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3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 1
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さえりは11時丁度に訪れた。卓上に出された硝子の湯飲みを手に持ち、冷たい茶を1口だけ飲む。
真夏の中を歩いてきたというのにさえりの額には汗すらない。彼女は魂だけでなく、体内までも溶けない氷でできているのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「珍しいですね。家に上げるなんて」
「話をしたかったの。まずはこれ」
瑠璃は成績表と補習の予定表を渡す。さえりは用紙を確認する。
「こんなに高低差のある成績表は見かけませんね」
壊滅的な文系と優秀な理系に嫌味が篭った感想を述べる。
「うるさいわね。もういいじゃない」
瑠璃は不貞腐れて茶を啜る。これに関しては実力不足の結果である。強くは言えなかった。
「それで話とは?いつものカフェでは言えないものですよね」
さえりから話を切り出す。
「昨日のことが気になっていたの」
「聞いてどうするんです?瑠璃は身内に無関心を決めている」
「記者に問いだされたり、いきなりフランス滞在を勧めたらあたしだってただ事じゃないって思うわよ」
さえりの口が重く閉じる。彼女にとって重大な秘密事項のようだ。
「いいじゃない。さえりとあたししかいないんだから」
よくまぁ、自然と嘘が吐ける。
カンダタは関心する。いない、そう言えばいないのだ。カンダタは亡霊であり、まさか亡霊が堂々と盗んで聞きしているとは想像もつかないだろう。
「5月の頃でしょうか」
2人きりだと安心したさえりが重い口を開く。
「社長が夢楽土会という怪しげな教団に入信したみたいなんです」
「みたい、ていうのは?」
「詳しく話してくれません。気付いたのは社長のスケジュールに妙な空欄が増えたのと教団が配っているらしいサプリを偶然見つけたからです」
氷ような女が項垂れている。そこにあったのは明らかな憂いだった。
「サプリ?薬じゃなくて?」
「薬とは?」
「そういう噂を聞いたのよ」
「あれはサプリメントです。快眠効果があると」
瑠璃はなるほどね、と納得するがカンダタにはさっぱりだ。
「それで?口が重くなるのは週刊誌の餌食にされるから?」
首を横に振るとさえりは冷たい茶を飲む。社長秘書の肩書をもらった彼女でさえ、言葉を選ぶのに時間をかけている。事態は深刻らしい。
「多少、強引な勧誘ならまだよかったんです。しかし、最近の自殺率を知っていますか?この地域限定の話ですが」
瑠璃は首を振る。把握しているわけがない。
「自殺者のほとんどが夢楽土会の会員です。だというのに会員たちは退会する気配がない。むしろ、依存するようにサプリを求めている」
「サプリを?会員は寝不足なわけ?」
「そこまでは知りません。調べた限りでは夢楽土会が配っているのはただのサプリメントと言うことです。成分も表記通りのものしか入っていない。ドラックでも医薬品でもない」
わざわざ調べたという。それほどまでに危機感があったいうことだ。だからといって上司である瑠璃の父には何一つ報告はしていないようだ。
瑠璃は以前、さえりは父に惚れていると言っていた。そうだとしたら、社長の肩を持つものだ。
しかし、彼女からはそうした素振りがない。今もこの話を瑠璃にすれば警察に密告される可能性も考慮しているはずだ。
「警察も水面下で動いているみたいですが確証がない」
「配っているのが無害なサプリだもんね。けれど、夢楽土会の会員が自殺しているのは事実。ついには週刊誌の記者までも嗅ぎつけてきた」
瑠璃の推測にさえりが頷く。
「メディアに取り上げられるのは時間の問題です。瑠璃の身元を報道しようとする輩もいる。6年前の事件も掘り返しされるでしょう。そうなる前にフランスで身を隠してほしいんです」
嫌われているとは瑠璃の間違った先入観だと気付く。さえりは瑠璃の身を案じているのだ。
「本当なら移住してほしいんですが」
さえりは話を続けようとしたが、声を詰まらせる。目を泳がせて反応を伺う。彼女は自分の気持ちを伝えるのが苦手なようだ。
真夏の中を歩いてきたというのにさえりの額には汗すらない。彼女は魂だけでなく、体内までも溶けない氷でできているのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「珍しいですね。家に上げるなんて」
「話をしたかったの。まずはこれ」
瑠璃は成績表と補習の予定表を渡す。さえりは用紙を確認する。
「こんなに高低差のある成績表は見かけませんね」
壊滅的な文系と優秀な理系に嫌味が篭った感想を述べる。
「うるさいわね。もういいじゃない」
瑠璃は不貞腐れて茶を啜る。これに関しては実力不足の結果である。強くは言えなかった。
「それで話とは?いつものカフェでは言えないものですよね」
さえりから話を切り出す。
「昨日のことが気になっていたの」
「聞いてどうするんです?瑠璃は身内に無関心を決めている」
「記者に問いだされたり、いきなりフランス滞在を勧めたらあたしだってただ事じゃないって思うわよ」
さえりの口が重く閉じる。彼女にとって重大な秘密事項のようだ。
「いいじゃない。さえりとあたししかいないんだから」
よくまぁ、自然と嘘が吐ける。
カンダタは関心する。いない、そう言えばいないのだ。カンダタは亡霊であり、まさか亡霊が堂々と盗んで聞きしているとは想像もつかないだろう。
「5月の頃でしょうか」
2人きりだと安心したさえりが重い口を開く。
「社長が夢楽土会という怪しげな教団に入信したみたいなんです」
「みたい、ていうのは?」
「詳しく話してくれません。気付いたのは社長のスケジュールに妙な空欄が増えたのと教団が配っているらしいサプリを偶然見つけたからです」
氷ような女が項垂れている。そこにあったのは明らかな憂いだった。
「サプリ?薬じゃなくて?」
「薬とは?」
「そういう噂を聞いたのよ」
「あれはサプリメントです。快眠効果があると」
瑠璃はなるほどね、と納得するがカンダタにはさっぱりだ。
「それで?口が重くなるのは週刊誌の餌食にされるから?」
首を横に振るとさえりは冷たい茶を飲む。社長秘書の肩書をもらった彼女でさえ、言葉を選ぶのに時間をかけている。事態は深刻らしい。
「多少、強引な勧誘ならまだよかったんです。しかし、最近の自殺率を知っていますか?この地域限定の話ですが」
瑠璃は首を振る。把握しているわけがない。
「自殺者のほとんどが夢楽土会の会員です。だというのに会員たちは退会する気配がない。むしろ、依存するようにサプリを求めている」
「サプリを?会員は寝不足なわけ?」
「そこまでは知りません。調べた限りでは夢楽土会が配っているのはただのサプリメントと言うことです。成分も表記通りのものしか入っていない。ドラックでも医薬品でもない」
わざわざ調べたという。それほどまでに危機感があったいうことだ。だからといって上司である瑠璃の父には何一つ報告はしていないようだ。
瑠璃は以前、さえりは父に惚れていると言っていた。そうだとしたら、社長の肩を持つものだ。
しかし、彼女からはそうした素振りがない。今もこの話を瑠璃にすれば警察に密告される可能性も考慮しているはずだ。
「警察も水面下で動いているみたいですが確証がない」
「配っているのが無害なサプリだもんね。けれど、夢楽土会の会員が自殺しているのは事実。ついには週刊誌の記者までも嗅ぎつけてきた」
瑠璃の推測にさえりが頷く。
「メディアに取り上げられるのは時間の問題です。瑠璃の身元を報道しようとする輩もいる。6年前の事件も掘り返しされるでしょう。そうなる前にフランスで身を隠してほしいんです」
嫌われているとは瑠璃の間違った先入観だと気付く。さえりは瑠璃の身を案じているのだ。
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