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3章 死神が誘う遊園地
痛みの共鳴 8
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息が絶えだえになりながらもやっと地に伏せた。
薄汚いピンクの胴体を踏みつけてケイは片割れのバグを見遣る。
どこを斬ってもバグは動く。四肢を裂き、頭を潰しても腹からの長い舌が身体に絡んでくる。舌を切断しても、芋虫のような動きで胴体だけで飲み込もうとする。
片腕の負傷に加えて助骨が3本、内臓の損傷といった状態である。折れた骨が肺に刺さり息苦しい。
あと、1体いる。
突き刺した白い刀を見下ろす。刀身は腹の口腔奥にある喉を貫通し、地面まで届いている。
このバグはこの1本だけで封じている。これを抜いてしまえば2対1の不利な状況に戻ってしまう。
この傷では1対1でも不利なのは変わりなく、唯一の武器もない。
ケイが考えあぐねていると突如として地面が揺れ始めた。
今までの地震は2体のバグが地上に出ようとした振動であって、現段階では起きようがない。
不審な疑心を抱いているとそれは現れた。
8本脚のそれは蜘蛛のようだ。胴と糸を織り成す尻がなくとも、そんな印象を受けた。その中心部分には2つの黒い影があった。
遠目からでもあの2人だと直感した。
カンダタが蝶化したのだ。本来ならば、瑠璃が危険だと判断し、助けに向かうべきだ。
だが、ケイは蜘蛛の脚から伝わる咆哮によって身体を縛られた。畏怖で圧倒されたわけではない。
大気を揺らすあの咆哮が悲鳴に聞こえたからだ。
蜘蛛の脚がバグを貫き、そこから2本を追加すると薄汚いピンクの胴体は脆くあっけなく引き裂かれた。猫が鼠を甚振るように何度も刺して裂く。文字通りの八つ裂きだ。
身の毛も弥立つ光景にも場違いな感情を抱いていた。この感情を分類するならば同情・哀れみといったところだ。
彼らは涙の代わりに叫んでいる。悲しみよりも先に怒りが先立ち、それが咆哮になっている。カンダタが叫べば瑠璃が共鳴して叫ぶ。叫ぶだけでは物足りず、それが破壊となって表れる。
それほどまでの傷を彼らは負っていたのだ。
叫んだ喉の痛みも頭の穴も脊髄が外れるのも。どんな外傷も彼らにとっては掠り傷でしかない。もっと深く広く根付いてしまった傷がある。
バグを再起不能まで追いやる。すると今度はホテルへと向きを変える。
荘厳華麗に建つホテルが無価値な瓦礫の山と化す。 見るもの、あるもの全てを破壊尽くす怪物。
まるで子供の癇癪だ。重ねた積み木を崩しては泣きながら怒りながら手当たり次第に物を投げる。それが2人もいるとなれば手のつけようがない。
咆哮は続き、破壊も続く。洋風の街道を潰したかと思えば、三角の塔をよじ登り、鉄骨を折り曲げる。
そうやって道を潰し、瓦礫を増やして次のエリアに行くのだろう。
ケイには癇癪を起こした子供のあやし方を知らない。諦めたように胡坐をかき、怪物の破壊を見守ることにした。
ここは夢の世界なのだ。壊したいように壊せばいい。
それでは彼らの傷は癒えず、解決には至らない。
感情というものは正論では片付かない。人は正論よって感情が抑制される。子供が暴れていたとしてもそれを叱るのが大人だろう。
それは正論だ。非の打ち所がないほど正しい。ただ、抑制された感情の行き場はどこだろうか。
痛みによって生まれた感情の吐け口を彼らは持っていない。感情は捨てようにも捨てられないものだ。感情とは魂そのものなのだから。
そうか、とケイは納得する。彼らは叫んでいる。破壊している。古く錆びた傷の痛みを今、決算しているのだ。
決して傷の舐め合いではない。お互いの傷を更に抉るような痛みの共鳴。
破壊が終わるまでケイは咆哮を聞き続けていた。
薄汚いピンクの胴体を踏みつけてケイは片割れのバグを見遣る。
どこを斬ってもバグは動く。四肢を裂き、頭を潰しても腹からの長い舌が身体に絡んでくる。舌を切断しても、芋虫のような動きで胴体だけで飲み込もうとする。
片腕の負傷に加えて助骨が3本、内臓の損傷といった状態である。折れた骨が肺に刺さり息苦しい。
あと、1体いる。
突き刺した白い刀を見下ろす。刀身は腹の口腔奥にある喉を貫通し、地面まで届いている。
このバグはこの1本だけで封じている。これを抜いてしまえば2対1の不利な状況に戻ってしまう。
この傷では1対1でも不利なのは変わりなく、唯一の武器もない。
ケイが考えあぐねていると突如として地面が揺れ始めた。
今までの地震は2体のバグが地上に出ようとした振動であって、現段階では起きようがない。
不審な疑心を抱いているとそれは現れた。
8本脚のそれは蜘蛛のようだ。胴と糸を織り成す尻がなくとも、そんな印象を受けた。その中心部分には2つの黒い影があった。
遠目からでもあの2人だと直感した。
カンダタが蝶化したのだ。本来ならば、瑠璃が危険だと判断し、助けに向かうべきだ。
だが、ケイは蜘蛛の脚から伝わる咆哮によって身体を縛られた。畏怖で圧倒されたわけではない。
大気を揺らすあの咆哮が悲鳴に聞こえたからだ。
蜘蛛の脚がバグを貫き、そこから2本を追加すると薄汚いピンクの胴体は脆くあっけなく引き裂かれた。猫が鼠を甚振るように何度も刺して裂く。文字通りの八つ裂きだ。
身の毛も弥立つ光景にも場違いな感情を抱いていた。この感情を分類するならば同情・哀れみといったところだ。
彼らは涙の代わりに叫んでいる。悲しみよりも先に怒りが先立ち、それが咆哮になっている。カンダタが叫べば瑠璃が共鳴して叫ぶ。叫ぶだけでは物足りず、それが破壊となって表れる。
それほどまでの傷を彼らは負っていたのだ。
叫んだ喉の痛みも頭の穴も脊髄が外れるのも。どんな外傷も彼らにとっては掠り傷でしかない。もっと深く広く根付いてしまった傷がある。
バグを再起不能まで追いやる。すると今度はホテルへと向きを変える。
荘厳華麗に建つホテルが無価値な瓦礫の山と化す。 見るもの、あるもの全てを破壊尽くす怪物。
まるで子供の癇癪だ。重ねた積み木を崩しては泣きながら怒りながら手当たり次第に物を投げる。それが2人もいるとなれば手のつけようがない。
咆哮は続き、破壊も続く。洋風の街道を潰したかと思えば、三角の塔をよじ登り、鉄骨を折り曲げる。
そうやって道を潰し、瓦礫を増やして次のエリアに行くのだろう。
ケイには癇癪を起こした子供のあやし方を知らない。諦めたように胡坐をかき、怪物の破壊を見守ることにした。
ここは夢の世界なのだ。壊したいように壊せばいい。
それでは彼らの傷は癒えず、解決には至らない。
感情というものは正論では片付かない。人は正論よって感情が抑制される。子供が暴れていたとしてもそれを叱るのが大人だろう。
それは正論だ。非の打ち所がないほど正しい。ただ、抑制された感情の行き場はどこだろうか。
痛みによって生まれた感情の吐け口を彼らは持っていない。感情は捨てようにも捨てられないものだ。感情とは魂そのものなのだから。
そうか、とケイは納得する。彼らは叫んでいる。破壊している。古く錆びた傷の痛みを今、決算しているのだ。
決して傷の舐め合いではない。お互いの傷を更に抉るような痛みの共鳴。
破壊が終わるまでケイは咆哮を聞き続けていた。
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