糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
327 / 644
3章 死神が誘う遊園地

支配される魂、抗う 7

しおりを挟む
   ケイは回答しないまま沈黙する。あまりにも沈黙が長く続くものだから勝手に行こうかと思い至ると長いヒゲがピクリと動いた。
   「退がれ」
   苛立つケイの空気が更に険しくなった。危険な何かを察知する。
   ケイはテーブルから降り瞬きの間に人の姿に変貌させる。既に白い刀が握られており、客室の扉を睨む。
   清音は後退りをして窓際に背を合わせた。唾を飲み、周囲を確認する。5階の客室でバルコニーはついていない。逃げれる出入り口はケイが見据える扉1つだけ。
   逃げ道がない。清音の魂はケイに託すしかなかった。
   足元の床が振動し始めた。これは先程の地震ではない。長く小刻みに揺れている様子はホテルの通路を何者かが走り伝わってくる振動だ。そして、振動は強くなっていく。
   その振動は清音たちがいる客室の前で止んだ。ケイが見据えている扉の向こうに誰かが立っている。
   不気味な静寂にノックが響いた。 ケイがどんな行動をとるのか清音は注目する。
   ケイは足音を消して扉まで歩み寄ると覗き穴に顔を近づかせる。
   扉の向こうににいたのはケイを熊象に食わせようとした悪趣味な政蔵がいる。覗き穴は政蔵1人しか写していない。
   ケイは鼻をひくつかせ扉に隔てられた臭いを辿る。臭いは政蔵と2人のキャストそして火薬の存在を知らせた。ついでに光弥もいる。
   政蔵が扉を叩く。
   「開けてくれませんかね」
   ノック音と政蔵の呼びかけが隔てた扉から聞こえてくる。
   「居留守は通用しませんよ。ちゃんとわかっていますから。時間がないので銃器で鍵を開けますよ。全自動の機関銃で流れ弾が当たるかもしれませんがね」
   流れ弾を恐れた清音は客室の角に移動し、ベッドと壁の間に身を置く。
   「素直になってくれればこちらの弾を無駄にしなくて済む。早くして下さい」
   ケイは冷静に状況を理解し、そして思案を巡らせば巡らすほど自分たちが追い詰められた現実に打ちひしがれる。
   5階の客室で出入り口はケイが対峙する扉のみ。
   窓から脱出を試みようか、上の階によじ登るか。いっそのこと銃器を装備したキャスト2人に挑んでみようか。
   政蔵に屈せず、打開できるとしたらこんな策しか思い浮かばない。どちらにしてみても無事では済まない。
   「何が目的だ?」
   考えた結果、ケイは政蔵のノックに答える。閉ざされたままの扉からは政蔵のくぐもった笑い声がする。
   「彼は白い刀を欲しがっているがね。私は黒猫の君に興味がある 」
   政蔵の好奇心を惹き寄せる未知なる部分がケイはあるようだった。彼とは政蔵が組んでいる相手のことだろうか。
   いや、そんなことはどうでもいいのだ。政蔵の意識が清音に向いていないのならばケイだけがこの身を差し出せば良い。
   清音を置いていくことになるが、危険を晒すよりは幾分かマシだと言える。
   「わかった。従おう。ただし、清音には手を出すな」
   「ケイ!」
   犠牲になることを察した清音は抗議するように叫ぶ。対して政蔵はそれを嘲る。
   「健気だ。実にいい健気だ。いいだろう、その娘にはては出さない」 
   政蔵の口ぶりは疑心を促すが、扉を開けた。それしか打開策がなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...