399 / 644
4章 闇底で交わす小指
狂う計画 3
しおりを挟む
ケイが回復するまであたしは平穏に過ごした。
決まった時間に起きて決まった電車に乗る。決められた授業を受けて決められた時間で学校を終える。
息苦しくなる日常を過ごしていくとあたしが経験した出来事が非現実だと今更になって気付く。
あたしが嫌っていた「テンプレートの日常」が安心をもたらす平穏だったと皮肉にもあの非現実が教えた。
だからといって非現実が遠くなったわけでもなく、「テンプレートの日常」が好きになったわけでもない。
ふと、隣を見れば白い怪物が欠伸をして大きな牙が露わになる。家に帰ればカンダタが当然のように居座る。
あたし以外にしか認識できない存在。他人に言ったら頭がおかしくなったと言われる現象。これが日常に紛れている非現実。
ハクと目が合うと白い頭をあたしの肩にすり寄せてくる。
最近のハクは何かと甘えてくるようになった。時折、力加減を間違えてあたしを転ばすからやめてほしい。
それを伝えてもハクは切なげな鳴き声を上げて寄ってくるから改めるつもりはないらしい。
あたしは溜息を吐きながら頭を撫でた。
ケイが万全になるまで2週間ほど時間を要した。夏の気温を秋の風が連れ去る日々は、非現実と暮らす日々は、あっという間に過ぎた。
ハザマに向かうその日、あいつらあたしの部屋に集まった。
カンダタ、ハク。この2人は当然として、光弥は予想通り。ケイも必要だから呼んだ。予想外で厄介者そして、お荷物になる彼女まで来た。
「なんであなたまで来るのよ」
苛立ちを隠さない刺々した口調で清音に訊いた。
あからさまなあたしの態度に清音は戸惑い、目を泳がせながら返答を考える。
「私も、何か役に立てるかなって」
「建前を作りたいならもっとマシな言い分ないの?」
清音の思惑は想像できる。その思惑が下心から来ていることも。それを隠そうとして返答した台詞もありきたりで呆れてしまう。
自分の下心が見透かされたと悟った清音は恥じらいに赤らむ顔を俯むかせる。その仕草が恋する乙女そのものであたしの怒りゲージが1つ上がる。
あたしは黒猫のケイを見下ろす。
「こんなの連れてきたって役立たずよ」
「何度も説得した」
そう言うと溜め息を吐く。感情を表さないケイには珍しい。
ついて行くと言い出した時はケイも驚いたでしょうね。
主人が危ない場所に行くのを飼い猫のケイは止めていた。口下手なりに説得したはず。それでも清音は止まらなかった。
「人数は多いほうがいいでしょ」
甘えてくる上目遣いであたしを見る。
「荷物は少ないほうがいいわよ」
そんな目で見てくるものだからあたしの怒りゲージがマックスにまで上がる。眉間に寄った皺があたしの機嫌の悪さを示している。
「怯えてばかりで盾にもならないじゃない」
「言い過ぎだ」
嗜めるカンダタに清音の表情がパッと華やいだ。
「けど、連れていけない。そこは瑠璃と同じだ。別に足手纏いだから言ってるんじゃない。清音は女性でまだ若い」
「それを言ったら瑠璃も同じですよね?」
間髪入れずに身を乗り出した返答にカンダタはたじろぐ。
「瑠璃だって私と同じ歳で、同じ女性ですよね?どうして彼女は良くて私はダメなんですか?瑠璃はそんな特別なんですか?」
早口で捲し立てる質問攻め。カンダタはそこまで食いつく清音が理解できなかった。
「死に行きたいの?」
あたしは氷みたいに冷たい言葉を発した。嫌味や冗談ではなく、警告だった。
清音の食いつきはカンダタの恋慕から来るもの。色恋沙汰で命を賭けるのは馬鹿がするものだわ。
「死」と言う単語は恋に色づく乙女でも冷まさせる。清音はしおしおと肩を落とす。
だからといって、恋慕が消えたわけではないらしい。俯きながらも目線はカンダタを向いている。
「盾になりたいならやらせればいい」
そう言ったのは光弥だった。
「役に立ちたいんだろ?だったら盾でも身代わりでも頑張れよ」
「おい」
無責任な物言いに苦言したのはケイ。光弥は盾でも役に立つと考えているけれど、飼い猫のケイはそれを許さない。
「盾でもいいよ」
清音を守ろうとしたケイの態度は彼女のはつらつとした発言によって消された。
あたしは盛大な溜め息をつく。
「盾でも身代わりでも何でもするよ」
「やめろ」
どうしてもついて行きたいと言い張る清音をケイは制するもその一言だけでは止まりそうもない。
光弥があんなことを言い出さなければ。
恨みがましく光弥を睨む。彼は無表情で何を考えているのかわからない。
次にカンダタへと視線を移すと呆れ困惑している。あたしと目が合うと盛大な溜め息をついた。
あたしと同じく諦めたらしい。
「足を引っ張るようなら、見捨てるわ。もしかしたら鬼の餌にするかも」
半分冗談の皮肉にも清音は構わないと強い意思を持った瞳であたしを見据える。
理由が不純な上に自分が役立たずだって自覚していない。なのに変なところで意固地だから反対しても押し切ろうとする。
本当に鬼の餌にしてやりましょうか。
決まった時間に起きて決まった電車に乗る。決められた授業を受けて決められた時間で学校を終える。
息苦しくなる日常を過ごしていくとあたしが経験した出来事が非現実だと今更になって気付く。
あたしが嫌っていた「テンプレートの日常」が安心をもたらす平穏だったと皮肉にもあの非現実が教えた。
だからといって非現実が遠くなったわけでもなく、「テンプレートの日常」が好きになったわけでもない。
ふと、隣を見れば白い怪物が欠伸をして大きな牙が露わになる。家に帰ればカンダタが当然のように居座る。
あたし以外にしか認識できない存在。他人に言ったら頭がおかしくなったと言われる現象。これが日常に紛れている非現実。
ハクと目が合うと白い頭をあたしの肩にすり寄せてくる。
最近のハクは何かと甘えてくるようになった。時折、力加減を間違えてあたしを転ばすからやめてほしい。
それを伝えてもハクは切なげな鳴き声を上げて寄ってくるから改めるつもりはないらしい。
あたしは溜息を吐きながら頭を撫でた。
ケイが万全になるまで2週間ほど時間を要した。夏の気温を秋の風が連れ去る日々は、非現実と暮らす日々は、あっという間に過ぎた。
ハザマに向かうその日、あいつらあたしの部屋に集まった。
カンダタ、ハク。この2人は当然として、光弥は予想通り。ケイも必要だから呼んだ。予想外で厄介者そして、お荷物になる彼女まで来た。
「なんであなたまで来るのよ」
苛立ちを隠さない刺々した口調で清音に訊いた。
あからさまなあたしの態度に清音は戸惑い、目を泳がせながら返答を考える。
「私も、何か役に立てるかなって」
「建前を作りたいならもっとマシな言い分ないの?」
清音の思惑は想像できる。その思惑が下心から来ていることも。それを隠そうとして返答した台詞もありきたりで呆れてしまう。
自分の下心が見透かされたと悟った清音は恥じらいに赤らむ顔を俯むかせる。その仕草が恋する乙女そのものであたしの怒りゲージが1つ上がる。
あたしは黒猫のケイを見下ろす。
「こんなの連れてきたって役立たずよ」
「何度も説得した」
そう言うと溜め息を吐く。感情を表さないケイには珍しい。
ついて行くと言い出した時はケイも驚いたでしょうね。
主人が危ない場所に行くのを飼い猫のケイは止めていた。口下手なりに説得したはず。それでも清音は止まらなかった。
「人数は多いほうがいいでしょ」
甘えてくる上目遣いであたしを見る。
「荷物は少ないほうがいいわよ」
そんな目で見てくるものだからあたしの怒りゲージがマックスにまで上がる。眉間に寄った皺があたしの機嫌の悪さを示している。
「怯えてばかりで盾にもならないじゃない」
「言い過ぎだ」
嗜めるカンダタに清音の表情がパッと華やいだ。
「けど、連れていけない。そこは瑠璃と同じだ。別に足手纏いだから言ってるんじゃない。清音は女性でまだ若い」
「それを言ったら瑠璃も同じですよね?」
間髪入れずに身を乗り出した返答にカンダタはたじろぐ。
「瑠璃だって私と同じ歳で、同じ女性ですよね?どうして彼女は良くて私はダメなんですか?瑠璃はそんな特別なんですか?」
早口で捲し立てる質問攻め。カンダタはそこまで食いつく清音が理解できなかった。
「死に行きたいの?」
あたしは氷みたいに冷たい言葉を発した。嫌味や冗談ではなく、警告だった。
清音の食いつきはカンダタの恋慕から来るもの。色恋沙汰で命を賭けるのは馬鹿がするものだわ。
「死」と言う単語は恋に色づく乙女でも冷まさせる。清音はしおしおと肩を落とす。
だからといって、恋慕が消えたわけではないらしい。俯きながらも目線はカンダタを向いている。
「盾になりたいならやらせればいい」
そう言ったのは光弥だった。
「役に立ちたいんだろ?だったら盾でも身代わりでも頑張れよ」
「おい」
無責任な物言いに苦言したのはケイ。光弥は盾でも役に立つと考えているけれど、飼い猫のケイはそれを許さない。
「盾でもいいよ」
清音を守ろうとしたケイの態度は彼女のはつらつとした発言によって消された。
あたしは盛大な溜め息をつく。
「盾でも身代わりでも何でもするよ」
「やめろ」
どうしてもついて行きたいと言い張る清音をケイは制するもその一言だけでは止まりそうもない。
光弥があんなことを言い出さなければ。
恨みがましく光弥を睨む。彼は無表情で何を考えているのかわからない。
次にカンダタへと視線を移すと呆れ困惑している。あたしと目が合うと盛大な溜め息をついた。
あたしと同じく諦めたらしい。
「足を引っ張るようなら、見捨てるわ。もしかしたら鬼の餌にするかも」
半分冗談の皮肉にも清音は構わないと強い意思を持った瞳であたしを見据える。
理由が不純な上に自分が役立たずだって自覚していない。なのに変なところで意固地だから反対しても押し切ろうとする。
本当に鬼の餌にしてやりましょうか。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる