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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
永久凍土都市 15
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姿見に入ってると平行した床に転がり、崩壊していないビルの中だとわかった。
安堵し、振り返れば鏡の中でコンクリートの破片や鉄やらがバラバラと崩れ落ちる風景が鏡一面に収まっていた。
「えっと、大丈夫?」
疲労の顔色に染まるカンダタと瑠璃に清音は戸惑いながらも声をかける。
「なんとか」
瑠璃はそれだけ答えるとほど奪った兎の被り物を清音に押し付ける。
「何これ?」
「見てわかんないの?」
疲労の色を僅かに残し、清音に言い捨てる。
ケイの仮面と兎の着ぐるみがあれば瑠璃と清音の分は確保できる。清音が怪訝に眉を寄せるのは瑠璃が彼女の為にそれを奪ったからだ。
あの時、命綱はカンダタの腕一本だけだった。あの状況は被り物にまで気をかける余裕はなかった。命をかけてまで清音の為に動くとは思えない。
「瑠璃」
瑠璃の腹の内を探ろうとしたが、瑠璃はそれを許さず別の話題を切り出す。
「鐘がなるまでの時間が短くなってる」
無理に話題を切り出したので、カンダタや清音は不完全性のような異物の気持ち悪さが残る。
清音は被り物受け取りながらも返答に戸惑う。
「話す暇もないな」
カンダタも戸惑いはあったが、今は無視する。瑠璃が言った通り、時間がないのだ。
そもそもカンダタは次の層に行くための鏡を探している。姿見をいくら潜ってもビルとビルを移動してばかりで目的の鏡を探すところが一刻一瞬を生き抜くので精一杯だ。
カンダタが第4層で彷徨っていた時、殺され死んで生き返るを繰り返し、絶望していた。
今いる第5層でも同じような繰り返しが起こるならどこかでこの絶望的な状況を脱出しなければならない。その糸口は未だ見つけられていない。
「このまま突き進んでも鏡を見つかも怪しい」
「進んだその先に何が待ってるんですかね?私はそこも不安なんです」
「映画ならラスボスがやってるわね」
「ラスボス?」
「真面目に考えろ」
話を振ったのは瑠璃だと言うのに彼女は回答を出すつもりはないらしい。苛立だったが、感情的になるのは得策ではないとそれを切り離す。
無感情になろうと努めるカンダタに対して瑠璃はただこちらを見つめている。笑ってはいないのに目を細め、まるで難題を出す教師みたいだった。
瑠璃がこれを口に出したのはなぜか。
兎の着ぐるみを清音に受け渡した。それが瑠璃に対する疑問だった。
その疑問から意識を逸らすようにわざとらしく話題を変えた。鐘のことはカンダタも勘付いていた。時間がなくなっていくのも切羽詰まった問題だ。
なのに瑠璃はそれすらも真面目に考えようとしない。
こういった不自然な会話はこれで何度目だろう。1度目は第5層に着いたばかりの時、瑠璃が「赤目の子」について聞いてきた。2度目は映画の話、3度目がこれだ。
意味のないような会話を思い出す。
映画のミスト。あの映画は絶望した父親が息子を殺す後味の悪い映画だった。
次に一度目の会話を思い返す。赤目の子、カンダタの息子。
どろりとしたものが喉から胸、胃へと流れる。
瑠璃は、何を言おうとしているのか。いや、伝えようとしているのか。それが脈絡のない会話や映画だ。
映画のミストは「赤目の子」を示していた。あとは何を話していた?
キューブはどういう映画だった?
「カンダタさん?どうかしました?」
思考の海に沈もうとするカンダタを呼び覚ましたのは清音。心ここにあらずといったカンダタを心配しているようだ。
「だいぶ、疲れたよ」
いつも通りの態度で答えることにした。瑠璃もそうしてる。
確実に清音は蝶男に堕とされている。
清音が地獄にいることがおかしいのだ。彼女の言い分では連れ去られたようだが、嘘だ。執拗にカンダタの傍にいたがるのは恋愛感情ではなく、蝶男から監視もしくは観察を指示されているからだろう。
手駒にされているのなら黒蝶をいれられている。
「いつまで続くんですかね」
憂い、俯き、媚びた声色で語りかける。その女の面に拳を食い込ませたい想いを歯軋りで堪え、疼く激情を飲み込む。口腔で噛み合う歯の音が誰よりも誰にも知られずに鳴った。
彼女の胸倉を掴み、責め苦を与えながら蝶男のことを問い質したい。
それが可能ならどれほど爽快だろう。それができないのだから瑠璃も何も言わないのだ。
どんな手法を用いたのか全く想像できないが、ケイは清音に籠絡されている。
衣食住を共にしているのだから何もされていないと考えられない。「瑠璃を見定める」と言うケイの存在理由が「清音に対する恩義」に上書きされてもおかしくない。
清音に危害を加えれば、ケイがそれを防ぐように動く。手を出したくとも出せないのだ。
これからどうするか。瑠璃はどう動くつもりだろうか。兎の被り物を渡したことに意味があるだろうか。瑠璃は気付いていないふりをしている。それは清音の傍にケイがいるからだろうか。
いくら考えてもわからない。当たり前だ。いつの時も他人の考えは理解できないのだから。
安堵し、振り返れば鏡の中でコンクリートの破片や鉄やらがバラバラと崩れ落ちる風景が鏡一面に収まっていた。
「えっと、大丈夫?」
疲労の顔色に染まるカンダタと瑠璃に清音は戸惑いながらも声をかける。
「なんとか」
瑠璃はそれだけ答えるとほど奪った兎の被り物を清音に押し付ける。
「何これ?」
「見てわかんないの?」
疲労の色を僅かに残し、清音に言い捨てる。
ケイの仮面と兎の着ぐるみがあれば瑠璃と清音の分は確保できる。清音が怪訝に眉を寄せるのは瑠璃が彼女の為にそれを奪ったからだ。
あの時、命綱はカンダタの腕一本だけだった。あの状況は被り物にまで気をかける余裕はなかった。命をかけてまで清音の為に動くとは思えない。
「瑠璃」
瑠璃の腹の内を探ろうとしたが、瑠璃はそれを許さず別の話題を切り出す。
「鐘がなるまでの時間が短くなってる」
無理に話題を切り出したので、カンダタや清音は不完全性のような異物の気持ち悪さが残る。
清音は被り物受け取りながらも返答に戸惑う。
「話す暇もないな」
カンダタも戸惑いはあったが、今は無視する。瑠璃が言った通り、時間がないのだ。
そもそもカンダタは次の層に行くための鏡を探している。姿見をいくら潜ってもビルとビルを移動してばかりで目的の鏡を探すところが一刻一瞬を生き抜くので精一杯だ。
カンダタが第4層で彷徨っていた時、殺され死んで生き返るを繰り返し、絶望していた。
今いる第5層でも同じような繰り返しが起こるならどこかでこの絶望的な状況を脱出しなければならない。その糸口は未だ見つけられていない。
「このまま突き進んでも鏡を見つかも怪しい」
「進んだその先に何が待ってるんですかね?私はそこも不安なんです」
「映画ならラスボスがやってるわね」
「ラスボス?」
「真面目に考えろ」
話を振ったのは瑠璃だと言うのに彼女は回答を出すつもりはないらしい。苛立だったが、感情的になるのは得策ではないとそれを切り離す。
無感情になろうと努めるカンダタに対して瑠璃はただこちらを見つめている。笑ってはいないのに目を細め、まるで難題を出す教師みたいだった。
瑠璃がこれを口に出したのはなぜか。
兎の着ぐるみを清音に受け渡した。それが瑠璃に対する疑問だった。
その疑問から意識を逸らすようにわざとらしく話題を変えた。鐘のことはカンダタも勘付いていた。時間がなくなっていくのも切羽詰まった問題だ。
なのに瑠璃はそれすらも真面目に考えようとしない。
こういった不自然な会話はこれで何度目だろう。1度目は第5層に着いたばかりの時、瑠璃が「赤目の子」について聞いてきた。2度目は映画の話、3度目がこれだ。
意味のないような会話を思い出す。
映画のミスト。あの映画は絶望した父親が息子を殺す後味の悪い映画だった。
次に一度目の会話を思い返す。赤目の子、カンダタの息子。
どろりとしたものが喉から胸、胃へと流れる。
瑠璃は、何を言おうとしているのか。いや、伝えようとしているのか。それが脈絡のない会話や映画だ。
映画のミストは「赤目の子」を示していた。あとは何を話していた?
キューブはどういう映画だった?
「カンダタさん?どうかしました?」
思考の海に沈もうとするカンダタを呼び覚ましたのは清音。心ここにあらずといったカンダタを心配しているようだ。
「だいぶ、疲れたよ」
いつも通りの態度で答えることにした。瑠璃もそうしてる。
確実に清音は蝶男に堕とされている。
清音が地獄にいることがおかしいのだ。彼女の言い分では連れ去られたようだが、嘘だ。執拗にカンダタの傍にいたがるのは恋愛感情ではなく、蝶男から監視もしくは観察を指示されているからだろう。
手駒にされているのなら黒蝶をいれられている。
「いつまで続くんですかね」
憂い、俯き、媚びた声色で語りかける。その女の面に拳を食い込ませたい想いを歯軋りで堪え、疼く激情を飲み込む。口腔で噛み合う歯の音が誰よりも誰にも知られずに鳴った。
彼女の胸倉を掴み、責め苦を与えながら蝶男のことを問い質したい。
それが可能ならどれほど爽快だろう。それができないのだから瑠璃も何も言わないのだ。
どんな手法を用いたのか全く想像できないが、ケイは清音に籠絡されている。
衣食住を共にしているのだから何もされていないと考えられない。「瑠璃を見定める」と言うケイの存在理由が「清音に対する恩義」に上書きされてもおかしくない。
清音に危害を加えれば、ケイがそれを防ぐように動く。手を出したくとも出せないのだ。
これからどうするか。瑠璃はどう動くつもりだろうか。兎の被り物を渡したことに意味があるだろうか。瑠璃は気付いていないふりをしている。それは清音の傍にケイがいるからだろうか。
いくら考えてもわからない。当たり前だ。いつの時も他人の考えは理解できないのだから。
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