糸と蜘蛛

犬若丸

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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行

永久凍土都市 4

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 階段を下る。ケイと清音は暗い踊り場中でカンダタたちを待っていた。ケイと清音を追い越して先頭に立つ。
 屋上のドアで立った際、底のない闇に見えていたが、段を下っていくうちに、電光色の淡い光が暗闇に広がる。その光を頼りに下がれば廊下に辿り着いた。壁には「F20」が印字されている。
 廊下の天井には電光灯があるが、1本も点いていなかった。電光色は硝子張りの壁の向こうから来ているみたいだ。
 硝子の向こうにあるのは規則正しく整列されたパソコン。それを前にし、座る人々。休まず遅れのない一定のリズムでキーボードを打っていた。
 スーツを見にまとう彼・彼女らは垂直に背筋を伸ばし、1つのことを忠実に繰り返す。それは決められたことしかできないからくり人形の様だった。
 そして、異様に目を引いたのは頭である。兎の着ぐるみ、ゴム製の馬の頭、ピエロ、三角コーン、茶色の紙袋など。頭から首までを覆える物で被っていた。無我夢中にキーボードを叩く被り物の人々はPCの画面しか見えていないようだ。
 寒さで手がかじかみ、あかぎれになっても叩くことをやめない。
 覆面で頭を隠し、着心地の悪いスーツで縛られた彼らが第5層の囚人だろう。第6と比べ、人の原型を残している。
 人形の印象を受けたが、よく観察していれば一人ひとりが個性を持つ人間味のある仕草があった。
 寒さで指先が震え、タイピングが進まないもの、ストレスから吐き気を催、腹面の隙間から胃液を垂らすもの。様々なものがいるが、どんな症状か囚人を襲おうともPCから離れずにカタカタとキーボードを鳴らすす。
「被り物奪えって言われてもゲロ塗れのものは嫌ね」
 荒野の助言に従えばそうなるのだが、カンダタとしては体調が悪い上に彼らから物を奪うのは気が引けた。
 盗人だとしても強盗はしない主義だ。
 「あれが必要になるのか?」
 光弥に確認してくれないかとそれとなく瑠璃に尋ねるも案の定、彼女は無視する。
「それより鏡を探そうよ」
 どことなく重くなった空気を清音が切り替える。カンダタと瑠璃の間に流れる暗い淀みを清らかに浄化する笑顔を見せていた。
 明るく前向きな言動だ。苗床では清音に夢見草の根が絡まっていた。本人は大丈夫だと言っていたが、カンダタはそれを疑っていたのだ。精神的な症状は自覚できにくいからだ。
 前向きな考えができるなら猜疑心が付け入る隙もないだろう。
 第4層に向かう為の鏡を探す。それを目標としておき、話し合う。瑠璃の強い要望で二手に分かれず、4人で固まり行動することになった。それに関して清音は強く賛成する。特にカンダタ・ケイも反対することもない。
 被り物で頭を隠す囚人たちが占める室内を散策するのは抵抗があった。彼らがPCに夢中であったとしても視界の端にカンダタたちが入れば異物として判断され、排除するするかもしれない。
 そうした考えを伝えるとまずは今いる階の廊下を探索することとなった。
 廊下は一本の直線しかなく、いくつか幾つか仕切られた部屋は内側が扉で繋がっている造りになっていた。
 なので、廊下の探索は5分もかからずに終わってしまう。無論、鏡は簡単に見つからない。気が乗らないが、室内に入ることになった。
 ケイがドアノブを、堂々と部屋に入る。異物が侵入したとしても囚人はそれに察することもなく、キーボードは力強い音を響かせていた。
 窓越しからでも囚人たちの異常性は見て捉えていたが、近くまで来ると彼らの荒れた息遣いや腱鞘炎になり痛みで震える手が鳴らす音とかが五感で伝わってくる。
「そっちばっかり見てないで鏡を探して」
 囚人ばかりに目をやっていたので瑠璃が静かに一括した。
 ケイはデスクワークの合間を縫い、ロッカーの中、机の下を探す。カンダタは外側の窓に立ち、鏡の面影を探す。
 なぜか清音はカンダタの後に続き、同じところを探していた。
「あそこに非常階段がありますね」
 灰色のビル群と鮮血の川を一望していると清音が教えてきた。清音が指差した先にはビルの端、野外に設置された非常階段だった。
「そうだな」
 カンダタとしてはそれしか返せない。
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