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4章 闇底で交わす小指
望まなかったもの 7
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さっきよりも深い溜め息が漏れる。
「子供が」
俯いていたカンダタが僅かに視線を上げた。
「子供がいたんだ。べにと俺の間に」
説明は短く、語気は弱い。
「清音が抱いていた赤ん坊?」
あたしが訊ねると弱々しく頷く。
2人の間に子供がいた。けれど、カンダタは蝶男によって命も魂も奪われ、子供は胚羊水にいた。
胚羊水にいたということは紅柘榴は出産できなかったということ。
流産、死産。母子ともに葬られた可能性もある。
力なく項垂れるカンダタにしばらく閉口していた。得意の嫌味皮肉も浮かんでこない。
同情するな。もう一度、言い聞かせる。同情したって人の不幸は救えない。
特にあたしは、両親にも愛されなかったあたしは、誰かの心に寄り添えないんだから。
「最後にヤったのはいつ?」
だから、あたしは心を捨てる。
カンダタは突拍子もない質問に面食らって凝視する。
言いたいことはわかる。
他人で、しかも年下の女性に性交歴を聞かれればセンチメンタルな心でも驚く。
「最後の行為とカンダタが死ぬまで、一週間以上経過していた?」
構わず、質問を重ねる。業務的なあたしの態度にカンダタは戸惑いがらも答える。
「あぁっと、どうだろう。多分、経ってる」
「カンダタと紅柘榴が蝶男から逃亡している時?」
「そう、だな」
「黒蝶を埋め込まれた後?」
その質問にあたしが言いたいことを悟る。カンダタは険しい表情であたしを睨んだ。
「何が、言いたい?」
悟ってはいないとカンダタはそれを拒絶する。
「もし、魂に刻まれた情報が遺伝するものなら?黒蝶も遺伝するとしたら?」
その推測が正しいのなら蝶男がカンダタと紅柘榴を逃したのも、天鳥を使って胚羊水の封印を解いたのも合点がいく。
「蝶男はカンダタに黒蝶を埋めさせて、その状態で紅柘榴を妊娠させた。蝶男が欲しかったのは黒蝶を遺伝した胎児」
その説明にカンダタは挙動不審になっていき、歩き回りながら両耳を塞ぐ。
閉ざした耳にも聞こえるように声を張り上げる。
「蝶男はスペアのつもりだったんでしょうね。だから、出産させずに切除した。紅柘榴の腹を裂いてね」
わざと、残酷な言葉を選ぶ。
「やめろ!」
耳を塞いでいた手は解かれ、あたしの襟首を乱雑に掴む。怒り任せに持ち上げれ、あたしのつま先は地面につくかつかないかのすれすれまで浮かぶ。
とり乱していたカンダタは気付いていないようだけれど、襟が絞められて少しだけ息苦しい。
「そのスペアが必要になったから胚羊水の封印を解いた。そして、天鳥を清音を利用し、回収させて」
「やめろって言ってんだろうがっ!」
「カンダタたちの子が胚羊水にいた!それが事実!あんたが知りたかったものよ!」
荒げるカンダタを上回ろうとあたしは声を張る。
「カンダタが死んだ後の紅柘榴を知りたかったんでしょ。自分のいない人生で幸せに暮らしたとでも思ってたの?殊勝なことね!でも現実はそこまで綺麗じゃないのよ!」
カンダタは開いた口が塞がらず、打ち拉がれながら、あたしの言葉に耳を傾ける。
「途中で辞めるなんて許さないわよ。腹括って進むしかないんだから。あたしも同じ覚悟で挑むから」
傷つき打ち拉がれても「進め」と残酷に言い放つ。「進め」と言うからにはあたしも同じ覚悟で進む。
「お前がっ!お前なんかにっ!」
怒りで歪む。「瑠璃にはわからない」と怒りで燃える赤い瞳が訴える。
あたしは誰かを愛したことはないし、その誰かを失ったこともない。実の家族でさえ、愛されていないから。
そんなあたしが「同じ覚悟」を持てるわけがない。
赤い瞳が生半可なあたしに憤り、恨みの全てを吐こうとする。
「うあっああっああああ!」
渦巻いていた激情はキケイの泣き声によって掻き消された。
あたしたちの様子に只事ではないと察していたキケイは、それでも泣きたい衝動を堪えていた。
けれど、それは続かず、限界を越えて癇癪を起こしてしまった。
襟首を掴んでいた手は離され、カンダタはキケイに瞠目する。
その巨大な赤子をやっと認識した。
耳が痛くなる泣き声にカンダタはぽかんと目と口を開いたまま、動じない。驚きのあまり、思考が停止している。
「子供が」
俯いていたカンダタが僅かに視線を上げた。
「子供がいたんだ。べにと俺の間に」
説明は短く、語気は弱い。
「清音が抱いていた赤ん坊?」
あたしが訊ねると弱々しく頷く。
2人の間に子供がいた。けれど、カンダタは蝶男によって命も魂も奪われ、子供は胚羊水にいた。
胚羊水にいたということは紅柘榴は出産できなかったということ。
流産、死産。母子ともに葬られた可能性もある。
力なく項垂れるカンダタにしばらく閉口していた。得意の嫌味皮肉も浮かんでこない。
同情するな。もう一度、言い聞かせる。同情したって人の不幸は救えない。
特にあたしは、両親にも愛されなかったあたしは、誰かの心に寄り添えないんだから。
「最後にヤったのはいつ?」
だから、あたしは心を捨てる。
カンダタは突拍子もない質問に面食らって凝視する。
言いたいことはわかる。
他人で、しかも年下の女性に性交歴を聞かれればセンチメンタルな心でも驚く。
「最後の行為とカンダタが死ぬまで、一週間以上経過していた?」
構わず、質問を重ねる。業務的なあたしの態度にカンダタは戸惑いがらも答える。
「あぁっと、どうだろう。多分、経ってる」
「カンダタと紅柘榴が蝶男から逃亡している時?」
「そう、だな」
「黒蝶を埋め込まれた後?」
その質問にあたしが言いたいことを悟る。カンダタは険しい表情であたしを睨んだ。
「何が、言いたい?」
悟ってはいないとカンダタはそれを拒絶する。
「もし、魂に刻まれた情報が遺伝するものなら?黒蝶も遺伝するとしたら?」
その推測が正しいのなら蝶男がカンダタと紅柘榴を逃したのも、天鳥を使って胚羊水の封印を解いたのも合点がいく。
「蝶男はカンダタに黒蝶を埋めさせて、その状態で紅柘榴を妊娠させた。蝶男が欲しかったのは黒蝶を遺伝した胎児」
その説明にカンダタは挙動不審になっていき、歩き回りながら両耳を塞ぐ。
閉ざした耳にも聞こえるように声を張り上げる。
「蝶男はスペアのつもりだったんでしょうね。だから、出産させずに切除した。紅柘榴の腹を裂いてね」
わざと、残酷な言葉を選ぶ。
「やめろ!」
耳を塞いでいた手は解かれ、あたしの襟首を乱雑に掴む。怒り任せに持ち上げれ、あたしのつま先は地面につくかつかないかのすれすれまで浮かぶ。
とり乱していたカンダタは気付いていないようだけれど、襟が絞められて少しだけ息苦しい。
「そのスペアが必要になったから胚羊水の封印を解いた。そして、天鳥を清音を利用し、回収させて」
「やめろって言ってんだろうがっ!」
「カンダタたちの子が胚羊水にいた!それが事実!あんたが知りたかったものよ!」
荒げるカンダタを上回ろうとあたしは声を張る。
「カンダタが死んだ後の紅柘榴を知りたかったんでしょ。自分のいない人生で幸せに暮らしたとでも思ってたの?殊勝なことね!でも現実はそこまで綺麗じゃないのよ!」
カンダタは開いた口が塞がらず、打ち拉がれながら、あたしの言葉に耳を傾ける。
「途中で辞めるなんて許さないわよ。腹括って進むしかないんだから。あたしも同じ覚悟で挑むから」
傷つき打ち拉がれても「進め」と残酷に言い放つ。「進め」と言うからにはあたしも同じ覚悟で進む。
「お前がっ!お前なんかにっ!」
怒りで歪む。「瑠璃にはわからない」と怒りで燃える赤い瞳が訴える。
あたしは誰かを愛したことはないし、その誰かを失ったこともない。実の家族でさえ、愛されていないから。
そんなあたしが「同じ覚悟」を持てるわけがない。
赤い瞳が生半可なあたしに憤り、恨みの全てを吐こうとする。
「うあっああっああああ!」
渦巻いていた激情はキケイの泣き声によって掻き消された。
あたしたちの様子に只事ではないと察していたキケイは、それでも泣きたい衝動を堪えていた。
けれど、それは続かず、限界を越えて癇癪を起こしてしまった。
襟首を掴んでいた手は離され、カンダタはキケイに瞠目する。
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