糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

生命になれなかった子たち 6

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 嵐が過ぎた後の河原は砕けた小石が散乱し、鬼の残骸が鎮座する。子供たちが作った塔は見る影もなくなっていた。
 いくつかの溜め息が子供たちから聞こえた。子供には相応しくない哀愁が猫背から漂わせている。
 地蔵から出て行くと石を拾い、塔を一から建て直す。
 1つ2つと重ねて、根気と忍耐だけで高く重ねて、また壊される。
 「ここから出たいと思わないの?」
 あたしは聞いてみた。
 「出れないよ。これがぼくらのばつなんだ」
 背の低い塔を見つめながら答える。
 「ぼくのお母さんはね、ごはんが食べれなかったの。おなかは空っぽなのに食べてもはいちゃって。それでね、つらいつらいってお母さん泣いてた。それってぼくが中にいたせいなんだよね。だから、ぼくもお母さんも生きられなかった」
 あたしもカンダタも言わずに黙って聞いていた。
 「誰もわるくないんだ。でも、誰かが泣くとそれはつみになるから。ぼくたちはとうを作る。それにね、もし出れたとしてもぼくたちだけじゃダメなんだ。びょういんの友だちもツボの友たちも。ぼくたちは同じだから、いっしょじゃないとダメなんだ」
 塔を作る手を止めて、あたしを見上げる。
 「おねえちゃんたちはツボに行くんでしょ?」
 急に話を振られたから徐に頷く。
 「気をつけてね。ツボの友だちはながれたりゆうが違うから」
 「流れた理由って?」
 「ぼくたちやびょういんの友だちはしぜんにながれた。でもツボの友だちはながした人がいるの。だからね、大人はわるい人だっておこってるんだ」
 壺にいる子供は何かしらの怨みを持っているってことかしら?
 「ハコはぜったいにあけたらだめだよ。ことりが出ちゃうから」
 「わかったわ」
 それだけ言い残してあたしたちは河原を去ろうとした。
 「行っちゃうの?」
 違う子供があたしの手を握ってきた。その子は地蔵の裏であたしに抱きついていた子だった。
 握る手を振り払い、立ち去るって即答するべきだった。いつもならできた。
 それができなかったのは「先に進む」より「子供たちを置いて行く」が頭に浮かんだから。
 同情なんかしてない。道の途中で出会して、休憩する場所を借りただけ。
 「だめだよ。おねえちゃんはママじゃないから」
 また別の子供が説得して、握る手を離させる。
 「また会える?」
 別れ惜しく子供が訊ねる。
 「会えないわよ。あなたたちはそこから出ようとしないんだから」
 私は感情を切り捨てるつもりで言った。その後に後悔した。
 河原の子供たちは項垂れて、それ以上は喋らなくなった。
 あたしの一言で思い知らされた。あたしには帰る世界があって、そこでは未来がある。胚羊水に閉じ込められた子供たちは命を持っていない故に過去も未来もない。深いどん底の暗闇では帰る場所もない。
 あたしらしくない。子供相手にこっちまで落ち込んでどうするのよ。
 背を向けて子供たちを置いて去っていく。振り向けば河原の子供たちが手を振っている。
 「瑠璃、行くぞ」
 先に歩くカンダタが催促する。
 「わかってる」
 口ではそう言っても心名残りがある足取りは重い。
 もう振り返らない。心に決めてあたしは川沿いを進む。
 こんな時にハクがいてくれたら。
 重い足取りの中で白い隣人が恋しくなった。
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