糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
267 / 644
3章 死神が誘う遊園地

夏と夢と信仰と補習 16

しおりを挟む
   私の意識に飛び込んできたのはラッパの音楽とウェルカムボードを持った女性。
   彼女は私に笑顔を向けていていた。動きやすそうなブーツと短い丈の創作着物は黄緑とピンクの明るい配色になっている。
   私、ベッドで寝ていた、よね?
   戸惑いながらも周囲を見渡す。ラスクサークルのタイルが地面に敷き詰められていて巨大な円の描き、その中心には目を奪われる見事な城があった。
   シミひとつも許さない白い外装に青い屋根が鮮やかだった。ファンタジーの映画やアニメの世界だと信じてしまいそうになる。
   「初めてのご来園ですか?」
   お城に見張られていると女性が話しかけてきて、私の意識は再び彼女に戻る。
   「こちらがキャストとから放浪者様へのプレゼントです!」
   ポーチやポケットらしきものは見当たらないのに気が付けば女性の手にスマホによく似た端末とポップコーンがあった。そして、掲げていたはずのウェルカムボードがなくなっている。
   「キャスト?」
   「我々のことです!放浪者様にサービスを提供しております!」
   キャストの笑顔が崩れず、ますます混乱する。
   私はベッドで寝てしまったの?これは夢?
   キャストは説明を続ける。
   「園内は5つのエリアに分かれております。現在地はキャッスルタウンのお城前になります。キャッスルタウンは園内の中心になりまして、南西にポートエリア、北西にフォレストエリア、北東にリメインズエリア、南東にナイトエリアがあります。各エリアごとにイベントが催されていますのでぜひご参加ください!またお休みになりたい場合はナイトエリアにありますホテルをご利用ください!」
   「えっと」
   混乱した頭に園内の説明をされても理解できない。
   「端末に園内の地図が表示されます!」
   キャストが渡した端末の画面が光る。私は恐るおそる画面を見る。 
   液晶の画面には「yumezono」とエメラルドグリーンを基調した鮮やかなロゴが表示されていた。次に現れたのは長い鼻を持ったピンクのテディベアでこちらに手を振って話しかる。
   「ハァイ☆リメインズエリアでダンサーたちのshowが開演するよ☆みんなで踊って楽しもう☆」
   「そちらはパク君です!」
   キャストの説明が入る。
   「パクくんは園内の案内役となっております!端末でのサービスは他にもありまして、アトラクションの待ち時間、園内のニュース、SNSもご利用できます!」
   「SNSも?」
   「もちろんです!」
   端末のホーム画面に移るとSNSらしきアイコンを探す。黄、紺、赤のアイコンを選択する。
   楽しげなツーショットに見映えの良い食事。共感されたハートの数と盛り上がるコメント欄。眺めていたら胸が高鳴ってきた。
   「質問はございますか?」
   SNSは少しだけ楽しそうに思えた。画面から目の前の風景に目線を戻す。
   楽しげな会話をしながら店の商品を眺める友人たち、お城を背景の写真を撮るカップル。ありふれた遊園地の風景。けど、夢にしてはリアルだ。
   「質問って言っても」
   不満のほうが大きかった。
   夢の中なら何でもありと納得できる。ベッドで寝ていたら夢の世界にいたなんて日常的だ。私が抱く不満は独りの私に楽しんでと言っているようなキャストにあった。
   突然置かれた状況に混乱しているのに。
   「夢の中なら恋人でも出てくればいいのに」
   ぽつりと呟いた願望をキャストは聞き逃さなかった。
   「お連れ様をお探しでしょうか?」
   「え、連れ、というか」
   キャストが変な誤解をしてしまった。弁解しようとしても呟きを聞かれたことへの恥ずかしさで顔を俯かせる。
   「それでしたらSNSで検索してみてください!中には素敵な出会いもありますよ!」
   素敵な、出会い?
   キャストが話す単語に仄かな期待が灯った。
   「それではお楽しみください!」
   意識がはっきりとしている夢の中、期待は少なくともあるけど、戸惑いが強い。
   園内のエリアや端末の機能、なかなかの設定が凝っている夢、よね?
   情報源と言えばサービスとして貰ったこの端末だけ。
   ここは夢ですか?そんなことを質問するのは馬鹿げているとわかっていても漠然とした疑問を解消したかった。
   それを問おうと顔を上げると私の前に立っていたキャストはいなくなっていた。賑わう人々の声と楽しいラッパの音楽が不安ばかりの私を孤立させる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...