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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 幸せな夢 8
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そういえば、今の影弥は落ち着いている。出会った時は幾度も振り返り、誰もいないのに怒鳴ったりしていた。
「今日は見えない友はいないんだな」
それを言うと影弥は苦笑いを浮かべる。
「口うるさい子でね。あの時はそのせいでゆっくり話ができなかった」
見えない友は置いてきたようだ。見えない友と言い出したのは俺だが、冗談のつもりだった。まさか、真に受けるとは。
「そんな目で見ないでくれよ」
俺は不信感を表していた。影弥は頭を掻き、それを払拭しようと試みる。
「僕が信用できないのはわかるよ。幽霊や妖の類と会話する謎の男の指示に従えるはずもない。赤眼君は愚直じゃないからね。でも」
その眼光は俺を射付く。
「僕だって、君との接触は危険だと判断しつつもこうして会いにきてるんだ。大切な人の魂を賭してまでね」
鋭く、真剣な眼光に嘘は見受けられない。これまでも影弥は嘘は言っていない。根拠はないが、そんな気がする。
「そうだな。どうやったら信用を得られるか」
また頭を悩ました影弥。答えはすぐでたようで、すぐに頭を上げる。
「海辺に荒屋があるのを知っているかい?」
「あぁ」
確かに港から少し離れた場所にそれはある。あそこには貧乏な漁夫の夫婦が暮らしていることも。
「あそこの漁夫は賭博で借金を抱えてね。今夜にでも夜逃げをする。荒屋は空き家になるんだ」
「そんなことをなぜ知っている?」
影弥は笑うだけでその質問には答えなかった。
「明日にでも行ってみるといい。あの荒屋は空き家になるから身を隠せるのには丁度いい」
それが俺の信用を得られるかと言われれば否だ。だが、荒屋には行ってみよう。
「これは赤眼君の為でもあるんだ。僕は君も救いたいと願ってる」
俺も?なぜ、そうなる?
俺は紅柘榴を救う側だ。どうして救われる側になるのか疑問になる。
「詳しく話したいが、話しすぎると予測がずれてしまう。できればこの状態を維持したい」
俺が疑問を口にする前に影弥が呈する。その言葉の一句一句を読み解こうとしてもなんのことかさっぱりわからない。
「赤眼君には申し訳ないと思っているんだ」
ふと、影弥が目を伏せる。奴の態度は一変し、俺に謝罪しているようだった。
「人食い塀がなければあちら側に関わらずに普通の人生を送れた。僕たちの事情に巻き込んでしまった」
申し訳ないと心から思っている口ぶりだ。俺を罠に嵌める態度ではない。
俺は戸惑いもあり、また憤りもあった。
「紅柘榴と出会うまで死んだように生きていた」
思い返せば、死人のような生き方をしていた。明日の飯の為に物を盗み、生きる為に飯を食う。それだけの人生。
「生きる実感を与えてくれたのは彼女だ。だから、人喰い塀に入ってよかった」
影弥を信用したわけではない。だが、この時だけ警戒心が消えていた。清々しく笑う俺に影弥もつられて笑う。
「紅柘榴への気持ちはわかった。随分とご執心のようだ」
改めて言葉にされるといたたまれない照れさがあり、赤らんだ顔を隠そうと手を覆う。
「君だからあの未来が観測できたのかもしれない」
影弥がぽつりと呟いた。
覆っていた手をどかし、影弥へと視線を戻すと奴の姿は消えていた。
その夜、海辺にある荒屋を監視していた。
すると、竹籠を背負った夫婦が周囲を気にし、闇夜に紛れて走る姿を確認できた。それは夜逃げそのものだった。
未来を読んでいたのだろうか。
そんなはずない、と理性が嗜める。
賭博で借金をしていた。その噂は賭博場で聞き込みをすれば出てきそうだ。借金をして夜逃げなんて履いて腐るほどある話だ。
なのに、影弥が未来を読んだ。不思議とそうした考えが頭から離れなかった。
「今日は見えない友はいないんだな」
それを言うと影弥は苦笑いを浮かべる。
「口うるさい子でね。あの時はそのせいでゆっくり話ができなかった」
見えない友は置いてきたようだ。見えない友と言い出したのは俺だが、冗談のつもりだった。まさか、真に受けるとは。
「そんな目で見ないでくれよ」
俺は不信感を表していた。影弥は頭を掻き、それを払拭しようと試みる。
「僕が信用できないのはわかるよ。幽霊や妖の類と会話する謎の男の指示に従えるはずもない。赤眼君は愚直じゃないからね。でも」
その眼光は俺を射付く。
「僕だって、君との接触は危険だと判断しつつもこうして会いにきてるんだ。大切な人の魂を賭してまでね」
鋭く、真剣な眼光に嘘は見受けられない。これまでも影弥は嘘は言っていない。根拠はないが、そんな気がする。
「そうだな。どうやったら信用を得られるか」
また頭を悩ました影弥。答えはすぐでたようで、すぐに頭を上げる。
「海辺に荒屋があるのを知っているかい?」
「あぁ」
確かに港から少し離れた場所にそれはある。あそこには貧乏な漁夫の夫婦が暮らしていることも。
「あそこの漁夫は賭博で借金を抱えてね。今夜にでも夜逃げをする。荒屋は空き家になるんだ」
「そんなことをなぜ知っている?」
影弥は笑うだけでその質問には答えなかった。
「明日にでも行ってみるといい。あの荒屋は空き家になるから身を隠せるのには丁度いい」
それが俺の信用を得られるかと言われれば否だ。だが、荒屋には行ってみよう。
「これは赤眼君の為でもあるんだ。僕は君も救いたいと願ってる」
俺も?なぜ、そうなる?
俺は紅柘榴を救う側だ。どうして救われる側になるのか疑問になる。
「詳しく話したいが、話しすぎると予測がずれてしまう。できればこの状態を維持したい」
俺が疑問を口にする前に影弥が呈する。その言葉の一句一句を読み解こうとしてもなんのことかさっぱりわからない。
「赤眼君には申し訳ないと思っているんだ」
ふと、影弥が目を伏せる。奴の態度は一変し、俺に謝罪しているようだった。
「人食い塀がなければあちら側に関わらずに普通の人生を送れた。僕たちの事情に巻き込んでしまった」
申し訳ないと心から思っている口ぶりだ。俺を罠に嵌める態度ではない。
俺は戸惑いもあり、また憤りもあった。
「紅柘榴と出会うまで死んだように生きていた」
思い返せば、死人のような生き方をしていた。明日の飯の為に物を盗み、生きる為に飯を食う。それだけの人生。
「生きる実感を与えてくれたのは彼女だ。だから、人喰い塀に入ってよかった」
影弥を信用したわけではない。だが、この時だけ警戒心が消えていた。清々しく笑う俺に影弥もつられて笑う。
「紅柘榴への気持ちはわかった。随分とご執心のようだ」
改めて言葉にされるといたたまれない照れさがあり、赤らんだ顔を隠そうと手を覆う。
「君だからあの未来が観測できたのかもしれない」
影弥がぽつりと呟いた。
覆っていた手をどかし、影弥へと視線を戻すと奴の姿は消えていた。
その夜、海辺にある荒屋を監視していた。
すると、竹籠を背負った夫婦が周囲を気にし、闇夜に紛れて走る姿を確認できた。それは夜逃げそのものだった。
未来を読んでいたのだろうか。
そんなはずない、と理性が嗜める。
賭博で借金をしていた。その噂は賭博場で聞き込みをすれば出てきそうだ。借金をして夜逃げなんて履いて腐るほどある話だ。
なのに、影弥が未来を読んだ。不思議とそうした考えが頭から離れなかった。
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