糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

生命になれなかった子たち 2

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 砂利の中から手ごろな石を探す。手の平サイズでそれなりに重量があるやつがいいわね。
 「けが、してるの?」
 子供が不思議そうに傾げる。
 「そうよ。だから、一回殺して蘇らせるの」
 「ここはだめ。いつおにが来るかわかんないから」
 危機感のない暢気な忠告に探す手を止める。
 「かくれる場所おしえてあげる。来て」
 さっきまで泣きそうになっていたのに子供は機嫌を良くして歩き出す。
 あたしは硬直して戸惑っていた。
 あの子は会話ができるし、あたしを襲おうとしない。だからといって素直についていくのも躊躇う。案内された先が安全な場所とは言い切れない。
 あたしがついて行く素振りがないと気付き、子供は立ち止まって手を招く。
 迷った末、ついて行くことにした。
 「起きれる?」
 カンダタに呼びかける。彼は低く呻りながら起きようとするも傷のせいで重い身体は起き上がれない。
 カンダタの右腕を自身の首に回して、あたしの左手は腰の帯紐を握る。
 「1、2、3で立つわよ」
 カンダタが頷いたのを確認してから3の合図で立ち上がる。
 怪我のせいで自身の身体を支えられない。僅かに残っている気力しか使えないからあたしの負荷は大きい。
 無駄に重いカンダタに悪態をついて、引き摺るように運ぶ。
 「おにいちゃん歩けないの?いたいから?つらい?」
 子供が何かしら聞いてくるけれど、今のあたしに言い返す余裕はない。黙っててくれないかしら。
 「おもい?はんぶんもつ?」
 「できもしないのに言わないで」
 ついに堪えられなくなって早口で責める。そうするとまた子供が立ち止まって俯いてしまう。
 あたしの負荷を心配するなら止まらないでほしい。それでなくてもこの男は重いんだから。
 不服を言おうとして思い留まる。これ以上責めたら泣いてしまうかもしれない。
 なら、慰めるべき?どうやって?
 あぁ、もう。なんでこんな面倒事を考えないといけないのよ。
 「案内してくれるだけで助かってるから」
 苛立ちを表に出さないよう、傷つけない言葉を選ぶ。それでも声色であたしの感情が見え隠れする。
 「ほんと?」
 「本当だから」
 子供のくせにあたしの言葉が信用できないらしい。疑い深い沈黙が2人の間に置かれた。その後、子供が頷いて歩き出す。
 気まずさはある。けれど、泣かなかったことにほっと胸を撫で下ろした。
 あたしたちは川に沿って歩いていた。緩やかな上り坂が続き、砂利は小粒から大粒の石ばかりになってくる。
 その辺りから別の子供たち出現するようになった。2~5歳までの子供たちが大粒の石を腕いっぱいに抱えている。
 客は珍しいみたいで、あたしたちの周りに集っては、話しかけてくる。
 多方面から聞こえる声を聞き流す。
 あたしの額に汗の玉が浮かび、こめかみを伝って垂れる。
 それほど歩いていなくても、この重労働はきつい。
 「ここだよ」
 やっと到着した頃には体力が限界に近づいていた。息は荒く、肩が激しく上下する。
 やっぱり、あそこで殺しておけばよかった。
 子供が案内してくれた場所は断崖の麓に横穴が空かれ、そこに十数体の地蔵が並んでいる。河原には子供たちが集めた石を積んで小さな塔を作っていた。
 「おじぞう様のうらにはおにが来ないよ」
 子供たちの言うことを信じて、カンダタを地蔵の裏まで運び、やっと肩の荷を下ろした。
 あたしは重い石を持つ。川の中流まで来ると丁度いい石が見つかりやすいわね。
 「おにいちゃん、元気になる?」
 「もう死んでるから平気よ」
 「わたしたちといっしょなんだね」
 別の子供が言う。
 あたしは適当に相づちをして子供たちを見つめた。子供たちは地蔵越しに純粋な目で観察している。
 いくら人じゃないと言い聞かせても、身形、口調は子供そのもの。そのせいか、この子たちの前で撲殺するのは気が進まなかった。
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