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3章 死神が誘う遊園地
痛みの共鳴 1
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「この店の予約、大変だったでしょう?」
前菜のムースを掬い、口に運ぶ。トマトの甘さとミルクのまろやかさに満足して舌鼓をする。
「経営者が知り合いでね。融通をきかせてもらった」
昌次郎が人差し指を唇に当てる。「内緒だ」と茶目っ気のある仕草にこちらもはにかむ。
ちゃんと笑顔を作れただろうか。付き合ってしばらく経つのにどこか違和感がある。
きっとまだ緊張しているんだ。昌次郎と目が合うだけで胸が高なり、血が沸騰しそうになる。
「好きな映画とかあるか?」
昌次郎が私を知りたいと質問してくる。私も彼のことを知りたい。
「そうね」
思考を巡らしてみる。いくつもの映画を観てきたのにはずなのにタイトルどころか内容が朧げになって思い出せない。
昌次郎は期待の眼差しで私を見つめる。首を捻って頭にあるタイトルが浮かぶ。
「オリエント急行殺人事件」
「違うだろ」
好きな映画を述べたのに間髪入れずに否定されてしまった。
違う?昌次郎が違うと言うなら違うのだろう。
「エマが好きなのはディズニー映画だ」
そう、そうだった。
「白雪姫、眠れる森の美女」
望んだ答えがもらえて昌次郎は満足する。
「昌次郎は?好きな映画」
「美女と野獣。君と一緒にディズニーだ」
「一緒。そうね、一緒だわ」
口角を上げて嬉しさを表現する。好きな人と好きなものが一緒だなんて喜ばしいことなのだろう。
ウエイターがワインを注ぎに来た。昌次郎はこの日のために用意した特別なワインだと照れながら話す。
銘柄を聞かされても良さはわからない。特別な人が用意した特別な品なら喜んで飲まないと。
大きなグラスに少なめのワインが注がれて一口分、飲んだ。
ワインは香りが良いという。甘みがあったり渋みがあったりするようだ。
私が飲んだそれは何も感じなかった。濃厚な香りもアルコールの味もしない。
「そりゃあ、そうよ。だってあたしは飲んだことがないんだから」
背後から声が聞こえて振り返る。誰もいない。
なぜか、あの声は聞き慣れている気がする。
「エマ?どうしたんだ?エマ?」
私は誰もいない店内を見渡して誰かを探す。その誰かはいるはずなのにどこにもいない。
「エマ!」
昌次郎が怒鳴り、咄嗟に視線を戻す。
「ごめんなさい」
彼の機嫌を損ねてしまった。
「何度も呼んだじゃないか。頼むから1回で返してくれ」
呼ばれたら必ず返事をする。彼の笑顔を保たせる。私の視界から彼を外してはいけない。
彼との約束事をいくつも破ってしまった。
「ほんと、ごめんなさい」
「メインディッシュだってまだ来てないんだぞ。完璧なディナーにしよう」
「そうね」
気を取り直して笑ってみせる。 昌次郎が笑って返す。
「愛してるよ、エマ」
これの返しは決まっている。
「私もあ、い」
お決まりの台詞に声が詰まった。
昌次郎の眉間に皺が寄り、すぐに直そうとすると今度はケータイが鳴った。私はケータイに耳を当てる。
「ママァ、はやくかえってきてよぉ」
電話の主は幼い女の子だった。
「よるはこわいよぉさびしいよぉ」
ママって誰?私?
「娘が、泣いてる」
ポツリと無意識に声が出た。
前菜のムースを掬い、口に運ぶ。トマトの甘さとミルクのまろやかさに満足して舌鼓をする。
「経営者が知り合いでね。融通をきかせてもらった」
昌次郎が人差し指を唇に当てる。「内緒だ」と茶目っ気のある仕草にこちらもはにかむ。
ちゃんと笑顔を作れただろうか。付き合ってしばらく経つのにどこか違和感がある。
きっとまだ緊張しているんだ。昌次郎と目が合うだけで胸が高なり、血が沸騰しそうになる。
「好きな映画とかあるか?」
昌次郎が私を知りたいと質問してくる。私も彼のことを知りたい。
「そうね」
思考を巡らしてみる。いくつもの映画を観てきたのにはずなのにタイトルどころか内容が朧げになって思い出せない。
昌次郎は期待の眼差しで私を見つめる。首を捻って頭にあるタイトルが浮かぶ。
「オリエント急行殺人事件」
「違うだろ」
好きな映画を述べたのに間髪入れずに否定されてしまった。
違う?昌次郎が違うと言うなら違うのだろう。
「エマが好きなのはディズニー映画だ」
そう、そうだった。
「白雪姫、眠れる森の美女」
望んだ答えがもらえて昌次郎は満足する。
「昌次郎は?好きな映画」
「美女と野獣。君と一緒にディズニーだ」
「一緒。そうね、一緒だわ」
口角を上げて嬉しさを表現する。好きな人と好きなものが一緒だなんて喜ばしいことなのだろう。
ウエイターがワインを注ぎに来た。昌次郎はこの日のために用意した特別なワインだと照れながら話す。
銘柄を聞かされても良さはわからない。特別な人が用意した特別な品なら喜んで飲まないと。
大きなグラスに少なめのワインが注がれて一口分、飲んだ。
ワインは香りが良いという。甘みがあったり渋みがあったりするようだ。
私が飲んだそれは何も感じなかった。濃厚な香りもアルコールの味もしない。
「そりゃあ、そうよ。だってあたしは飲んだことがないんだから」
背後から声が聞こえて振り返る。誰もいない。
なぜか、あの声は聞き慣れている気がする。
「エマ?どうしたんだ?エマ?」
私は誰もいない店内を見渡して誰かを探す。その誰かはいるはずなのにどこにもいない。
「エマ!」
昌次郎が怒鳴り、咄嗟に視線を戻す。
「ごめんなさい」
彼の機嫌を損ねてしまった。
「何度も呼んだじゃないか。頼むから1回で返してくれ」
呼ばれたら必ず返事をする。彼の笑顔を保たせる。私の視界から彼を外してはいけない。
彼との約束事をいくつも破ってしまった。
「ほんと、ごめんなさい」
「メインディッシュだってまだ来てないんだぞ。完璧なディナーにしよう」
「そうね」
気を取り直して笑ってみせる。 昌次郎が笑って返す。
「愛してるよ、エマ」
これの返しは決まっている。
「私もあ、い」
お決まりの台詞に声が詰まった。
昌次郎の眉間に皺が寄り、すぐに直そうとすると今度はケータイが鳴った。私はケータイに耳を当てる。
「ママァ、はやくかえってきてよぉ」
電話の主は幼い女の子だった。
「よるはこわいよぉさびしいよぉ」
ママって誰?私?
「娘が、泣いてる」
ポツリと無意識に声が出た。
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