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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
逃走の果て 3
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すでにあたしは走り疲れていて、脚も体力も限界が来ていた。息切れが激しい意識の片隅で、あたしが出したメッセージにカンダタは気付いているのか心配になった。
それがあたしの最後の希望だった。
姿見を抜けたその先もビルのコンクリートが続いているものだと思い込んでいた。
足の感触が捉えたのはツルツルと滑りそうな大理石だった。
白と黒のタイルで敷き詰められた大ホール。現代のオフィスビルとは似てもにつかない、中世で舞踏会でも開いていそうなダンスホール。高い天井には巨大なシャンデリアがつるしてあった。
ダンスホールで立つあたしと清音を見守るのは壁にかけられ並ぶ鏡で、それらは1枚の例外もなくあたしたちの姿を映す。そして、もう1人の少年も鏡の中にいる。
鏡の中にしか存在しない赤い瞳の少年は清音にぴったりとくっつく。頬は赤紫に腫れていて、その痛みを八つ当たりするようにあたしを睨んでくる。
立ち止まった清音は踵を返して、被っていた兎の被り物を外して投げ捨てるとあたしたちが入ったばかりの姿見を倒す。姿見は大理石の床によって簡単に砕けた。
清音はバラバラになった姿見を見下ろす。その後ろ姿をあたしは見つめていた。垂れた髪で顔が隠れている。口角の上がった唇しか見えない。
「しばらくは、誰も来れないね」
あたしはジリジリと後退して清音から距離を取ろうとする。
「逃げてちゃ駄目だよ」
こちらに視線を向けているわけでもないのに清音は静かに制する。あたしは身体を硬直させ、ハクがあたしを庇うように立ちはだかる。
「二人っきりでお話ししたかったんだよね?今ならできるよ」
清音は身体の向きを変えて、あたしに向けて腕を広げた。
髪で隠れていた頬か露わになる。
黒い蝶の模様が清音の青白い肌ではためいていた。
今更、驚きはしなかった。清音が黒蝶化していたのは第7層にいた時点に彼女から正体を明かした。
いや、あそこは第7層じゃなかったわね。
光弥が吐いた嘘は一つだけ。階層の数字。第7層だと言われてアホにも騙されそうになったけれど、あたしが見てきたものとは違っていた。
あたしたちは第7層から上がってきていると勘違いしていた。
光弥が蝶男と繋がっているのは間違いない。光弥が清音のことをどこまで知っているのかはわからない。
あたしは固唾を呑んで口を開く。
「だったら、さっきの質問に答えて」
腕を広げても受け入れられないとあたしの態度から知り、清音は首を傾げる。そして、あざとい仕草で指先を頬に乗せてわざとらしく目を泳がせる。
「質問?なんだっけ?」
「蝶男のところに連れて行くのがあんたの目的かって聞いてんのよ」
「目的なんて、利己的なものはないよ。お喋りしたいだけだよ」
あくまでも答えるつもりはないらしい。本題に入りたいのに入れない。あざとく見せる清音に苛立ちは最高潮に登る。
拳を握り、衝動的になりそうな怒りを堪える。
「なら何?インスタ映えするパンケーキの話でもする?」
「いいね!パンケーキ!私も大好き!あ、でも最近カヌレもハマってるんだよね」
今の清音は蝶男が操ってる。あいつは流行のグルメなんかで盛り上がらない。
この無駄話にも時間稼ぎに過ぎない。あいつは何かを持っている。
ケイじゃない。激昂したケイならあたしを殺しかねないけれど、そうだとしたら姿見は壊さない。
あたしは一歩下がる。何が来てもすぐ逃げれるように。
「逃げていいの?」
猫撫で声の口調が低くなる。たった一言。なのに触ろうとした脚が束縛される。
物理的に縛られたわけじゃない。これは心理的なもの。
彼女の低くなった声、変わらない笑み。彼女の雨と空気は気温が下がり、それがこちらにまで流れてあたしを凍らせる。その冷たい空気が怖い。
それがあたしの最後の希望だった。
姿見を抜けたその先もビルのコンクリートが続いているものだと思い込んでいた。
足の感触が捉えたのはツルツルと滑りそうな大理石だった。
白と黒のタイルで敷き詰められた大ホール。現代のオフィスビルとは似てもにつかない、中世で舞踏会でも開いていそうなダンスホール。高い天井には巨大なシャンデリアがつるしてあった。
ダンスホールで立つあたしと清音を見守るのは壁にかけられ並ぶ鏡で、それらは1枚の例外もなくあたしたちの姿を映す。そして、もう1人の少年も鏡の中にいる。
鏡の中にしか存在しない赤い瞳の少年は清音にぴったりとくっつく。頬は赤紫に腫れていて、その痛みを八つ当たりするようにあたしを睨んでくる。
立ち止まった清音は踵を返して、被っていた兎の被り物を外して投げ捨てるとあたしたちが入ったばかりの姿見を倒す。姿見は大理石の床によって簡単に砕けた。
清音はバラバラになった姿見を見下ろす。その後ろ姿をあたしは見つめていた。垂れた髪で顔が隠れている。口角の上がった唇しか見えない。
「しばらくは、誰も来れないね」
あたしはジリジリと後退して清音から距離を取ろうとする。
「逃げてちゃ駄目だよ」
こちらに視線を向けているわけでもないのに清音は静かに制する。あたしは身体を硬直させ、ハクがあたしを庇うように立ちはだかる。
「二人っきりでお話ししたかったんだよね?今ならできるよ」
清音は身体の向きを変えて、あたしに向けて腕を広げた。
髪で隠れていた頬か露わになる。
黒い蝶の模様が清音の青白い肌ではためいていた。
今更、驚きはしなかった。清音が黒蝶化していたのは第7層にいた時点に彼女から正体を明かした。
いや、あそこは第7層じゃなかったわね。
光弥が吐いた嘘は一つだけ。階層の数字。第7層だと言われてアホにも騙されそうになったけれど、あたしが見てきたものとは違っていた。
あたしたちは第7層から上がってきていると勘違いしていた。
光弥が蝶男と繋がっているのは間違いない。光弥が清音のことをどこまで知っているのかはわからない。
あたしは固唾を呑んで口を開く。
「だったら、さっきの質問に答えて」
腕を広げても受け入れられないとあたしの態度から知り、清音は首を傾げる。そして、あざとい仕草で指先を頬に乗せてわざとらしく目を泳がせる。
「質問?なんだっけ?」
「蝶男のところに連れて行くのがあんたの目的かって聞いてんのよ」
「目的なんて、利己的なものはないよ。お喋りしたいだけだよ」
あくまでも答えるつもりはないらしい。本題に入りたいのに入れない。あざとく見せる清音に苛立ちは最高潮に登る。
拳を握り、衝動的になりそうな怒りを堪える。
「なら何?インスタ映えするパンケーキの話でもする?」
「いいね!パンケーキ!私も大好き!あ、でも最近カヌレもハマってるんだよね」
今の清音は蝶男が操ってる。あいつは流行のグルメなんかで盛り上がらない。
この無駄話にも時間稼ぎに過ぎない。あいつは何かを持っている。
ケイじゃない。激昂したケイならあたしを殺しかねないけれど、そうだとしたら姿見は壊さない。
あたしは一歩下がる。何が来てもすぐ逃げれるように。
「逃げていいの?」
猫撫で声の口調が低くなる。たった一言。なのに触ろうとした脚が束縛される。
物理的に縛られたわけじゃない。これは心理的なもの。
彼女の低くなった声、変わらない笑み。彼女の雨と空気は気温が下がり、それがこちらにまで流れてあたしを凍らせる。その冷たい空気が怖い。
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