不利になることは言ってないわよ。知らないのは事実だし」
「私は何を言われたのかと聞いたんです」
そんなの、さえりには関係ないじゃない。
「父と夢楽土会ついて聞かれたわ」
あたしは無愛想な態度だった。さえりは「そうですか」と一言だけで呟くと考えに耽る。
「なぁ、夢楽土会は光弥も言っていたよな」
カンダタの考えを巡らせてあたしに話しかけてきた。あたしは言葉を返さずに視線だけを向ける。
「光弥が調べているのならあちら側が関わりがあるんだろう。 先程の男も瑠璃の父親と関係があることを言っていた。もしも、蝶男が肉親を利用してると考えられないか?瑠璃の弱点でもある」
大声で叫びそうになった言葉を喉まで押し込む。
弱点ですって?あの人とあたしの間にあるのは無関心よ。弱点にはなりえない。
「さえりは成績表を受け取りに来たんでしょ」
心中、荒波か湧きたって叫びたくなっても人の前でそんな羞恥を晒したくはない。平然とした面持ちで喋る。
「えぇ、そうです。それもありますが」
スクールバックのファスナーを開けていた手を止める。他にも用があるの?
「この間、エルザさんと連絡をとったんです」
目を見開いて荒波となっていた激情が一瞬にしてなくなった。エルザはフランスにいるあたしの叔母であり、月に一回は食事や調味料、手作りのマーマレードを送ってくるお節介な人だ。
そんなエルザとさえりが連絡を交換していたなんて初耳だわ。
「知り合いだったの?」
「6年前に。訃報を知らせたのは私だったので」
母の葬式の時ね。あたしはその時に初めてエルザと対面した。あの時からの知り合いだったわけね。エルザ叔母さんに変なこと言ってないといいんだけど。
「エルザさんと相談して、夏季休暇はフランスで過ごしてみては?」
まさか、フランスの滞在を提案されるなんて。意外ね。
「そんなにあたしを追い出したいの」
「違います」
さえりは言葉を選びながら話す。
「ただ、瑠璃は日本にいないほうがいい」
妙ね。隠し事を避けている言い方をしている。
「話が急すぎるわ。それに補習があるからフランスには行かない」
なにより、お節介なエルザ叔母さんと一ヶ月近くも過ごしたくない。
「赤点獲ったんですか?」
さえりは珍しいものを見る目つきをする。
「仕方がないじゃない。色々と忙しかったし」
「言い訳がましいですね」
「さえりには迷惑かけてないじゃない。愚痴を言われる筋合いはないわ」
正論で返そうとしたさえりだったけれど、それを止める。言い返されて終わるだけだと彼女はわかっていた。
「成績表は貰います。あと補習のスケジュール表も。ありますか?」
「あるわ」
スクールバッグを漁り、ファイルに手を伸ばす。ファイルには成績表と補習授業のスケジュールが入っている。
さっさとこれをさえりに渡して、帰ろう。そう思って手が止まった。
父と夢楽土会、記者とフランス滞在の提案、あたしの弱点と蝶男。これらは偶然に重なった話じゃない。
「忘れたわ」
白々しい態度でファスナーを閉める。
「は?どこに?」
「どこって学校よ」
あまりにも間抜けなミスにさえりは呆れているようだった。
「本当にどうしたんですか?さっきのことも赤点もあなたらしくない」
「色々とあるのよ。あたしにも」
さえりは溜息を一つ落とす。嘘には気付いてはいたけれど、それを暴かず、詮索もしようとしなかった。
「わかりました。後日取りに行きます。それと怪我にも気を付けて下さい」
それはあたしが先月に負った腕の怪我を示していた。
「この子の保護者?あ、笹塚社長の愛人?それとも義母?」
「違います」
さえりは記者を突き放すように言う。あたしの肩に手を添えてこの場を去ろうとする。
「あなたも知ってるんでしょ?笹塚社長と夢楽土との」
「警察呼びますよ」
普段のさえりは険しい顔と険しい口調で般若と比べても変わりがない。その般若が皺を深く刻ませて、声色にも鋭い棘があった。
「そんな話を聞きたいだけですよ」
警察というワードに記者は慄いて身を引く。
「彼女は何も知りません。取材なら私がうけます」
さえりは自身の名刺を渡す。記者も社長秘書の名刺を貰いそれなりに満足して、その場を離れる。
「あんなの無視すればよかったのに」
さえりから凍てついた口調がなくなって、無愛想な彼女に戻っていた。
「別に」
肩に添えられたさえりの手を払い、短く答えた。
「何か言われましたか?」
さえりは問いかける。色のない声は心配なんかしていなくて、保護者代表としての義務的な質問だった。
「さえりの上司が不利になることは言ってないわよ。知らないのは事実だし」
「私は何を言われたのかと聞いたんです」
そんなの、さえりには関係ないじゃない。
「父と夢楽土会ついて聞かれたわ」
あたしは無愛想な態度だった。さえりは「そうですか」と一言だけで呟くと考えに耽る。
「なぁ、夢楽土会は光弥も言っていたよな」
カンダタの考えを巡らせてあたしに話しかけてきた。あたしは言葉を返さずに視線だけを向ける。
「光弥が調べているのならあちら側が関わりがあるんだろう。 先程の男も瑠璃の父親と関係があることを言っていた。もしも、蝶男が肉親を利用してると考えられないか?瑠璃の弱点でもある」
大声で叫びそうになった言葉を喉まで押し込む。
弱点ですって?あの人とあたしの間にあるのは無関心よ。弱点にはなりえない。
「さえりは成績表を受け取りに来たんでしょ」
心中、荒波か湧きたって叫びたくなっても人の前でそんな羞恥を晒したくはない。平然とした面持ちで喋る。
「えぇ、そうです。それもありますが」
スクールバックのファスナーを開けていた手を止める。他にも用があるの?
「この間、エルザさんと連絡をとったんです」
目を見開いて荒波となっていた激情が一瞬にしてなくなった。エルザはフランスにいるあたしの叔母であり、月に一回は食事や調味料、手作りのマーマレードを送ってくるお節介な人だ。
そんなエルザとさえりが連絡を交換していたなんて初耳だわ。
「知り合いだったの?」
「6年前に。訃報を知らせたのは私だったので」
母の葬式の時ね。あたしはその時に初めてエルザと対面した。あの時からの知り合いだったわけね。エルザ叔母さんに変なこと言ってないといいんだけど。
「エルザさんと相談して、夏季休暇はフランスで過ごしてみては?」
まさか、フランスの滞在を提案されるなんて。意外ね。
「そんなにあたしを追い出したいの」
「違います」
さえりは言葉を選びながら話す。
「ただ、瑠璃は日本にいないほうがいい」
妙ね。隠し事を避けている言い方をしている。
「話が急すぎるわ。それに補習があるからフランスには行かない」
なにより、お節介なエルザ叔母さんと一ヶ月近くも過ごしたくない。
「赤点獲ったんですか?」
さえりは珍しいものを見る目つきをする。
「仕方がないじゃない。色々と忙しかったし」
「言い訳がましいですね」
「さえりには迷惑かけてないじゃない。愚痴を言われる筋合いはないわ」
正論で返そうとしたさえりだったけれど、それを止める。言い返されて終わるだけだと彼女はわかっていた。
「成績表は貰います。あと補習のスケジュール表も。ありますか?」
「あるわ」
スクールバッグを漁り、ファイルに手を伸ばす。ファイルには成績表と補習授業のスケジュールが入っている。
さっさとこれをさえりに渡して、帰ろう。そう思って手が止まった。
父と夢楽土会、記者とフランス滞在の提案、あたしの弱点と蝶男。これらは偶然に重なった話じゃない。
「忘れたわ」
白々しい態度でファスナーを閉める。
「は?どこに?」
「どこって学校よ」
あまりにも間抜けなミスにさえりは呆れているようだった。
「本当にどうしたんですか?さっきのことも赤点もあなたらしくない」
「色々とあるのよ。あたしにも」
さえりは溜息を一つ落とす。嘘には気付いてはいたけれど、それを暴かず、詮索もしようとしなかった。
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