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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 崩れる 20
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それと同時に黒い感情が生まれる。「外に出れなくても問題ない」それが紅柘榴にとっての通常だ。
外は危険だと言ったのは俺だ。確かにその通りだ。彼女を一人で歩かせるのも不安でしかない。
そうして、「危ない」「不安だ」と言葉で囲んだ堀と人食い塀の違いはなんだろうか。
紅柘榴の自由を願っておきながら、蝶男と同じことをしていないか。
君の望み通りだ。
忌み嫌う声が耳元で囁かれ、振り返る。
「どうしたの?」
俺が急に振り返り、虚空を見つめていたので紅柘榴が訝しむ。
「何でもない」
そういっておきながら俺の背中は冷や汗を流す。項が疼いた。
空腹を満たそうと干し餅を口にする。干し餅にしては柔らかく、柔らかいくせに噛めない。なかなか噛みきれない食感に苛立ち、歯を強く食い込ませると甘い味が広がる。
「なんで、手を食べてるの?」
紅柘榴の指摘され、ようやく気付く。干し餅を握っていた俺の右手は膝の上にあり、左手は口腔にあった。
干し餅だと思って噛んでいたものは俺の親指だった。
口から離すと親指に歯跡の傷がつき、赤い血が滲み出ていた。
昼間のうちに蝶男の動向を探った。そんな動き方をすれば蝶男も俺を見つけやすくなる。動くのは最小限にするべきだが、出発する前にどうしても奴が俺たちに近づいてるのか知っておきたかった。
しかし、蝶男の姿も俺たちを探している男の話も聞かなかった。
俺たちを探していないのか、それとも別のところを探しているのか。
どちらも違う気がする。何かが引っかかる。
項が疼き、俺は首を擦った。
結局、何も得られず荒屋に戻った。
あれこれ考えてはいられない。今夜は出発日だ。松の老木まで紅柘榴を連れて行かなければならない。
紅柘榴にとって山道は初めてだ。
「その影弥って言う人、蝶男と同じ顔をしているのよね。信用できるの?」
「さあな。他に頼れる人がいない」
不安になる紅柘榴に曖昧な返事をし、荷物を整理する。
「だが、雰囲気は違ったな。あいつには人らしさがあった」
「罠、かもしれないよね?」
「十分にありえるな」
荷物は少ないほうが良い。走る時は身軽にしておかなければ。檻から持ってきた小刀も懐に仕舞う。
「犠牲になるとか考えてないよね?」
顔を上げれば紅柘榴が泣きそうな顔をしている。
「俺はべにを泣かせてばかりだな」
自分が情けない。近頃、笑顔より泣き顔の数が増えた。
立ち上がって紅柘榴を抱き寄せると頭を撫でる。泣かせない為の行為だったのに紅柘榴は涙を落としてすすり泣く。
「置いていかないで」
泣きながら懇願する紅柘榴に胸が締めつけられ、抱きしめる腕が強くなる。「いかないで」と願う彼女に「いかない」と答えられずにいた。
夜の山道を歩かせるのを心配していたが、案外紅柘榴は通常の歩調だった。芯が通ったように体幹がしっかりしており、傾度のある道も余裕であった。息切れもしていない。
「ひと晩、歩くの?」
「そこまで遠くない。もうすぐだ」
松の老木まで着くと影弥の姿はなかった。
気落ちする俺に「待ってみよう」と紅柘榴は励まし、幹の上に腰掛けた。俺も隣に座り、寒さを凌ごうと身体を寄せる。
「月が綺麗ね」
呟きながら、天を仰ぐ。紅柘榴の手を拾えば、その手はすっかり冷えていた。
「綺麗だ」
冷えた手を包み込みながら答えた。
そこから肩を寄り添い、互いの吐息に耳を傾けていた。
外は危険だと言ったのは俺だ。確かにその通りだ。彼女を一人で歩かせるのも不安でしかない。
そうして、「危ない」「不安だ」と言葉で囲んだ堀と人食い塀の違いはなんだろうか。
紅柘榴の自由を願っておきながら、蝶男と同じことをしていないか。
君の望み通りだ。
忌み嫌う声が耳元で囁かれ、振り返る。
「どうしたの?」
俺が急に振り返り、虚空を見つめていたので紅柘榴が訝しむ。
「何でもない」
そういっておきながら俺の背中は冷や汗を流す。項が疼いた。
空腹を満たそうと干し餅を口にする。干し餅にしては柔らかく、柔らかいくせに噛めない。なかなか噛みきれない食感に苛立ち、歯を強く食い込ませると甘い味が広がる。
「なんで、手を食べてるの?」
紅柘榴の指摘され、ようやく気付く。干し餅を握っていた俺の右手は膝の上にあり、左手は口腔にあった。
干し餅だと思って噛んでいたものは俺の親指だった。
口から離すと親指に歯跡の傷がつき、赤い血が滲み出ていた。
昼間のうちに蝶男の動向を探った。そんな動き方をすれば蝶男も俺を見つけやすくなる。動くのは最小限にするべきだが、出発する前にどうしても奴が俺たちに近づいてるのか知っておきたかった。
しかし、蝶男の姿も俺たちを探している男の話も聞かなかった。
俺たちを探していないのか、それとも別のところを探しているのか。
どちらも違う気がする。何かが引っかかる。
項が疼き、俺は首を擦った。
結局、何も得られず荒屋に戻った。
あれこれ考えてはいられない。今夜は出発日だ。松の老木まで紅柘榴を連れて行かなければならない。
紅柘榴にとって山道は初めてだ。
「その影弥って言う人、蝶男と同じ顔をしているのよね。信用できるの?」
「さあな。他に頼れる人がいない」
不安になる紅柘榴に曖昧な返事をし、荷物を整理する。
「だが、雰囲気は違ったな。あいつには人らしさがあった」
「罠、かもしれないよね?」
「十分にありえるな」
荷物は少ないほうが良い。走る時は身軽にしておかなければ。檻から持ってきた小刀も懐に仕舞う。
「犠牲になるとか考えてないよね?」
顔を上げれば紅柘榴が泣きそうな顔をしている。
「俺はべにを泣かせてばかりだな」
自分が情けない。近頃、笑顔より泣き顔の数が増えた。
立ち上がって紅柘榴を抱き寄せると頭を撫でる。泣かせない為の行為だったのに紅柘榴は涙を落としてすすり泣く。
「置いていかないで」
泣きながら懇願する紅柘榴に胸が締めつけられ、抱きしめる腕が強くなる。「いかないで」と願う彼女に「いかない」と答えられずにいた。
夜の山道を歩かせるのを心配していたが、案外紅柘榴は通常の歩調だった。芯が通ったように体幹がしっかりしており、傾度のある道も余裕であった。息切れもしていない。
「ひと晩、歩くの?」
「そこまで遠くない。もうすぐだ」
松の老木まで着くと影弥の姿はなかった。
気落ちする俺に「待ってみよう」と紅柘榴は励まし、幹の上に腰掛けた。俺も隣に座り、寒さを凌ごうと身体を寄せる。
「月が綺麗ね」
呟きながら、天を仰ぐ。紅柘榴の手を拾えば、その手はすっかり冷えていた。
「綺麗だ」
冷えた手を包み込みながら答えた。
そこから肩を寄り添い、互いの吐息に耳を傾けていた。
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