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4章 闇底で交わす小指
胚羊水 8
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カンダタと瑠璃は幼い子供に向けられる凶暴的な風景を前に竦んだ。
金縛りが解けたのは新たな蠍の鬼が下の階から上がってきたからだ。2体目の鬼がカンダタたちを視認する。
蠍と目が合うと鋏で身体を千切られるあの惨状が自身にも降ってくるのだと震撼する。
2人は階段を駆け上がり、脅威から逃げる。その背後で鬼が鋏を振り払い、先端の輪が壁を崩した。
壁に張り巡らしてあった血脈が起きた風圧と共に背中にかかる。
鬼の膂力は凄まじく、腕を振るっただけで壁がなくなってしまった。
これほどの力があるならば適当な病室に逃げ込んでも壁ごと戸を破ってくる。走ってまくのも無理だ。歩幅の差が大きすぎる。
1本の回廊を走りながら退路を探す。
走っていた瑠璃が急に立ち止まり、窓の留め具を降す。
「おい!」
瑠璃の考えが伝わってしまった。窓から落ちるつもりだ。
「何があるのかわからないんだぞ」
廃病院の外に地面があるのかでさえ、疑わしい。ここはなんでもあり得て、何でも起きるのだ。
「なら、ここで死ぬ?」
怒鳴るように問われた。瑠璃も生きるのに必死だ。
カンダタは僅かな可能性に賭けることにした。
窓を開け、顔を覗かせる。底無しと思える暗闇が廃病院の周囲を埋めている。その闇に一瞬だけ瑠璃が怯む。
「川がある」
カンダタは暗闇以外を捉えた。目を凝らし、耳を澄ませば、暗闇の中を流れる物陰があり、水音が聞こえてくる。
川に落ちて無事に逃げ切れる保証はないが、地面のない底無しの闇に落ちるよりは心持ちが良くなる。
瑠璃が意を決して身を乗り出す。足が床から離れた瞬間、突拍子もなく吹いた強風が彼女の身体を攫う。
カンダタは咄嗟に手を伸ばし、腕を掴み、なんとか瑠璃を留まらせる。
人間を浮かせてしまう程の強風。カンダタも窓にしがみつき、両足を踏ん張らないと飛ばされてしまいそうだ。
風が吹く方向には蠍の鬼がいる。樹脂の尾が上がり、それがカンダタたちを吸引しようと風を起していた。
「吸引力が頼もしい掃除機ね!」
苦しそうに皮肉を吐く。そのぐらいの余力があるなら少しでもこちらに寄る努力をしてほしい。
筋肉が悲鳴を上げるのも無視し、吸引に逆らう。
窓枠に寄せ、瑠璃は窓枠を握る。カンダタは掴む手を腕から腰へと素早く移動させ、瑠璃を窓から落とす。
1人分の支えがなくなると少しばかりの余裕ができた。
蠍の鬼も吸引では捕らえられないと悟り、樹皮の尾を下げると鬼気迫る勢いで猛進してくる。
鬼に轢かれるよりも先に窓から身を乗り出す。背中に金属の冷たさを感じた。鋏の輪が背中を掠めたのだ。
ひやりとした感覚を残し、カンダタは黒く染まる水面に再び落ちた。
金縛りが解けたのは新たな蠍の鬼が下の階から上がってきたからだ。2体目の鬼がカンダタたちを視認する。
蠍と目が合うと鋏で身体を千切られるあの惨状が自身にも降ってくるのだと震撼する。
2人は階段を駆け上がり、脅威から逃げる。その背後で鬼が鋏を振り払い、先端の輪が壁を崩した。
壁に張り巡らしてあった血脈が起きた風圧と共に背中にかかる。
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これほどの力があるならば適当な病室に逃げ込んでも壁ごと戸を破ってくる。走ってまくのも無理だ。歩幅の差が大きすぎる。
1本の回廊を走りながら退路を探す。
走っていた瑠璃が急に立ち止まり、窓の留め具を降す。
「おい!」
瑠璃の考えが伝わってしまった。窓から落ちるつもりだ。
「何があるのかわからないんだぞ」
廃病院の外に地面があるのかでさえ、疑わしい。ここはなんでもあり得て、何でも起きるのだ。
「なら、ここで死ぬ?」
怒鳴るように問われた。瑠璃も生きるのに必死だ。
カンダタは僅かな可能性に賭けることにした。
窓を開け、顔を覗かせる。底無しと思える暗闇が廃病院の周囲を埋めている。その闇に一瞬だけ瑠璃が怯む。
「川がある」
カンダタは暗闇以外を捉えた。目を凝らし、耳を澄ませば、暗闇の中を流れる物陰があり、水音が聞こえてくる。
川に落ちて無事に逃げ切れる保証はないが、地面のない底無しの闇に落ちるよりは心持ちが良くなる。
瑠璃が意を決して身を乗り出す。足が床から離れた瞬間、突拍子もなく吹いた強風が彼女の身体を攫う。
カンダタは咄嗟に手を伸ばし、腕を掴み、なんとか瑠璃を留まらせる。
人間を浮かせてしまう程の強風。カンダタも窓にしがみつき、両足を踏ん張らないと飛ばされてしまいそうだ。
風が吹く方向には蠍の鬼がいる。樹脂の尾が上がり、それがカンダタたちを吸引しようと風を起していた。
「吸引力が頼もしい掃除機ね!」
苦しそうに皮肉を吐く。そのぐらいの余力があるなら少しでもこちらに寄る努力をしてほしい。
筋肉が悲鳴を上げるのも無視し、吸引に逆らう。
窓枠に寄せ、瑠璃は窓枠を握る。カンダタは掴む手を腕から腰へと素早く移動させ、瑠璃を窓から落とす。
1人分の支えがなくなると少しばかりの余裕ができた。
蠍の鬼も吸引では捕らえられないと悟り、樹皮の尾を下げると鬼気迫る勢いで猛進してくる。
鬼に轢かれるよりも先に窓から身を乗り出す。背中に金属の冷たさを感じた。鋏の輪が背中を掠めたのだ。
ひやりとした感覚を残し、カンダタは黒く染まる水面に再び落ちた。
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