糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
291 / 644
3章 死神が誘う遊園地

ミラーハウス 2

しおりを挟む
   カンダタが説かなくとも瑠璃はわかっている。
   背後には未知のミラーハウス。彼女1人で脱出できるような構造にはなっていない。白鋏があれば話は別だが、先刻失ったばかりだ。1人より2人で行動した方がお互いの為になるのだ。
   「腕だして」
   不服そうに白糸を取り出す。細く尖った針穴から白い糸が垂れ下がる。カンダタは折れて痛む腕を差し出す。すると、瑠璃は力強く引き寄せた。
   折れた腕に激痛が走り、呻いた声を上げる。
   「改めて見ると酷いわね」
   あのキャストは笑顔を貼り付けておいてその腕力は遠慮がなかった。山折りにされた前腕の骨は皮膚を破らず、内側に留まっている。
   「で、これはどうすれば治るわけ?」
   医者ではないので骨折した骨の接ぎ方はわからない。カンダタが熟知している知識と言えば骨折した箇所に添え木をすることだけである。頭を振るしかない。
   「ま、魂は生体より単純らしいから適当にやればいいわね」
   呟いてからすぐに瑠璃が何をしようとしているのか予想できてしまった。
   その行為を止めようとした途端、折れて盛り上がった頂点に手を添える。それだけでも声を張り上げてしまう電撃が走る。
   容赦のない瑠璃の手は山折された皮膚、肉、骨に全身の体重をかけて無理矢理平らにさせた。強い電撃を受ける。彼女は意外と力強く、容赦がない。
   電撃の余波で汗が湧き、腹の底から湧き上がりそうな悲鳴をなんとか飲み込む。
   「文句はなしよ」
   詫び入れる様子もなく、白糸の針をカンダタの皮膚にあて骨の奥まで刺す。瑠璃は医療技術の欠片も持ち合わせていない。だと言うのに、迷いはなく、素人の治療はカンダタに苦痛を強いる。
   もちろん、文句はある。だが、口を開ければ情けない悲鳴が上がりそうで、怒りと苦痛を噛み殺して喉に留まらせていた。
   カンダタは瑠璃を睨めつけていた。
   それを無視して一糸目、二糸目と白糸で接げてていく。裁縫の途中、別の電撃がカンダタを襲う。項の痛みだ。
   「それ、カンダタが怒った時に反応してるわね」
   綽々と針を進める瑠璃が言い出す。それとは恐らく、項の痛みだろう。痛みと怒りが繋がっているのか理解できず、眉を顰め、痛みに耐える。
   「気付いていなかったの?」
   そういうことを言われてもこれに関しては自覚がなかった。
   「無条件で痛むものかと考えていたけれど、日増しに怒りも反応するようになってる」
   裁縫の作業が終わり、手を離す。折れて乱雑に扱われていた腕は痛みの余波は残すものの通常の状態に戻った。拳を握り、開いても支障はない。
   「怒っていた?」 
   腕を摩りながら聞き返す。項の痛み、つまりカンダタの内に寄生する黒蝶が苛立ち、不快、憎悪といったものに反応していると言うのが瑠璃の見解だった。
   「偽善に上塗りしすぎて自分の感情もわからなくなったの?呆れたわね。そんなんだから何も決められなくなるのよ」
   嫌味が含んだ瑠璃の呆れに戸惑う。カンダタはそういった感情に覚えがない。
   「似たようなことを言っていたな」 
   瑠璃が睡眠に陥る際、同じようなことを言っていた。彼女らしく痛いところ突く。
   「痴呆持ちの古臭い人には何度も言っておかないとね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...