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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 崩れる 10
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目蓋を上げるとそこは暗闇だった。
体中が痛い。態勢を変えようと身を捩る。
身体が動かせない。態勢がおかしい。
膝と腰が深く折りたたまれ、丸まっていた。首も動かせない。足腰を伸ばそうとしても何かが邪魔している。
囲われている?
暗闇の中、手探りで俺を囲っている何かの正体を暴こうとする。
細い棒のようなものが組み合わさり、四角い箱の形となっている。俺は窮屈な箱に入れられていた。
「べに?どこにいる?」
舌がうまく動かせない。いつもより鈍い口調になってしまう。
疑問を投げた俺の声は暗闇に反響し、やがて俺のもとへと戻ってくる。
「彼女は無事だよ」
この声はあいつのものだ。上下左右と視界を回し、蝶男を探す。しかし、目に映るのは暗闇だけだ。
「そんなに探さなくともちゃんといる」
小さな火が灯され、燭台に移る。蝋燭一本の光でさえ眩しく目を瞑る。
「ぐっすり寝ていたよ。もう昼時だ。檻の居心地は良さそうだね」
蝶男の姿を捉えようと痛む目を堪えながら、燭台に向く。蝋燭の火がぼやけ、蝶男の輪郭がはっきりとしない。
「お前、べにのなんだ?」
燭台に照らされる蝶男の顔。なのに、表情が見えない。ただ、失笑したと声色でわかった。
「そこはさ、どこなのか、自分はどうなるのかを聞くべきでは?」
それもそうだ。憎むべき相手なのに納得してしまった。
今はこの檻から脱出する算段をつけなくては紅柘榴を助けに行けない。
だが、俺の頭は鈍間になり、考えがまとまらない。
「気分はどうかな?」
「さいあく、だ」
「痛みは?視界や臭いは?」
「からだが、痛い。視界がぼやけて、頭がだるい」
素直に答えなくてもいいものを質問された通りに口が動く。そうするのが自然だというように。
「なるほど」
「お前も、答えろ」
このままでは蝶男の思惑に流されそうで、俺は反抗的に睨む。
「僕と彼女の関係は、そうだな。例えば僕が探求者だとしたら彼女は道具といったところか」
「どうぐ?」
紅柘榴は道具だと平然と言われれば黙っていられない。
檻を破ってあいつを殺してやりたい。しかし、両手に力が入らない。僅かに動くだけで筋肉がいうことを聞かなくなる。
「べにをしばっているのはお前、なんだな。べにを自由にしろ」
脱力した身体では腹から声が出ず、弱りきった口調で訴える。
「あれは唯一無二の存在だ。代わりはいない」
蝶男が檻の前まで寄ると身を屈める。こちらを観察する。こんなに近くにいるのに顔の輪郭がぼやけている。
「方針を変えてみようと思ってね。試したいものがあるんだ。うまくいけば君の望み通りにしよう」
「のぞみ、どおりに」
気が緩む。
ここから出なくては。この男から紅柘榴を遠ざけなければ。頭ではやるべきことが見えているのに感情だけが抜け、俺は脱力した口調で魅惑的な言葉を繰り返す。
「賭けをしよう」
蝶男が持ちかけた案に視線を上げる。ぼやけた視界で目が合う。
「僕が試したいもの。紅柘榴の代わりとして君が受ける」
「何を、ためすんだ?」
「投薬だ」
そう言うと徐に懐から小瓶を取り出す。
それをはっきり見ようと目を凝らす。中に閉じ込められていたのは無数の黒い芋虫だった。
「これを魂の埋める」
瓶の芋虫は生きており、犇き合い、蠢き合う。
指先から温度が下がるのを感じた。蝶男は瓶の中で生きているそれを投薬と言った。狂っている。
「紅柘榴は何度もしている」
信じられない。
「あれは特別でね。これの投薬が効かない。けど、平凡な君なら効果が表れる」
「それは、なんだ?」
「黒蝶の幼虫さ。これを受け入れれば君も特別な存在になれる。僕のようにね」
俺の前で左手をひけらかす。左手が黒く染まり、千羽の黒蝶へと形を変え、俺の頭上を飛ぶ。そして、蝶男の腕に戻り、人の手に変形する。
「そんなものいらない」
「そうだろうね。君が欲しいのは彼女だ。さて、ここからが賭けの本題だ」
体中が痛い。態勢を変えようと身を捩る。
身体が動かせない。態勢がおかしい。
膝と腰が深く折りたたまれ、丸まっていた。首も動かせない。足腰を伸ばそうとしても何かが邪魔している。
囲われている?
暗闇の中、手探りで俺を囲っている何かの正体を暴こうとする。
細い棒のようなものが組み合わさり、四角い箱の形となっている。俺は窮屈な箱に入れられていた。
「べに?どこにいる?」
舌がうまく動かせない。いつもより鈍い口調になってしまう。
疑問を投げた俺の声は暗闇に反響し、やがて俺のもとへと戻ってくる。
「彼女は無事だよ」
この声はあいつのものだ。上下左右と視界を回し、蝶男を探す。しかし、目に映るのは暗闇だけだ。
「そんなに探さなくともちゃんといる」
小さな火が灯され、燭台に移る。蝋燭一本の光でさえ眩しく目を瞑る。
「ぐっすり寝ていたよ。もう昼時だ。檻の居心地は良さそうだね」
蝶男の姿を捉えようと痛む目を堪えながら、燭台に向く。蝋燭の火がぼやけ、蝶男の輪郭がはっきりとしない。
「お前、べにのなんだ?」
燭台に照らされる蝶男の顔。なのに、表情が見えない。ただ、失笑したと声色でわかった。
「そこはさ、どこなのか、自分はどうなるのかを聞くべきでは?」
それもそうだ。憎むべき相手なのに納得してしまった。
今はこの檻から脱出する算段をつけなくては紅柘榴を助けに行けない。
だが、俺の頭は鈍間になり、考えがまとまらない。
「気分はどうかな?」
「さいあく、だ」
「痛みは?視界や臭いは?」
「からだが、痛い。視界がぼやけて、頭がだるい」
素直に答えなくてもいいものを質問された通りに口が動く。そうするのが自然だというように。
「なるほど」
「お前も、答えろ」
このままでは蝶男の思惑に流されそうで、俺は反抗的に睨む。
「僕と彼女の関係は、そうだな。例えば僕が探求者だとしたら彼女は道具といったところか」
「どうぐ?」
紅柘榴は道具だと平然と言われれば黙っていられない。
檻を破ってあいつを殺してやりたい。しかし、両手に力が入らない。僅かに動くだけで筋肉がいうことを聞かなくなる。
「べにをしばっているのはお前、なんだな。べにを自由にしろ」
脱力した身体では腹から声が出ず、弱りきった口調で訴える。
「あれは唯一無二の存在だ。代わりはいない」
蝶男が檻の前まで寄ると身を屈める。こちらを観察する。こんなに近くにいるのに顔の輪郭がぼやけている。
「方針を変えてみようと思ってね。試したいものがあるんだ。うまくいけば君の望み通りにしよう」
「のぞみ、どおりに」
気が緩む。
ここから出なくては。この男から紅柘榴を遠ざけなければ。頭ではやるべきことが見えているのに感情だけが抜け、俺は脱力した口調で魅惑的な言葉を繰り返す。
「賭けをしよう」
蝶男が持ちかけた案に視線を上げる。ぼやけた視界で目が合う。
「僕が試したいもの。紅柘榴の代わりとして君が受ける」
「何を、ためすんだ?」
「投薬だ」
そう言うと徐に懐から小瓶を取り出す。
それをはっきり見ようと目を凝らす。中に閉じ込められていたのは無数の黒い芋虫だった。
「これを魂の埋める」
瓶の芋虫は生きており、犇き合い、蠢き合う。
指先から温度が下がるのを感じた。蝶男は瓶の中で生きているそれを投薬と言った。狂っている。
「紅柘榴は何度もしている」
信じられない。
「あれは特別でね。これの投薬が効かない。けど、平凡な君なら効果が表れる」
「それは、なんだ?」
「黒蝶の幼虫さ。これを受け入れれば君も特別な存在になれる。僕のようにね」
俺の前で左手をひけらかす。左手が黒く染まり、千羽の黒蝶へと形を変え、俺の頭上を飛ぶ。そして、蝶男の腕に戻り、人の手に変形する。
「そんなものいらない」
「そうだろうね。君が欲しいのは彼女だ。さて、ここからが賭けの本題だ」
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