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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
温室栽培 2
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カンダタは踵を返し、戻ろうとした。ふと、霞んだんだような呻き声が聞こえてきた。
見上げてみれば、赤く実った林檎が低く苦しそうに鳴いていた。
茎が高いので登ってみなければわからなかったが、林檎に似たその果実も巨大で高さはカンダタとほぼ同じだ。上側は鮮やかな紅色をしているのに下がっていくにつれ、段々と外皮が黒く変色している。
黒紅梅の色をした下側の部分を注視すれば果実と目があった。果実だというのに目と鼻と口がついている。
更に目を凝らせば細やかな模様までくっきりと目に映った。
林檎に似た物体の正体は幾人もの人間が密接になり組み合わされ、一つの果実となった集合体だった。
人の肌はこれまでに見たこともなく赤く黒く爛れ、小さな膿が所々にできている。他人の腕と他人の脚は絡まり合い、隣人同士の隙間は髪の毛1本も通さないほど密着している。そうして組まされ構成されていたのがおぞましい果実の正体だ。
果実の人間は意識があるようで、弱った唇から呻き声が漏れ、だらしなく垂れた唇から涎が溢れる。
涎の雫がカンダタの頬に落ちた。人肌の温もりと生臭さに背筋が凍った。
巨人が栽培する人間の果実。それがこの第7層なのだろう。
カンダタは果実から距離をとり、盛り上がった地から降りていく。
急ぎ光弥達のところに戻る。
すでにケイは意識を取り戻しており、黒猫の姿で鼻をひくつかせて辺りを嗅いでいた。瑠璃はまだ目を覚ましてはいないようだ。
「光弥、ここを第7層と言っていたな」
二度と人を乗せることはないエレベーターを眺めながら尋ねる。つい早口になってしまうのは焦っているのだから仕方がない。
「まぁ、ね」
「第7層まで登る方法はまだあるか?」
エレベーターから光弥に目線を移せば彼は動揺したように目を逸らす。カンダタの内で燻る焦りが目つきで現れたのかもしれない。
「上の層に行くための非常口があるけど何百年も使ってない。それに一層ずつしか登れないんだ」
「それ以外は?」
「存在しない」
思わず大きな舌打ちが出た。光弥はそれにびくりと肩を揺らす。
「どこにある?」
「場所は知らない。俺も話だけ聞いただけだ」
満足のいく返答は貰えなかった。
出端を挫かれ、遠回りすることになってしまった。蝶男の手がかりを掴もうとすれば何かしらの問題が起こり、遠くなる。
「なら、その非常口を探すしかないんだな」
「回復を待て」
なんのことかと聞きたかったが、すぐに瑠璃の事だと理解する。
もちろん、カンダタもすぐに出発とは言わない。ただ、忍耐がどこまで続くか自信が持てない。
一度、深呼吸をして落ち着こう。
焦燥は消えないが、冷静さが失ってはいけないのだ。
「とりあえず、人の姿になっておけよ。白い刀をいつでも持てるようにさ」
光弥が助言をし、ケイが了承する。そんなやりとりを聞き流し、カンダタは解決策はないかと頭を回転させる。無意識に右脚は貧乏ゆすりを始め、地面を叩いてていた。
そんな中、光弥の後ろにあるエレベーターだったものの破片が落ちてカンダタの足元まで転がる。ケイも光弥も振り返り、そこに何かあるのかと警戒するが、何もない。ただ、あの人影はカンダタしか見えていなかった。
エレベーターは日陰になっており、人が立っていたとしても明確に捉えられないものの、人の形をした影がエレベーターの後ろへと隠れて行くのカンダタは見た。
「この層にも、鬼はいるのか?」
「地獄ならどこにでもいるよ」
あの人影も鬼だろうか。それとも地獄に堕ちた囚人か。
「ここの囚人は?」
「この層には人の形をした囚人はいないよ」
どちらにせよ確認しに行かなければならない。
「ケイ、瑠璃のそばにいてくれ。光弥、行くぞ」
「え、俺も?」
文句ありげな光弥を睨めつければ、彼は渋々とカンダタの後を歩く。
あの影が鬼だとしたら誰彼構わず襲ってくるはず。隠れるなど鬼らしくない。
この層の囚人は人の形をしていない、と光弥は言っていた。その言い方に疑問を抱いてしまう。
鬼でも囚人でもない。だとしたら塊人だろうか。カンダタたちを追ってきたのだろうか。
影に覆われた静寂。カンダタは砂利を踏む。慎重に歩んで、振り返る。光弥が強張った両脚で足音を鳴らさないようについてきている。
カンダタは人差し指を唇に当て、絶対に音を出すなと警告した。凍てつた赤い眼光に射抜かれて、震えた様子で光弥が頷く。
止まっていたカンダタは前を向き直り、音のない歩みを再開させる。
残骸から荒んだ呼吸音が聞こえてくる。残骸から顔を覗かせると蹲る人影があった。荒んだ呼吸音をするそれは振り返り、カンダタを視認にすると両腕を広げ、こちらへと走ってきた。
見上げてみれば、赤く実った林檎が低く苦しそうに鳴いていた。
茎が高いので登ってみなければわからなかったが、林檎に似たその果実も巨大で高さはカンダタとほぼ同じだ。上側は鮮やかな紅色をしているのに下がっていくにつれ、段々と外皮が黒く変色している。
黒紅梅の色をした下側の部分を注視すれば果実と目があった。果実だというのに目と鼻と口がついている。
更に目を凝らせば細やかな模様までくっきりと目に映った。
林檎に似た物体の正体は幾人もの人間が密接になり組み合わされ、一つの果実となった集合体だった。
人の肌はこれまでに見たこともなく赤く黒く爛れ、小さな膿が所々にできている。他人の腕と他人の脚は絡まり合い、隣人同士の隙間は髪の毛1本も通さないほど密着している。そうして組まされ構成されていたのがおぞましい果実の正体だ。
果実の人間は意識があるようで、弱った唇から呻き声が漏れ、だらしなく垂れた唇から涎が溢れる。
涎の雫がカンダタの頬に落ちた。人肌の温もりと生臭さに背筋が凍った。
巨人が栽培する人間の果実。それがこの第7層なのだろう。
カンダタは果実から距離をとり、盛り上がった地から降りていく。
急ぎ光弥達のところに戻る。
すでにケイは意識を取り戻しており、黒猫の姿で鼻をひくつかせて辺りを嗅いでいた。瑠璃はまだ目を覚ましてはいないようだ。
「光弥、ここを第7層と言っていたな」
二度と人を乗せることはないエレベーターを眺めながら尋ねる。つい早口になってしまうのは焦っているのだから仕方がない。
「まぁ、ね」
「第7層まで登る方法はまだあるか?」
エレベーターから光弥に目線を移せば彼は動揺したように目を逸らす。カンダタの内で燻る焦りが目つきで現れたのかもしれない。
「上の層に行くための非常口があるけど何百年も使ってない。それに一層ずつしか登れないんだ」
「それ以外は?」
「存在しない」
思わず大きな舌打ちが出た。光弥はそれにびくりと肩を揺らす。
「どこにある?」
「場所は知らない。俺も話だけ聞いただけだ」
満足のいく返答は貰えなかった。
出端を挫かれ、遠回りすることになってしまった。蝶男の手がかりを掴もうとすれば何かしらの問題が起こり、遠くなる。
「なら、その非常口を探すしかないんだな」
「回復を待て」
なんのことかと聞きたかったが、すぐに瑠璃の事だと理解する。
もちろん、カンダタもすぐに出発とは言わない。ただ、忍耐がどこまで続くか自信が持てない。
一度、深呼吸をして落ち着こう。
焦燥は消えないが、冷静さが失ってはいけないのだ。
「とりあえず、人の姿になっておけよ。白い刀をいつでも持てるようにさ」
光弥が助言をし、ケイが了承する。そんなやりとりを聞き流し、カンダタは解決策はないかと頭を回転させる。無意識に右脚は貧乏ゆすりを始め、地面を叩いてていた。
そんな中、光弥の後ろにあるエレベーターだったものの破片が落ちてカンダタの足元まで転がる。ケイも光弥も振り返り、そこに何かあるのかと警戒するが、何もない。ただ、あの人影はカンダタしか見えていなかった。
エレベーターは日陰になっており、人が立っていたとしても明確に捉えられないものの、人の形をした影がエレベーターの後ろへと隠れて行くのカンダタは見た。
「この層にも、鬼はいるのか?」
「地獄ならどこにでもいるよ」
あの人影も鬼だろうか。それとも地獄に堕ちた囚人か。
「ここの囚人は?」
「この層には人の形をした囚人はいないよ」
どちらにせよ確認しに行かなければならない。
「ケイ、瑠璃のそばにいてくれ。光弥、行くぞ」
「え、俺も?」
文句ありげな光弥を睨めつければ、彼は渋々とカンダタの後を歩く。
あの影が鬼だとしたら誰彼構わず襲ってくるはず。隠れるなど鬼らしくない。
この層の囚人は人の形をしていない、と光弥は言っていた。その言い方に疑問を抱いてしまう。
鬼でも囚人でもない。だとしたら塊人だろうか。カンダタたちを追ってきたのだろうか。
影に覆われた静寂。カンダタは砂利を踏む。慎重に歩んで、振り返る。光弥が強張った両脚で足音を鳴らさないようについてきている。
カンダタは人差し指を唇に当て、絶対に音を出すなと警告した。凍てつた赤い眼光に射抜かれて、震えた様子で光弥が頷く。
止まっていたカンダタは前を向き直り、音のない歩みを再開させる。
残骸から荒んだ呼吸音が聞こえてくる。残骸から顔を覗かせると蹲る人影があった。荒んだ呼吸音をするそれは振り返り、カンダタを視認にすると両腕を広げ、こちらへと走ってきた。
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