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4章 闇底で交わす小指
生命になれなかった子たち 8
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安定した床に安心したら千を超える段数。
げんなり。肩を落としたあたしの態度はまさにその言葉が合う。
憂鬱になりながらも階段を上がり始める。
螺旋階段は赤と青が交差して伸びている。その不思議な階段は教科書とかで載ってあるイメージ画像に似ていた。
「DNAみたい」
「それはなんだ?」
「人体の設計図よ」
DNAの螺旋階段は人の神秘を説きながら小さなあたしを見下している。高い階段の先には壺の丸い口が小さく見える。
道と言えない道を進んできたのにカンダタは息も上がらず、すいすいと階段を上がっていく。それでいて歩調が遅いあたしに合わせているからますます腹が立つ。
半分まで来るとあたしの限界が訪れた。
一度、腰を下ろしてしまうと足は鉛みたいに固まってしばらくは使えそうにない。
疲弊した様子にカンダタから苦情はなく、彼もあたしより上の段差に腰を下ろした。
半分まで来ると大蛇の湖が一望できる。改めて眺めると吐き気を覚えるほどの禍々しい風景だった。
血と羊水の滝が流れ、赤黒く混ざり合う。そうした湖の水面は大蛇によって隠され、代わりに鱗に赤黒い液体が纏わり付く。
大蛇は何十、何百と重なり合い、下界を埋める。
「神になった気分ね」
「嫌な気分だ」
あたしが吐き捨てるように言うとカンダタも同じように吐く。
下から上へと視線を移すと巨大な壺がある。半分まで登るとその雄大さが伝わってきた。
20mある高さ、縁は5mほど。これだけ大きいと宙に浮く建築物ね。
神の気分が飽きてきたので、立ち上がる。脚はまだ鉛みたいに重かった。
螺旋階段の頂は円板になっていて、その上には壺の縁が間近になっている。
あたしが背を伸ばしても縁には届かない。
カンダタがあたしの脛に腕を回し、持ち上げる。
壺の中は黒い靄が充満していて、一寸先も見えない。
縁に手をかけてよじ登ると顔や脚の肌を靄が撫で、悪寒が全身を包む。
あたしは腹這いになって身体の角度を変えると下で待つカンダタに手を伸ばす。その手を受け取り、カンダタも壺の内部へと入る。
内部は靄が立ち込めてどこに向かえばいいのかさえもわからない。
清音を思い浮かべる。清音に巻いてある赤い糸。
すると、黒い靄の中でピンと張った赤い糸があたしの目に映る。清音の魂が赤い糸となって現れた形。
それが彼女の居場所を教えてくれる。あたしたちは赤い糸を頼りに靄の中へと姿を晦ませた。
周囲は暗い靄で囲まれていたが、歩いて行くにつれ、高さはカンダタの膝あたりまで低くなっていった。
瑠璃はやっと目が慣れたのか、自信のない足取りは速くなり、清音の糸を辿る。カンダタはその後ろを歩いていた。
壺の内部の更に奥へと進むと廃病院で聞いたあの胎動が聞こえるようになり、その内装も病院に似ていた。
ただ、廃病院とは違い、床には幾つもの罅が入り、壁紙も剥がれている。
胎動の音に混じって誰かがカンダタを呼んだ。足を止めたカンダタは回廊を見渡す。
まただ。誰かがカンダタを呼んでいる。それに応えようと見渡すも、その相手がいなくては返事のしようもない。
「何してるの?」
立ち止まった瑠璃が怪訝に訊ねる。
呼ばれたので答えようとしたと素直に言いそうになって、やめた。「お得意の幻聴だと」呆れられそうだ。
「なんでもない」
幻聴の自覚はある。これまでもそういった類のものを経験している。だからといってそれを無視はできなかった。
こういった考えを瑠璃は理解できないだろう。
げんなり。肩を落としたあたしの態度はまさにその言葉が合う。
憂鬱になりながらも階段を上がり始める。
螺旋階段は赤と青が交差して伸びている。その不思議な階段は教科書とかで載ってあるイメージ画像に似ていた。
「DNAみたい」
「それはなんだ?」
「人体の設計図よ」
DNAの螺旋階段は人の神秘を説きながら小さなあたしを見下している。高い階段の先には壺の丸い口が小さく見える。
道と言えない道を進んできたのにカンダタは息も上がらず、すいすいと階段を上がっていく。それでいて歩調が遅いあたしに合わせているからますます腹が立つ。
半分まで来るとあたしの限界が訪れた。
一度、腰を下ろしてしまうと足は鉛みたいに固まってしばらくは使えそうにない。
疲弊した様子にカンダタから苦情はなく、彼もあたしより上の段差に腰を下ろした。
半分まで来ると大蛇の湖が一望できる。改めて眺めると吐き気を覚えるほどの禍々しい風景だった。
血と羊水の滝が流れ、赤黒く混ざり合う。そうした湖の水面は大蛇によって隠され、代わりに鱗に赤黒い液体が纏わり付く。
大蛇は何十、何百と重なり合い、下界を埋める。
「神になった気分ね」
「嫌な気分だ」
あたしが吐き捨てるように言うとカンダタも同じように吐く。
下から上へと視線を移すと巨大な壺がある。半分まで登るとその雄大さが伝わってきた。
20mある高さ、縁は5mほど。これだけ大きいと宙に浮く建築物ね。
神の気分が飽きてきたので、立ち上がる。脚はまだ鉛みたいに重かった。
螺旋階段の頂は円板になっていて、その上には壺の縁が間近になっている。
あたしが背を伸ばしても縁には届かない。
カンダタがあたしの脛に腕を回し、持ち上げる。
壺の中は黒い靄が充満していて、一寸先も見えない。
縁に手をかけてよじ登ると顔や脚の肌を靄が撫で、悪寒が全身を包む。
あたしは腹這いになって身体の角度を変えると下で待つカンダタに手を伸ばす。その手を受け取り、カンダタも壺の内部へと入る。
内部は靄が立ち込めてどこに向かえばいいのかさえもわからない。
清音を思い浮かべる。清音に巻いてある赤い糸。
すると、黒い靄の中でピンと張った赤い糸があたしの目に映る。清音の魂が赤い糸となって現れた形。
それが彼女の居場所を教えてくれる。あたしたちは赤い糸を頼りに靄の中へと姿を晦ませた。
周囲は暗い靄で囲まれていたが、歩いて行くにつれ、高さはカンダタの膝あたりまで低くなっていった。
瑠璃はやっと目が慣れたのか、自信のない足取りは速くなり、清音の糸を辿る。カンダタはその後ろを歩いていた。
壺の内部の更に奥へと進むと廃病院で聞いたあの胎動が聞こえるようになり、その内装も病院に似ていた。
ただ、廃病院とは違い、床には幾つもの罅が入り、壁紙も剥がれている。
胎動の音に混じって誰かがカンダタを呼んだ。足を止めたカンダタは回廊を見渡す。
まただ。誰かがカンダタを呼んでいる。それに応えようと見渡すも、その相手がいなくては返事のしようもない。
「何してるの?」
立ち止まった瑠璃が怪訝に訊ねる。
呼ばれたので答えようとしたと素直に言いそうになって、やめた。「お得意の幻聴だと」呆れられそうだ。
「なんでもない」
幻聴の自覚はある。これまでもそういった類のものを経験している。だからといってそれを無視はできなかった。
こういった考えを瑠璃は理解できないだろう。
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