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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
逃走の果て 1
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足場がなくなっていく中でうまくバランスを取れず、あたしは大きくよろめいた。その直後、大きな瓦礫があたしの隣に落ちた。
ズレていなかったらあの瓦礫はあたしの頭に落ちていた。
ハクが大きく吠えた。金切り声で鳴くそれは心配よりもあたしを非難していた。
カンダタの手を離したことにまだ怒ってる。
あれでよかったのよ。
内心で思ったことは口に出さなかった。出せなかった。
ハクの文句はあとでたくさん聞く。だから今だけは崩れる床と天井に集中させてほしい。
倒れたロッカーを踏み台にして大きく空いた穴を跳び越える。目指すのは姿見。ロッカー室を出て、すぐ隣にあるはず。
視界は暗く、僅かな光を求めて瞳孔は開く。それでも視界は暗いままだった。
だから、跳んだ先の着地点の床が脆く、のしかかったあたしの体重でぼろりと崩れても仕方がなかった。
落ちる寸前のあたしをハクが抱え、持ち上げたままロッカー室を出る。減速はしないまま、ハクは身体を反転させてロッカー室のドアの隣にある姿見を潜る。
飛び込むように潜ったせいでハクは躓いて抱えられていたあたしは床に投げだされて転がった。
直後に粉塵塗れの清音とケイが姿見から現れた。崩壊しないビルに安堵したのも束の間で、清音は上を指差して悲鳴を上げた。
会議室の中央で鎮座していたのは鉄夫人。運悪く、目の前に着いてしまったらしい。
けれど、あたしにとっては幸運だった。
鉄夫人が手を振り上げるのと同時に鐘が鳴る。
狙われたのはあたしじゃない。清音でもない。あたしは猫の仮面を、清音は兎の被り物をつけているから。
この中で目をつけられたのは何も装着していないケイだった。
鉄夫人の平手打ちは軽々とケイを突き飛ばす。
今がチャンスだとあたしは咄嗟に清音の手を取り、鉄夫人の懐を掻い潜る。
会議用の長テーブルに飛ばされたケイは清音を連れて走るあたしを目撃する。清音は振り返って目を合わせると恐怖で引き攣った顔で叫ぶ。
「ケイ!ケイ!助けて!」
清音が悲痛な声を上げるとケイの過剰な庇護欲スイッチが押された。
「どこ行く!」
ケイから怒声が響く。今すぐにでもあたしたちを追いかけたいのに鉄夫人が阻んで足止めを食らわせる。
構わずにあたしは会議室から出た。視界に映る白い糸を辿って廊下を走る。階段を下り、また廊下を走り、突き当たりを曲がって、行き止まりの壁に姿見を見つける。
崩壊が始まる前に次のビルに移動できた。次の鐘が鳴る前にまた移動しないといけないけれど、その前に清音を問い詰めないといけない。
その為にケイと逸れたのだから。
あたしは清音を壁に叩きつける勢いで押し出して睨む。
「やっと二人っきりになったわね。女子同士楽しくお喋りしましょ」
両手を壁に押しつけて、清音を囲う。清音の背は壁、両肩はあたしの腕に囲われて逃げ道を失う。
「わあ、壁ドンだ。初めてされた」
清音は緊張感もなく、頬を赤らめる。
「女子同士の戯れもいいけどさ、早くしないと鐘が鳴っちゃうよ?長話は嫌いでしょ?」
いつまでもしらを切り、恋する乙女を演じる清音の鼻頭を折ってやりたい。
ズレていなかったらあの瓦礫はあたしの頭に落ちていた。
ハクが大きく吠えた。金切り声で鳴くそれは心配よりもあたしを非難していた。
カンダタの手を離したことにまだ怒ってる。
あれでよかったのよ。
内心で思ったことは口に出さなかった。出せなかった。
ハクの文句はあとでたくさん聞く。だから今だけは崩れる床と天井に集中させてほしい。
倒れたロッカーを踏み台にして大きく空いた穴を跳び越える。目指すのは姿見。ロッカー室を出て、すぐ隣にあるはず。
視界は暗く、僅かな光を求めて瞳孔は開く。それでも視界は暗いままだった。
だから、跳んだ先の着地点の床が脆く、のしかかったあたしの体重でぼろりと崩れても仕方がなかった。
落ちる寸前のあたしをハクが抱え、持ち上げたままロッカー室を出る。減速はしないまま、ハクは身体を反転させてロッカー室のドアの隣にある姿見を潜る。
飛び込むように潜ったせいでハクは躓いて抱えられていたあたしは床に投げだされて転がった。
直後に粉塵塗れの清音とケイが姿見から現れた。崩壊しないビルに安堵したのも束の間で、清音は上を指差して悲鳴を上げた。
会議室の中央で鎮座していたのは鉄夫人。運悪く、目の前に着いてしまったらしい。
けれど、あたしにとっては幸運だった。
鉄夫人が手を振り上げるのと同時に鐘が鳴る。
狙われたのはあたしじゃない。清音でもない。あたしは猫の仮面を、清音は兎の被り物をつけているから。
この中で目をつけられたのは何も装着していないケイだった。
鉄夫人の平手打ちは軽々とケイを突き飛ばす。
今がチャンスだとあたしは咄嗟に清音の手を取り、鉄夫人の懐を掻い潜る。
会議用の長テーブルに飛ばされたケイは清音を連れて走るあたしを目撃する。清音は振り返って目を合わせると恐怖で引き攣った顔で叫ぶ。
「ケイ!ケイ!助けて!」
清音が悲痛な声を上げるとケイの過剰な庇護欲スイッチが押された。
「どこ行く!」
ケイから怒声が響く。今すぐにでもあたしたちを追いかけたいのに鉄夫人が阻んで足止めを食らわせる。
構わずにあたしは会議室から出た。視界に映る白い糸を辿って廊下を走る。階段を下り、また廊下を走り、突き当たりを曲がって、行き止まりの壁に姿見を見つける。
崩壊が始まる前に次のビルに移動できた。次の鐘が鳴る前にまた移動しないといけないけれど、その前に清音を問い詰めないといけない。
その為にケイと逸れたのだから。
あたしは清音を壁に叩きつける勢いで押し出して睨む。
「やっと二人っきりになったわね。女子同士楽しくお喋りしましょ」
両手を壁に押しつけて、清音を囲う。清音の背は壁、両肩はあたしの腕に囲われて逃げ道を失う。
「わあ、壁ドンだ。初めてされた」
清音は緊張感もなく、頬を赤らめる。
「女子同士の戯れもいいけどさ、早くしないと鐘が鳴っちゃうよ?長話は嫌いでしょ?」
いつまでもしらを切り、恋する乙女を演じる清音の鼻頭を折ってやりたい。
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