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3章 死神が誘う遊園地
十如十廻之白御魂 15
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昌次郎の手に十手が戻った。
「余計なことをしたな」
光弥に対して不満があった。
清音が消えたということは他の放浪者も夢から覚めたことになる。つまり、夢園の資源を失ったのだ。
「なんだよ助けてあげたんだぞ」
あのまま、緊張状態が続いていたらどうなっていたかわからない。恐怖に潰された清音が十手を振り回し、最悪の場合、寝台に眠る新しい妻を傷つけていたかもしれない。
「まぁいい。資源はまた集めればいいんだ。目的は既に果たしている。プログラムのほうは?」
「おっと、忘れてた」
そう言いながらながら光弥はエンターキーを押す。プログラムのインストールが0%から始まる。
「あとは待つだけ」
「そうか」
再会できる喜びに昌次郎は瑠璃の頭を愛しく撫でる。
「やっと永遠の夢が手に入る。遊園地は滅茶苦茶だがそんなの作り直せばいい。エマ、早く会いたいよ」
過去に焦がれる恋慕は待ちどしいと耳元で囁く。
「瑠璃」
カンダタが口から親指を放し、彼女の名前を呼ぶ。
振り出しに戻ったような気分だ。いや、それよりも最悪だ。十手は昌次郎のてにあり、光弥は瑠璃の人格改変を行う。そして、カンダタは蝶化が進んでいた。
脊椎の1つが外され、内側から来る何かを堪える。
「辛そうだな」
「正気でいられる方がおかしいんだ」
「瑠璃、瑠璃!」
深い眠りについている彼女に届くようにカンダタは呼んだ。縋るような叫び声だった。
カンダタを人として繋いでいるのが白糸だ。白糸は瑠璃のものだ。瑠璃の魂が危ぶまれれば、理性を保つ白糸が切れてしまう。
人でありたい。例え、死んでいたとしても意志を失くした人形になりたくない。
「起きろ瑠璃!」
激昂するカンダタに十手が振り下ろされた。目の前まで迫った昌次郎が力一杯の打撃を与えた。
風変わりな十手はカンダタに触れれば高熱を帯び、皮膚を焦がした。
昌次郎が激怒した表情で十手を振ってくることは予想できていたが、カンダタにはそれを回避する力が残っていなかった。
打撃と火傷に耐えきれず跪く。爛れた肌から湯気が立つ。カンダタは苦痛に顔を歪めた。
「彼女はエマだ。私の妻だ」
怒気のある声色が訂正を求める。
昌次郎を見上げると怒りに満ちた顔が静かに見下ろしていた。
「本気で言ってるのか」
娘だぞ?
そう言いかけたところで瑠璃の言葉を思い出す。“真実の愛を盲信し、依存した馬鹿な奴”
確かにその通りだ。実の娘を亡くなった妻の代わりにする。作り上げた妻も自分の理想へと捻じ曲げる。
「彼女は瑠璃だ」
娘の名前さえも覚えていない男に説く。
「お前の娘だ」
戒めとして言い放つ。
拒絶したいものをカンダタに突き出された昌次郎は激情で肩を震わせた。十手を振り上げ、怒り任せの打撃を与える。
跪き、丸まるカンダタの身体を打って突く。無造作に繰り返され、刺さる高熱を凌ぐ。
「あれは!エマだ!エマになる為にいるんだ!俺は今度こそ!幸せになるんだ!永遠の夢の中で!」
耐え凌いでいるかも定かでは無い。熱で爛れた肌に斑点模様が作られる。突かれ打たれ、その度に苦悶した声を漏らす。一度、床についてしまった膝は立ち上がれないと訴える。
蝶男の笑い声が間近に迫る。吐息さえも感じる距離だ。
黙ってくれないか。お前の笑い声は癪に触るんだ。
昌次郎の息が絶えだえになった頃、カンダタへの猛攻が止まった。カンダタは崩壊しそうになる自我を気骨だけで保つ。
動悸は激しく、乱れた呼吸が整えられない。
「必死になって声を上げてたけどさ、無駄だと思うぜ」
光弥が不敵に笑う。寝返って正解だったと誇った顔だ。その笑顔も口調もカンダタを逆撫でされる。
急に胃の中の空洞を埋めたくなった。親指を噛みそうになったので拳を握る。叫ぶ言葉がまだあるのだ。血肉を嗜む暇はない。
「永遠の夢だが、真実の愛だが」
乱れた呼吸の間に言葉を吐く。
「プログラムだが知らねぇよ」
抑えられない食欲は唾を分泌して唇から垂れる。
「あいつがそんなもんに従うはずがねぇ」
十手が振り下された。頭に激突して、焦げた髪が抜ける。
「そうだろう!瑠璃!」
だが、叫ぶ。
「生活リズムどうのこうのと煩かった割には寝坊か!」
「黙れ!」
昌次郎が激昂し、十手は項を打つ。脊髄から虫が湧く。もう少しで溢れそうだ。
「広い所に持ってったほうがいいよ。あれ結構、でかいから」
光弥の助言に従って昌次郎はカンダタの髪を鷲掴みにすると大穴があるほうへと向かう。
「無駄に強くなった意地の見せどころだぞ!」
身体を引き摺られてもカンダタは叫んだ。
あの瑠璃が他人から貰った幸福や夢では満足しない。寧ろ、無駄なものとしてゴミ箱に捨てる。
そういう生き方をしてきたのだ。意地っ張りにもなる。そんな瑠璃が他人に魂を受け渡しはしない。
カンダタの自我はもうすぐなくなる。その直前の瞬間までカンダタは叫ぶ。
「起きろ!瑠璃!」
起きろ、瑠璃。
誰かに呼ばれた気がして振り返る。
広がる風景は高級レストランのディナーを楽しむ客人たちと仕事をこなすウエイター。私を呼んだ人はいない。
「どうした?」
私の向かいに座る彼が問いかける。
「呼ばれた気がしたの。瑠璃って」
すると彼はおかしく笑う。
「るり?そいつは誰だ?君はエマだろ?」
ああ、そうだ。空耳だったとしてもなんで振り返ったのだろう。
「そうよね。私はエマ」
確認するように呟いて、目の前の昌次郎も満足して頷く。
そうよ、他の誰でもない。私はエマ。昌次郎の妻だ。
「余計なことをしたな」
光弥に対して不満があった。
清音が消えたということは他の放浪者も夢から覚めたことになる。つまり、夢園の資源を失ったのだ。
「なんだよ助けてあげたんだぞ」
あのまま、緊張状態が続いていたらどうなっていたかわからない。恐怖に潰された清音が十手を振り回し、最悪の場合、寝台に眠る新しい妻を傷つけていたかもしれない。
「まぁいい。資源はまた集めればいいんだ。目的は既に果たしている。プログラムのほうは?」
「おっと、忘れてた」
そう言いながらながら光弥はエンターキーを押す。プログラムのインストールが0%から始まる。
「あとは待つだけ」
「そうか」
再会できる喜びに昌次郎は瑠璃の頭を愛しく撫でる。
「やっと永遠の夢が手に入る。遊園地は滅茶苦茶だがそんなの作り直せばいい。エマ、早く会いたいよ」
過去に焦がれる恋慕は待ちどしいと耳元で囁く。
「瑠璃」
カンダタが口から親指を放し、彼女の名前を呼ぶ。
振り出しに戻ったような気分だ。いや、それよりも最悪だ。十手は昌次郎のてにあり、光弥は瑠璃の人格改変を行う。そして、カンダタは蝶化が進んでいた。
脊椎の1つが外され、内側から来る何かを堪える。
「辛そうだな」
「正気でいられる方がおかしいんだ」
「瑠璃、瑠璃!」
深い眠りについている彼女に届くようにカンダタは呼んだ。縋るような叫び声だった。
カンダタを人として繋いでいるのが白糸だ。白糸は瑠璃のものだ。瑠璃の魂が危ぶまれれば、理性を保つ白糸が切れてしまう。
人でありたい。例え、死んでいたとしても意志を失くした人形になりたくない。
「起きろ瑠璃!」
激昂するカンダタに十手が振り下ろされた。目の前まで迫った昌次郎が力一杯の打撃を与えた。
風変わりな十手はカンダタに触れれば高熱を帯び、皮膚を焦がした。
昌次郎が激怒した表情で十手を振ってくることは予想できていたが、カンダタにはそれを回避する力が残っていなかった。
打撃と火傷に耐えきれず跪く。爛れた肌から湯気が立つ。カンダタは苦痛に顔を歪めた。
「彼女はエマだ。私の妻だ」
怒気のある声色が訂正を求める。
昌次郎を見上げると怒りに満ちた顔が静かに見下ろしていた。
「本気で言ってるのか」
娘だぞ?
そう言いかけたところで瑠璃の言葉を思い出す。“真実の愛を盲信し、依存した馬鹿な奴”
確かにその通りだ。実の娘を亡くなった妻の代わりにする。作り上げた妻も自分の理想へと捻じ曲げる。
「彼女は瑠璃だ」
娘の名前さえも覚えていない男に説く。
「お前の娘だ」
戒めとして言い放つ。
拒絶したいものをカンダタに突き出された昌次郎は激情で肩を震わせた。十手を振り上げ、怒り任せの打撃を与える。
跪き、丸まるカンダタの身体を打って突く。無造作に繰り返され、刺さる高熱を凌ぐ。
「あれは!エマだ!エマになる為にいるんだ!俺は今度こそ!幸せになるんだ!永遠の夢の中で!」
耐え凌いでいるかも定かでは無い。熱で爛れた肌に斑点模様が作られる。突かれ打たれ、その度に苦悶した声を漏らす。一度、床についてしまった膝は立ち上がれないと訴える。
蝶男の笑い声が間近に迫る。吐息さえも感じる距離だ。
黙ってくれないか。お前の笑い声は癪に触るんだ。
昌次郎の息が絶えだえになった頃、カンダタへの猛攻が止まった。カンダタは崩壊しそうになる自我を気骨だけで保つ。
動悸は激しく、乱れた呼吸が整えられない。
「必死になって声を上げてたけどさ、無駄だと思うぜ」
光弥が不敵に笑う。寝返って正解だったと誇った顔だ。その笑顔も口調もカンダタを逆撫でされる。
急に胃の中の空洞を埋めたくなった。親指を噛みそうになったので拳を握る。叫ぶ言葉がまだあるのだ。血肉を嗜む暇はない。
「永遠の夢だが、真実の愛だが」
乱れた呼吸の間に言葉を吐く。
「プログラムだが知らねぇよ」
抑えられない食欲は唾を分泌して唇から垂れる。
「あいつがそんなもんに従うはずがねぇ」
十手が振り下された。頭に激突して、焦げた髪が抜ける。
「そうだろう!瑠璃!」
だが、叫ぶ。
「生活リズムどうのこうのと煩かった割には寝坊か!」
「黙れ!」
昌次郎が激昂し、十手は項を打つ。脊髄から虫が湧く。もう少しで溢れそうだ。
「広い所に持ってったほうがいいよ。あれ結構、でかいから」
光弥の助言に従って昌次郎はカンダタの髪を鷲掴みにすると大穴があるほうへと向かう。
「無駄に強くなった意地の見せどころだぞ!」
身体を引き摺られてもカンダタは叫んだ。
あの瑠璃が他人から貰った幸福や夢では満足しない。寧ろ、無駄なものとしてゴミ箱に捨てる。
そういう生き方をしてきたのだ。意地っ張りにもなる。そんな瑠璃が他人に魂を受け渡しはしない。
カンダタの自我はもうすぐなくなる。その直前の瞬間までカンダタは叫ぶ。
「起きろ!瑠璃!」
起きろ、瑠璃。
誰かに呼ばれた気がして振り返る。
広がる風景は高級レストランのディナーを楽しむ客人たちと仕事をこなすウエイター。私を呼んだ人はいない。
「どうした?」
私の向かいに座る彼が問いかける。
「呼ばれた気がしたの。瑠璃って」
すると彼はおかしく笑う。
「るり?そいつは誰だ?君はエマだろ?」
ああ、そうだ。空耳だったとしてもなんで振り返ったのだろう。
「そうよね。私はエマ」
確認するように呟いて、目の前の昌次郎も満足して頷く。
そうよ、他の誰でもない。私はエマ。昌次郎の妻だ。
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