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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
温室栽培 1
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カンダタたちは弥から逃れるため、エレベーターに転がり込みもワイヤーが切れ、無情にも落下した。
「瑠璃、瑠璃」
暗闇の中、カンダタは瑠璃の肩を揺さぶる。
ワイヤーが切れたエレベーターが地面を叩いた瞬間、カンダタたちの身体は大きく跳ねた。
落下した衝撃は激しかったものの速度は短かった。
鞭で全身を打たれたような痛みに悶えながら、見渡してみる。近くにはカンダタと同じくもだえる光弥と激しい落下にも関わらず平然としている黒猫、そして気絶した瑠璃がカンダタの前にいる。
一番近くにいる瑠璃に肩を揺らして反応を伺っていたが、彼女から返ってくるものはない。
明かりもなく、コンクリートで固められた正方形の籠は左右の感覚を狂わせる。
エレベーターは全部機能が停止し、静寂は時間の経過を鈍らせる。そんな中、細い糸をぴんと張ったような一筋の光が漏れた。
立ち上がり、横に伸びた光に手をかざせば指先が溝に嵌り、湿気を多く含んだ熱気を感じた。扉だ。外の光が漏れているのだ。光の筋が横になっているのはエレベーターが横倒しになっているからだろう。
カンダタは隙間を広げようと試みるも歪んだ扉は一人だけでは動きそうにない。
「光弥、手を貸してくれ」
覚醒しているのはカンダタと光弥しかおらず、光弥は腰を痛めながらも手を貸す。
扉は2人がかりで開いた。糸のような細い光ではなくなり、目に痛い強いものへと変わる。
明るさに慣れようと目を眇める。
天井から白色の発光が降り注いでいる。目が痛くなる色をしているが、その光は大きな葉と茎が遮ってくれていた。
それは林檎に似たような果実を実らせる植物だった。緑の葉と緑の茎を目線で辿って赤錆色の土までいくと茎の根元は盛り上がり、周辺の地面は黒いビニールが覆われていた。
この間、映画で観て知ったビニールハウスというものに似ている。しかし、ビニールハウスにしてはいたるものが規格外の大きさをしていた。カンダタたちが小人になったようだ。
「第7層だ」
光弥が開かれた扉から目前の風景を眺めてから呟いた。
カンダタもこの風景を見るのは初めてだ。目指していた第4層には巨大なビニールハウスはなかった。
現状の把握は後でするとして、まずは窮屈なエレベーターから脱出することにしよう。
気絶した瑠璃を背負い、カンダタはエレベーターから這い出る。光弥はケイを抱き、後に続く。
コンクリートの感触から柔らかい土へと変わる。巨大な葉の下にいるようでカンダタたちは影の中で身を潜めれた。
エレベーターを外側から見れば、無残な残骸となって倒れていた。
外装は剥がれ、凹みや穴が作られ、部品やコンクリートの破片が周辺に散っている。こんな有り様だというのにカンダタたちは無傷だ。
疑問に思うことは他にもある。
「なぁ、身体の具合はどうだ?」
瑠璃を適当に横たえてから光弥に尋ねる。
「俺?全身痛いけど、まぁ動けるし走れるよ」
そう言いながら強打した腰を擦る。カンダタも同じようなものだ。
エレベーターの落下衝撃は大きいものだった。だが、カンダタも光弥も軽い打撲程度で済んでいる。
ケイが気絶しているのもおかしい。ある程度の高さならば対応できるはずだ。光弥が無事なら猫のケイも気絶などしない。
瑠璃もケイも当たり所が悪かったのだろうか。もう一度、瑠璃の肩を揺り、鼻をつまむ。無反応だ。
「まいったな」
いつ目を覚ますかわからない彼女の前でぼやく。
外傷も見当たらない。カンダタには判断ができない。
瑠璃を置いていく選択が頭に浮かぶ。自分だけでも行くべきかと焦りからそう思ってしまうが、得策ではない。瑠璃が必要だ。
これからの立ち回り方を思案していると地面が微小に揺れ始めた。
「農夫が来たんだ」
光弥が声を潜めて言う。
口で説明するより見たほうが早い。カンダタは農夫と言う正体を確かめようと盛り上がった黒いビニールを登り、影から出る。
「バレないようにな」
背後から心配そうに光弥が言う。
手に汗が滲んだ。肌に纏わりつく熱気と湿気のせいかもしれない。
光弥が第7層と言っていた風景がそこに広がる。
ビニールハウスと呼ばれる室内は林檎のようなものを栽培していた。
林檎の木々が連なり、その列が何十にも並んでいる。
その奥で林檎の大樹よりも背の高い巨人がいた。贅肉で膨らんだ腹につなぎの服はきつそうで、デニム生地が限界まで伸びている。頭は麦わら帽子を被り、天井からの発光を避け、顔は漆黒の影に隠れていた。ただ、山吹色の目玉が影の中で光り、それがさらに不気味にさせた。
巨人は異様に膨らんだゴム手袋で器用に林檎を収穫している。
光弥が言っていた農夫とは奴のことだろう。
カンダタたちを乗せたエレベーターはワイヤーが切れてしまった。落下の途中で止まったのは幸運だったかもしれない。だが、第4層を超え、第7層まで落ちてしまったのだ。
思わず舌打ちする。燻る焦燥を抑えられない。
目覚めない瑠璃を含め、これからのことを改めて考えないといけない。
「瑠璃、瑠璃」
暗闇の中、カンダタは瑠璃の肩を揺さぶる。
ワイヤーが切れたエレベーターが地面を叩いた瞬間、カンダタたちの身体は大きく跳ねた。
落下した衝撃は激しかったものの速度は短かった。
鞭で全身を打たれたような痛みに悶えながら、見渡してみる。近くにはカンダタと同じくもだえる光弥と激しい落下にも関わらず平然としている黒猫、そして気絶した瑠璃がカンダタの前にいる。
一番近くにいる瑠璃に肩を揺らして反応を伺っていたが、彼女から返ってくるものはない。
明かりもなく、コンクリートで固められた正方形の籠は左右の感覚を狂わせる。
エレベーターは全部機能が停止し、静寂は時間の経過を鈍らせる。そんな中、細い糸をぴんと張ったような一筋の光が漏れた。
立ち上がり、横に伸びた光に手をかざせば指先が溝に嵌り、湿気を多く含んだ熱気を感じた。扉だ。外の光が漏れているのだ。光の筋が横になっているのはエレベーターが横倒しになっているからだろう。
カンダタは隙間を広げようと試みるも歪んだ扉は一人だけでは動きそうにない。
「光弥、手を貸してくれ」
覚醒しているのはカンダタと光弥しかおらず、光弥は腰を痛めながらも手を貸す。
扉は2人がかりで開いた。糸のような細い光ではなくなり、目に痛い強いものへと変わる。
明るさに慣れようと目を眇める。
天井から白色の発光が降り注いでいる。目が痛くなる色をしているが、その光は大きな葉と茎が遮ってくれていた。
それは林檎に似たような果実を実らせる植物だった。緑の葉と緑の茎を目線で辿って赤錆色の土までいくと茎の根元は盛り上がり、周辺の地面は黒いビニールが覆われていた。
この間、映画で観て知ったビニールハウスというものに似ている。しかし、ビニールハウスにしてはいたるものが規格外の大きさをしていた。カンダタたちが小人になったようだ。
「第7層だ」
光弥が開かれた扉から目前の風景を眺めてから呟いた。
カンダタもこの風景を見るのは初めてだ。目指していた第4層には巨大なビニールハウスはなかった。
現状の把握は後でするとして、まずは窮屈なエレベーターから脱出することにしよう。
気絶した瑠璃を背負い、カンダタはエレベーターから這い出る。光弥はケイを抱き、後に続く。
コンクリートの感触から柔らかい土へと変わる。巨大な葉の下にいるようでカンダタたちは影の中で身を潜めれた。
エレベーターを外側から見れば、無残な残骸となって倒れていた。
外装は剥がれ、凹みや穴が作られ、部品やコンクリートの破片が周辺に散っている。こんな有り様だというのにカンダタたちは無傷だ。
疑問に思うことは他にもある。
「なぁ、身体の具合はどうだ?」
瑠璃を適当に横たえてから光弥に尋ねる。
「俺?全身痛いけど、まぁ動けるし走れるよ」
そう言いながら強打した腰を擦る。カンダタも同じようなものだ。
エレベーターの落下衝撃は大きいものだった。だが、カンダタも光弥も軽い打撲程度で済んでいる。
ケイが気絶しているのもおかしい。ある程度の高さならば対応できるはずだ。光弥が無事なら猫のケイも気絶などしない。
瑠璃もケイも当たり所が悪かったのだろうか。もう一度、瑠璃の肩を揺り、鼻をつまむ。無反応だ。
「まいったな」
いつ目を覚ますかわからない彼女の前でぼやく。
外傷も見当たらない。カンダタには判断ができない。
瑠璃を置いていく選択が頭に浮かぶ。自分だけでも行くべきかと焦りからそう思ってしまうが、得策ではない。瑠璃が必要だ。
これからの立ち回り方を思案していると地面が微小に揺れ始めた。
「農夫が来たんだ」
光弥が声を潜めて言う。
口で説明するより見たほうが早い。カンダタは農夫と言う正体を確かめようと盛り上がった黒いビニールを登り、影から出る。
「バレないようにな」
背後から心配そうに光弥が言う。
手に汗が滲んだ。肌に纏わりつく熱気と湿気のせいかもしれない。
光弥が第7層と言っていた風景がそこに広がる。
ビニールハウスと呼ばれる室内は林檎のようなものを栽培していた。
林檎の木々が連なり、その列が何十にも並んでいる。
その奥で林檎の大樹よりも背の高い巨人がいた。贅肉で膨らんだ腹につなぎの服はきつそうで、デニム生地が限界まで伸びている。頭は麦わら帽子を被り、天井からの発光を避け、顔は漆黒の影に隠れていた。ただ、山吹色の目玉が影の中で光り、それがさらに不気味にさせた。
巨人は異様に膨らんだゴム手袋で器用に林檎を収穫している。
光弥が言っていた農夫とは奴のことだろう。
カンダタたちを乗せたエレベーターはワイヤーが切れてしまった。落下の途中で止まったのは幸運だったかもしれない。だが、第4層を超え、第7層まで落ちてしまったのだ。
思わず舌打ちする。燻る焦燥を抑えられない。
目覚めない瑠璃を含め、これからのことを改めて考えないといけない。
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