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4章 闇底で交わす小指
夏と秋の狭間で 1
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夏休みが終わっても、猛暑を乗り越えて9月を迎えたとしても残暑の日差しがあたしを刺す。
日焼け止め塗ってくればよかったわ。
あたしの隣で待つハクはこれから行く会場に胸を膨らませておすわりのポーズで利口な素振りを見せる。食べ放題と聞いて期待してしまっている。
「今から行くのはスイーツブッフェ。フライドチキンが必ずあるわけじゃないのよ」
ハクの期待が外れてしまった時、責められたら困る。
ハードルを下げようとしてみても、尻尾は左右に揺れて、輝く笑顔のまま、ハクは頷く。
好物をたくさん食べれると確信している笑顔ね。
対して あたしはこれからのスイーツブッフェに期待半分、不満半分の心持ちだった。
腕時計を確認してみると13時を回っている。10分の遅刻ね。
誘っておいて遅刻してくるってどうなの?
遅刻するのはわかってはいた。
病院に行ってから来る、と事前に伝えられていたから。だからといって待たされるイライラは解消されない。
駅前のホテルで開催されるスイーツビュッフェのチケットがあるなら喜んで行く。不満になるのはそのチケットを持ってきた人物。
「ごめん、待った?」
駆け足でやってきたのは清音で、風でなびくプリーツスカートが可愛らしい女の子を演出している。
「炎天下で待たされたわ。あたしを干物にするつもり?」
「ほんと、ごめん」
「もういいわよ」
スイーツビュッフェはもう開いている。早く行かないと。
あたしが歩き出せばハクがスキップしてついて来る。
「楽しくなさそうだね。私と行くのそんなに嫌?」
仏頂面のあたしに清音がおどおどした様子で訊いてくる。
「そうね。1人で楽しめるブッフェなら良かったけれど、会話相手がいると気が滅入るわね」
清音の言う楽しくなさそうな顔で返すと彼女は眉を顰める。
「せっかく誘ったのに」
「これ以上、そうしたくなかったら話してないで行くわよ」
そもそも、清音がこの誘いを持ってきたのが意外だった。
あたしにスイーツビュッフェの話を持ちかけてきたのは新学期が始まってから2日目のこと。
ブッフェには行きたい、でも1人では行けないと言う清音の頼みに渋々承諾したのはあたしもスイーツビュッフェの魅力に負けたから。
そんな苛立ちや不満といったものはスイーツを食べると一瞬にして消化された。
四角く切り取られた小さなケーキを3個、白桃ゼリーとコーヒーゼリー、ハク用のステーキの切れ端。それらをテーブルに並べる。
向かいに座る清音は綺麗に盛られたスイーツとパスタのワンプレートをスマホで撮る。先程から皿を持ってきては同じような写真を何枚も撮っている。
まだSNSにはまっているのね。
夢園での一件で、SNSでいいように踊らされたわりには頻繁に利用している。学習能力の低さに哀れみさえ覚えてしまう。
ハクはテーブルに並べられた皿を目配せしてキチンはないかと訴えてくる。
「諦めるのね」
ハクが求めているものはこの会場にはなかった。
小さく告げるとハクは深く項垂れる。期待が大きかった分、それが砕けると落胆も大きい。
その代わりにステーキを持ってきた。ハクにとって初めての牛肉になる。
あたしは透明なゼリーに包まれた白桃をひと口含み、歯ごたえのある果実に幸福感を覚え、笑みが零れる。
「会話の時でもそうゆう笑顔を見せればいいのに」
あたしの笑顔そのものが珍しいのか、清音は呆れたように言った。
「あたしは媚び売りの八方美人じゃないの。清音みたいな人種と一緒にしないで」
「どういう、こと?」
「SNSで愛嬌ばかり振りまいていると低能にに見えてくるってことよ」
はっきりとわかりやすく表現すると清音は自分のスマホを握りしめてあたしを睨む。
日焼け止め塗ってくればよかったわ。
あたしの隣で待つハクはこれから行く会場に胸を膨らませておすわりのポーズで利口な素振りを見せる。食べ放題と聞いて期待してしまっている。
「今から行くのはスイーツブッフェ。フライドチキンが必ずあるわけじゃないのよ」
ハクの期待が外れてしまった時、責められたら困る。
ハードルを下げようとしてみても、尻尾は左右に揺れて、輝く笑顔のまま、ハクは頷く。
好物をたくさん食べれると確信している笑顔ね。
対して あたしはこれからのスイーツブッフェに期待半分、不満半分の心持ちだった。
腕時計を確認してみると13時を回っている。10分の遅刻ね。
誘っておいて遅刻してくるってどうなの?
遅刻するのはわかってはいた。
病院に行ってから来る、と事前に伝えられていたから。だからといって待たされるイライラは解消されない。
駅前のホテルで開催されるスイーツビュッフェのチケットがあるなら喜んで行く。不満になるのはそのチケットを持ってきた人物。
「ごめん、待った?」
駆け足でやってきたのは清音で、風でなびくプリーツスカートが可愛らしい女の子を演出している。
「炎天下で待たされたわ。あたしを干物にするつもり?」
「ほんと、ごめん」
「もういいわよ」
スイーツビュッフェはもう開いている。早く行かないと。
あたしが歩き出せばハクがスキップしてついて来る。
「楽しくなさそうだね。私と行くのそんなに嫌?」
仏頂面のあたしに清音がおどおどした様子で訊いてくる。
「そうね。1人で楽しめるブッフェなら良かったけれど、会話相手がいると気が滅入るわね」
清音の言う楽しくなさそうな顔で返すと彼女は眉を顰める。
「せっかく誘ったのに」
「これ以上、そうしたくなかったら話してないで行くわよ」
そもそも、清音がこの誘いを持ってきたのが意外だった。
あたしにスイーツビュッフェの話を持ちかけてきたのは新学期が始まってから2日目のこと。
ブッフェには行きたい、でも1人では行けないと言う清音の頼みに渋々承諾したのはあたしもスイーツビュッフェの魅力に負けたから。
そんな苛立ちや不満といったものはスイーツを食べると一瞬にして消化された。
四角く切り取られた小さなケーキを3個、白桃ゼリーとコーヒーゼリー、ハク用のステーキの切れ端。それらをテーブルに並べる。
向かいに座る清音は綺麗に盛られたスイーツとパスタのワンプレートをスマホで撮る。先程から皿を持ってきては同じような写真を何枚も撮っている。
まだSNSにはまっているのね。
夢園での一件で、SNSでいいように踊らされたわりには頻繁に利用している。学習能力の低さに哀れみさえ覚えてしまう。
ハクはテーブルに並べられた皿を目配せしてキチンはないかと訴えてくる。
「諦めるのね」
ハクが求めているものはこの会場にはなかった。
小さく告げるとハクは深く項垂れる。期待が大きかった分、それが砕けると落胆も大きい。
その代わりにステーキを持ってきた。ハクにとって初めての牛肉になる。
あたしは透明なゼリーに包まれた白桃をひと口含み、歯ごたえのある果実に幸福感を覚え、笑みが零れる。
「会話の時でもそうゆう笑顔を見せればいいのに」
あたしの笑顔そのものが珍しいのか、清音は呆れたように言った。
「あたしは媚び売りの八方美人じゃないの。清音みたいな人種と一緒にしないで」
「どういう、こと?」
「SNSで愛嬌ばかり振りまいていると低能にに見えてくるってことよ」
はっきりとわかりやすく表現すると清音は自分のスマホを握りしめてあたしを睨む。
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