糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

ミラーハウス 1

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   詩人は筆、侍は刀。近代的なもので例えるならば、眼鏡、携帯電話といったところか。これらのように当たり前に持ち歩いているものは自分の一部だと錯覚する。
   瑠璃にとって白鋏は一部になっていた。白鋏が粉々になった際、彼女が呆然となったのはそれが理由だろう。
   カンダタは立坑を仰ぎ、登れないかと思案してみる。骨折した腕であの高さを登るのは無理だ。
   見上げても天井の光は見えない。それほど深く落下したのにも関わらず、カンダタも瑠璃も傷はなかった。それよりも折られた腕が深刻だ。
   瑠璃を追って自ら飛んで落ちた後、2人の身に何が起きたのかよくわからない。
   空洞に落ちるとこの身は一筋の光もない闇に覆われ、左右の感覚も掴めずに助けるべき瑠璃の姿さえ見えなかった。
   落下の重力に逆らって、謎の力がカンダタの身体を引き寄せた。謎の力がカンダタと瑠璃を引き寄せると落下の衝撃を一任に背負った。
   「ハク、もう平気。ありがとう」
   振り向くと瑠璃が気を取り戻し、起き上がる。瑠璃は二本脚で立とうとするも均衡を崩してふらつく。
   「平気そうには見えないな」
   「あんたに言ってない」
   ひどく苛立った瑠璃が返事をする。
   瑠璃は深呼吸をいくつか繰り返し、一歩を踏み出す。今度は崩れずに歩けた。
   カンダタの隣に立つと空洞を見上げた。2人が見上げても頭上の光はどこにもない。
   ただし、完全な暗闇にはなっていなかった。
   カンダタたちはネオンに光るゲートに振り返る。立坑の底に落ちたあたしたちに待ち構えていたのはアーチ型に電光色がライトアップされたゲートで「ミラーハウス」と書かれていた。
   蟻地獄に嵌った蟻はこういう気分になるのだろうな、と勝手に蟻の気持ちになっていた。
   崩れる砂の穴では上には登れない。背後に待ち受けているのは命を食らう化け物。魂の根幹にまで絶望に侵食されてしまいそうだ。
   気が滅入るような思想になったのは怪しげなゲートと鈍痛が響く腕のせいだろう。
   腕を庇い、顔をしかめ、痛みに耐える。そして、追い打ちをかけてきたのは項の鈍痛だった。
   喉からの決めよう奥歯で噛み締める。全身が痛みを訴えて額に冷えた汗を流す。
   「辛そうね」
   カンダタの様子を横目で見て、他人事のように喋る。
   「折れた腕じゃミラーハウスもろくに歩けないでしょうね。なんでカンダタまで落ちてきたのよ」
   瑠璃が言いたいのは落下しても助けようがなく、折れた腕では足でまといになるとわかっていたのになぜついてきたのかということだ。
   「さぁ、なんでだろうな。そうするべきだと思ったんだ」
   この心理に理屈はいらない。思惑や計算された計画も。そこにあるのは最も単純な心理だ。
   「そのせいであたしは余計な荷物を背負うことになるのよ」
   「まるで、ついてくるなと言われているようだ」
   「あら、よかった。あたしの気持ちを汲み取ってくれて嬉しいわ」
   カンダタは瑠璃を睨む。瑠璃は眉を上げて知らないふりを装おうとするもカンダタの沈黙した言葉のない訴えは続く。
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