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3章 死神が誘う遊園地
夢みる幸福 5
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桐 首は向かいのソファに座り、光弥はあたしの隣に腰を下ろす。
翠玉と翡翠が2人に紅茶を淹れるとテーブルの傍に立ち、あたしたちの会話を黙って見守る姿勢になる。
「君が夢園に着いたらホテルに案内させる予定だった。それがキャストに不具合が起きてしまってな」
「あたしは不具合で死にかけたわけ?」
絶えない笑顔に囲まれて、脳が吸い取られる光景は鮮明に焼きついているし、エレベーターから落とされたりもした。そして、白鋏が砕けた。
あたしに起きた出来事を不具合で片付けてしまうには不満がある。
「目下、調査中だ」
「あんた、何者なんだ?」
好奇心に蓋をしていた光弥が堪えきれずに話を切り出した。
「塊人はハザマで作られる。ハザマに属さない塊人はいないはずなんだ」
「私のことは首と呼んでくれ。こちらの方が馴染みがあるんだ」
首は紅茶の香りを嗜み、1口含む。
「追放されたって娘が話していたわよ」
ついさっき聞かれた内容を話す。
「あぁ、そうだ。私はハザマから追われている身なんだ」
首が頷く。
「私には2人の娘がいたんだ。娘たちは生きる者で私は塊人だ。現世と常世の境界線はあったが、あの子たちは私を父と慕い、私も大切に育てた」
翠玉と翡翠を見つめながら話す。首が言う2人の娘とはこの子たちを指している。けれど、そこに立つ偽物の2人ではなく、本物の生きていた娘たちを思いながら話を進める。
「父としてあの子たちを守ろうとした。結局、果たせなかった。ハザマの強行を許せず、反乱を起こしたが、負け戦だったな」
享年11歳。翠玉が話した言葉の重みが首の肩にずっしりと乗りかかる。
後悔を背負い、自責と向い合い続けてきた長い長い年月。数百年分の錘が首の言葉に隠されていた。
「だから、また娘に巡り会えて良かったと思う」
今度はあたしを見据える。
「あなたの娘じゃない」
あたしは彼に育てられた記憶はないし、娘でないことは事実。首の娘はすでに亡くなっているのなら、前世の彼女たちとあたしは関係ない。
首はわかりきっているような諦めの笑みを浮かべた。
「それでも嬉しいんだ。私の娘でなくなっても守らなければと思うのが親心だ。ましてや、弥が同じ惨劇を繰り返そうとしているのなら尚更だ」
「あたしを、守る?」
「バグを見ただろ。ミラーハウスで出現したピンク色の怪物だ」
カンダタを一方的に痛めつけた薄汚いピンクの熊象。あれがバグなのだと認識して頷く。
「あれは兵器だ。防御システムのひとつ。ミラーハウスも黒蝶から瑠璃を守った。まだ改良が必要だがな」
防御システム、外敵、守る。これらのワードが並ぶととある事実に導いた。
「まさか、夢園は」
「楽園にして要塞だ。瑠璃を守る為だけに作ったんだ。長い年月を費やしてね」
あたしの為の楽園だと言われても嬉しくない。
それに燃料としてキャストに捕らえられた人たちや薬の夢園を服用して自殺したい人たちが頭を過ぎった。
他人の生死に無頓着なあたしでも気分が良くなるはずがない。
この男は塊人なのだと改める。娘の為と言っても、首が望むのはそれだけ。その他の命はいくら消費しても構わない。
首はそういう人なんだ。
翠玉と翡翠が2人に紅茶を淹れるとテーブルの傍に立ち、あたしたちの会話を黙って見守る姿勢になる。
「君が夢園に着いたらホテルに案内させる予定だった。それがキャストに不具合が起きてしまってな」
「あたしは不具合で死にかけたわけ?」
絶えない笑顔に囲まれて、脳が吸い取られる光景は鮮明に焼きついているし、エレベーターから落とされたりもした。そして、白鋏が砕けた。
あたしに起きた出来事を不具合で片付けてしまうには不満がある。
「目下、調査中だ」
「あんた、何者なんだ?」
好奇心に蓋をしていた光弥が堪えきれずに話を切り出した。
「塊人はハザマで作られる。ハザマに属さない塊人はいないはずなんだ」
「私のことは首と呼んでくれ。こちらの方が馴染みがあるんだ」
首は紅茶の香りを嗜み、1口含む。
「追放されたって娘が話していたわよ」
ついさっき聞かれた内容を話す。
「あぁ、そうだ。私はハザマから追われている身なんだ」
首が頷く。
「私には2人の娘がいたんだ。娘たちは生きる者で私は塊人だ。現世と常世の境界線はあったが、あの子たちは私を父と慕い、私も大切に育てた」
翠玉と翡翠を見つめながら話す。首が言う2人の娘とはこの子たちを指している。けれど、そこに立つ偽物の2人ではなく、本物の生きていた娘たちを思いながら話を進める。
「父としてあの子たちを守ろうとした。結局、果たせなかった。ハザマの強行を許せず、反乱を起こしたが、負け戦だったな」
享年11歳。翠玉が話した言葉の重みが首の肩にずっしりと乗りかかる。
後悔を背負い、自責と向い合い続けてきた長い長い年月。数百年分の錘が首の言葉に隠されていた。
「だから、また娘に巡り会えて良かったと思う」
今度はあたしを見据える。
「あなたの娘じゃない」
あたしは彼に育てられた記憶はないし、娘でないことは事実。首の娘はすでに亡くなっているのなら、前世の彼女たちとあたしは関係ない。
首はわかりきっているような諦めの笑みを浮かべた。
「それでも嬉しいんだ。私の娘でなくなっても守らなければと思うのが親心だ。ましてや、弥が同じ惨劇を繰り返そうとしているのなら尚更だ」
「あたしを、守る?」
「バグを見ただろ。ミラーハウスで出現したピンク色の怪物だ」
カンダタを一方的に痛めつけた薄汚いピンクの熊象。あれがバグなのだと認識して頷く。
「あれは兵器だ。防御システムのひとつ。ミラーハウスも黒蝶から瑠璃を守った。まだ改良が必要だがな」
防御システム、外敵、守る。これらのワードが並ぶととある事実に導いた。
「まさか、夢園は」
「楽園にして要塞だ。瑠璃を守る為だけに作ったんだ。長い年月を費やしてね」
あたしの為の楽園だと言われても嬉しくない。
それに燃料としてキャストに捕らえられた人たちや薬の夢園を服用して自殺したい人たちが頭を過ぎった。
他人の生死に無頓着なあたしでも気分が良くなるはずがない。
この男は塊人なのだと改める。娘の為と言っても、首が望むのはそれだけ。その他の命はいくら消費しても構わない。
首はそういう人なんだ。
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