419 / 644
4章 闇底で交わす小指
生命になれなかった子たち 7
しおりを挟む
中流から上流へと向かっていくにつれ、緩い坂は険しくなり、砂利の小石は岩へと大きさを変えた。
歩くのがきつくなってきた。
登り坂を上がっていくと遠くから轟音が聞こえてくる。その音を「滝だ」とカンダタは判別する。
轟音のもとに着き、河原の子供たちが話していた「ツボ」を見上げる。
壺は幾つもあって浮遊していた。口縁からは赤か黒かどちらかの液体が滝のように流れ、あたしの目前に広がる湖みたいなものに落ちる。
「これは、滝壺?湖、か?」
カンダタが険悪に言葉を吐く。
あたしとカンダタが眉を顰めていたのはそれが湖と言い難かったから。
湖のようなものに大量の大蛇が犇めき合っていた。
「どっちでもいいわよ。醜悪なのは変わりないんだから」
半分の大蛇は生きて、その半分は死骸となっている。
岸から湖の中心まで今にも崩れそうな一本の橋が渡り、その終点からは螺旋階段が伸びていた。その先を更に辿ると一番巨大な壺がある。その壺だけ滝が流れていない。
「あれが河原の子供たちが話してた壺ね」
同意する様にカンダタが頷く。
橋から壺までの高い螺旋階段は2本あって、赤と青の階段が交互に交わりながら伸びている。
「河原の子たちは様々な蛇がいるって話してたな。助けてくれるやつと無責任な奴といじめてくる奴」
「それが?」
見遣るカンダタの目線を追い、辿り着いたのは1体の大蛇。他の大蛇と違い、赤く膨らんだ大きなこぶが皮を破って無造作にできている。
「楊梅瘡だ」
蛇なのに人間の丘疹みたいなそれにカンダタが話す。
「あれには触れないほうがいい。感染する」
「なんでそう言えるわけ?」
その質問にカンダタは答えなかった。あたしもさほど興味もなかった。
丘疹のある蛇には毒があるから触れない。それだけ覚えておく。
橋の前まで行くとそのボロさに絶句する。
柱は腐り、板床は枯れ、穴が点在する。歩いただけで落ちそうね。
「エスコートしてくれる?」
それは命令とも言えるお願いだった。
「悪いがその言葉は知らないんだ」
「率先して盾になるの。良かったわね。これで一つ賢くなった」
間違った意味だとカンダタは気付いて、あたしを睨むも苦情はしなかった。
床板が崩れないかと足裏で確認してから踏み入れる。頑丈そうな床板を見極めながらカンダタは進む。
2、3歩先の道順を覚えて、カンダタが歩いた道をあたしが辿る。
カンダタがジャンプして床板に空いた穴を避ける。あたしもそれに倣う。
頑丈だと判断されていてもボロい床板は軋み、あたしの体重で落ちてしまうのではないと不安になる。
しかも、フットワークが軽いカンダタと比べて、あたしの身体能力は中の上。カンダタがタン、タン、タンとリズム良く脚を弾ませて進んでもあたしはそんなうまく跳べない。
「ちゃんとあたしが歩ける道を選んでよね」
「安全な道を選んでる。これで橋から落ちたら運のなさを恨むだな」
カンダタの身体能力を基準にしないでほしいわね。
歩きやすさよりも安全性を重視しているみたいで、あたしの文句は聞いてくれなかった。
橋の終点あたりまで着くと橋が途切れて渡れなくなっていた。対面する岸には螺旋階段が建っている。
あそこまで行きたいのに。
カンダタにとっては然程問題はなく、助走もなしに跳ぶと軽々と届いてしまう。
あたしは軽々と跳べない。背後はボロい床板で助走もつけれない。
下を覗けば大蛇と死骸が蠢いている。その光景に怯んでしまう。
なるべく、飛距離を縮ませようとカンダタが手すりを掴み、こちらに腕を伸ばす。
あたしは覚悟を決めて、膝を深く畳んで高く跳んだ。精一杯翔んだけれど、飛距離が足りなかった。
届かないと悟ったカンダタは身体を伸ばし、あたしもできるだけ空中でカンダタを目指して手足を伸ばす。
カンダタが落下するあたしの腕を捕まえる。あたしは途切れた橋から垂れ下がった。
下にいる楊梅瘡の大蛇と目が合い、あたしに牙を向ける。開いた大きな口がこちらに伸びてくる前にカンダタが引き上げた。
地面に転がったあたしは舌打ちをして立ち上がると眼前に聳え立つ螺旋階段を見上げた。
歩くのがきつくなってきた。
登り坂を上がっていくと遠くから轟音が聞こえてくる。その音を「滝だ」とカンダタは判別する。
轟音のもとに着き、河原の子供たちが話していた「ツボ」を見上げる。
壺は幾つもあって浮遊していた。口縁からは赤か黒かどちらかの液体が滝のように流れ、あたしの目前に広がる湖みたいなものに落ちる。
「これは、滝壺?湖、か?」
カンダタが険悪に言葉を吐く。
あたしとカンダタが眉を顰めていたのはそれが湖と言い難かったから。
湖のようなものに大量の大蛇が犇めき合っていた。
「どっちでもいいわよ。醜悪なのは変わりないんだから」
半分の大蛇は生きて、その半分は死骸となっている。
岸から湖の中心まで今にも崩れそうな一本の橋が渡り、その終点からは螺旋階段が伸びていた。その先を更に辿ると一番巨大な壺がある。その壺だけ滝が流れていない。
「あれが河原の子供たちが話してた壺ね」
同意する様にカンダタが頷く。
橋から壺までの高い螺旋階段は2本あって、赤と青の階段が交互に交わりながら伸びている。
「河原の子たちは様々な蛇がいるって話してたな。助けてくれるやつと無責任な奴といじめてくる奴」
「それが?」
見遣るカンダタの目線を追い、辿り着いたのは1体の大蛇。他の大蛇と違い、赤く膨らんだ大きなこぶが皮を破って無造作にできている。
「楊梅瘡だ」
蛇なのに人間の丘疹みたいなそれにカンダタが話す。
「あれには触れないほうがいい。感染する」
「なんでそう言えるわけ?」
その質問にカンダタは答えなかった。あたしもさほど興味もなかった。
丘疹のある蛇には毒があるから触れない。それだけ覚えておく。
橋の前まで行くとそのボロさに絶句する。
柱は腐り、板床は枯れ、穴が点在する。歩いただけで落ちそうね。
「エスコートしてくれる?」
それは命令とも言えるお願いだった。
「悪いがその言葉は知らないんだ」
「率先して盾になるの。良かったわね。これで一つ賢くなった」
間違った意味だとカンダタは気付いて、あたしを睨むも苦情はしなかった。
床板が崩れないかと足裏で確認してから踏み入れる。頑丈そうな床板を見極めながらカンダタは進む。
2、3歩先の道順を覚えて、カンダタが歩いた道をあたしが辿る。
カンダタがジャンプして床板に空いた穴を避ける。あたしもそれに倣う。
頑丈だと判断されていてもボロい床板は軋み、あたしの体重で落ちてしまうのではないと不安になる。
しかも、フットワークが軽いカンダタと比べて、あたしの身体能力は中の上。カンダタがタン、タン、タンとリズム良く脚を弾ませて進んでもあたしはそんなうまく跳べない。
「ちゃんとあたしが歩ける道を選んでよね」
「安全な道を選んでる。これで橋から落ちたら運のなさを恨むだな」
カンダタの身体能力を基準にしないでほしいわね。
歩きやすさよりも安全性を重視しているみたいで、あたしの文句は聞いてくれなかった。
橋の終点あたりまで着くと橋が途切れて渡れなくなっていた。対面する岸には螺旋階段が建っている。
あそこまで行きたいのに。
カンダタにとっては然程問題はなく、助走もなしに跳ぶと軽々と届いてしまう。
あたしは軽々と跳べない。背後はボロい床板で助走もつけれない。
下を覗けば大蛇と死骸が蠢いている。その光景に怯んでしまう。
なるべく、飛距離を縮ませようとカンダタが手すりを掴み、こちらに腕を伸ばす。
あたしは覚悟を決めて、膝を深く畳んで高く跳んだ。精一杯翔んだけれど、飛距離が足りなかった。
届かないと悟ったカンダタは身体を伸ばし、あたしもできるだけ空中でカンダタを目指して手足を伸ばす。
カンダタが落下するあたしの腕を捕まえる。あたしは途切れた橋から垂れ下がった。
下にいる楊梅瘡の大蛇と目が合い、あたしに牙を向ける。開いた大きな口がこちらに伸びてくる前にカンダタが引き上げた。
地面に転がったあたしは舌打ちをして立ち上がると眼前に聳え立つ螺旋階段を見上げた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる