糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
299 / 644
3章 死神が誘う遊園地

夢みる幸福 1

しおりを挟む
   猫の小さな鼻を鳴らして風に流れる匂いをとらえる。流れてくるのはポップコーン、カフェの食事、花、土、潮。
   海の臭いを明確に捉えようとケイは人々が行き交う橋から手すりへと飛び移る。しかし、流れてくる臭いの方角が掴めない。南に進んでも臭いは近くならず、西に進んでも遠くならない。
   ケイは橋を越え、臭いを辿る。臭いが弱まったような気がして、来た道を戻る。 だからといって臭いは強まらない。 
   先程からこんな調子だ。清音の臭いを探っても人混みと食物に埋もれているのか見つけられない。
   海の辺りだと瑠璃は言っていた。それを手がかりにしてみるも不思議と流れてくる方角がわからない。
   「見ろよ、風変わりなお面をつけた猫がいる」
   「あれバズるぜ」
   ケイを指差した学生たちが薄い板を翳す。
   シャッターが押される前に走りだしたケイは人やオブジェなどの障害物を避け、薄い板の視界から逃れる。
   あの板からは毛を逆撫でさせる嫌な臭気がした。あれは監視の視線に似ている。
   夢園では黒猫が珍しいのか、誰しもがケイを撮ろうと薄い板を構える。
   そうした視線から逃げ続ける。
   ケイが辿り着いたのは絵画のような現実味のない天色の川が張り巡らせたエリアで細い小道が迷路のように入り組んでいる。
   迷子になってしまいそうなエリアの移動手段はゆったりと流れるゴンドラであった。他のエリアと違い、時間が遅く流れるのがポートエリアであった。
   既にポートエリアに着いていたケイだったが、自身がどこにいるのかさえ、把握できていなかった。
   鼻があてにならないのはわかった。ならば、高い所ははどうだろうか。人目の多い地上では薄い板の監視から逃れるので精一杯だ。建物の屋根ならば探しやすいだろう。
   ケイは白い壁を見上げる。オブジェとして並ぶ家々の外装には目立った突起物がなく、あるとすれば窓枠一つだけ。屋根からは洗濯物を干す紐が向かいの建物の屋根にまでかかっている。
   壁登りが得意なカンダタならば、そこは選ばないだろう。野生の猫もまた同じ。
   ケイは身を屈めると白い壁に向かって飛躍する。爪が石の壁に食い込む。直角で平らな壁を難なく登り、赤煉瓦の瓦屋根に着く。
   そこからは港町の風景が広がり、その中で海に浮かぶ四角の建物が目立っていた。
   南の方角に位置しており、魚と亀の看板が大々的に掲げ、愉快な喋り声がスピーカーから流れている。多くの人が集まり、出入りしている。
   人が多ければ清音いるだろうか。もちろん、人が密集すれば不気味な目線も多くなる。屋根の上にいたとしても数人はケイの存在に気付く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...