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1章 神様が作った実験場
彼の日常について 4
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警戒は怠らなかったが、大した障害もなくホームへとあがった。線路から降りて光の下に立つと曇天を見上げる。空の穴はさほど大きくなっていなかった。苦労して着いても距離は縮まっていなかった。
まだまだ、道のりは長い。
駅の一階は商店となっており、階段を上がればホームへと続いている。線路は橋になって街の頭上に鎮座している。
ホームから降りて線路を辿るように歩く。静かな風が男の髪や小袖で遊んでいるが、流れた血や汗を乾かしてはくれなかった。むしろ舞った砂埃が肌にこびりついて不快感が増した。
いつしか風は強くなり、視界は阻まれて、ついには瞼を開けられないほどに風は猛威を振るう。吹いてくる一粒一粒の砂は細い針のようにちくちく、ぱちぱちと男を浅く刺し、呼吸すれば鼻口に砂が入り込む。
このままではまた死んでしまいそうだ。線路の途中に置き去りにされた電車があるはずだ。そこへ避難すべきだ。
電車は近くにあった。車輪が外れて窓も割れている。風も砂も防げないが外に身を晒すより、少しでも物陰に隠れていたほうが良い。
まともに目も開けられないまま手探りで出入り口を探す。電車の位置もその出入り口も覚えてしまった。それらしい場所を見つけると跳ねて電車の中へと逃げる。
袖で目を拭う。目の周りが赤く腫れて、もともと赤い目がさらに赤くなった。
車内でも砂嵐は吹雪いていたが、心なしか外寄りは弱くなっている気がする。この嵐が過ぎるまで大人しくしていようと風が弱い場所へと移動する。
車両の間接部に腰をおろし、一時の安らぎを得る。
砂嵐はより一層強さを増して車内に流れる砂さえも凶器になりうるのではないかと思えた。風が生む轟音、砂と鉄の衝突音がその身と精神を包み、狂ってしまいそうになる。だからといって優しく囁く小鳥はおらず、花薫る風は吹かない。誰かを想う詩は浮かばす、震い出る感情も生まれず、理解不能な思考に振り回されるだけの男はひたすらに無心を貫く。
無感dr見る四角い箱の中は天井の2本の平行線と床の平行線が視界の中心点へと集約されていくかのように伸びていた。その中心点は砂嵐に遮られて見えない。それでも、見えない筈の終着点を眺める。
そうしているうちに砂嵐の中に人影が浮かぶ。はっきりとした人の形だ。鬼ではない。轟音の中で狂ってしまったのだろうか。男以外に人間は存在しない。会ってもいないのだから確かだ。では、あの影はなんだろうか。幻だと理解させようとしても無心でいることはできなかった。
男は腰を上げて砂風構わずに向かう。好奇心のような驚きのような名前を付けられない感情が暴れ出す。その人影の真実を知りたかった。
砂嵐は弱まらず、砂の針は男を深く刺す。風に身を千切られようとも、その脚はすこしずつ人影に近づいていく。そして、その輪郭ははっきりと男の目に映る。
女性のようだが、風変わりな恰好をしている。異国人の身なりでその髪も瞳も見たことのない色をしていた。
砂粒が両目に入り、視界は遮られた。彼女はあの砂嵐の中でも平気なのだろうか。砂が頬、首、腕、脚を叩き、擦り傷の上に傷を負わせる。こんな痛みの中で平気でいられるはずがない。
風が止み、嵐は過ぎ去る。目を開けてみるとそこにいたはずの女性はいなくなっていた。やはり幻だったのだ。
期待はあった。人に会えるのは本当に久しかったからだ。あの幻も仏の遊びなのだろうか。
いいさ。落胆するのは慣れている。嵐は過ぎたのだから、先へ行こう。そう決意して、電車から降りる。風は穏やかになって前へと進めるようになった。
しばらくはひたすら真っ直ぐに行くだけだ。
落胆した心を隠す為、前向きに物事を考える。その細い芯を容易く折ったのは電車の屋根に降りた1体の鬼だった。
不意を突かれたその登場に呆然となって対応もできず、大きく開かれた口と牙によって視界は黒く染まる。
いつもの場所に目覚めて、悪態をつく。油断してしまった自分に腹が立つ。
武器を持ち、また進む。
まだまだ、道のりは長い。
駅の一階は商店となっており、階段を上がればホームへと続いている。線路は橋になって街の頭上に鎮座している。
ホームから降りて線路を辿るように歩く。静かな風が男の髪や小袖で遊んでいるが、流れた血や汗を乾かしてはくれなかった。むしろ舞った砂埃が肌にこびりついて不快感が増した。
いつしか風は強くなり、視界は阻まれて、ついには瞼を開けられないほどに風は猛威を振るう。吹いてくる一粒一粒の砂は細い針のようにちくちく、ぱちぱちと男を浅く刺し、呼吸すれば鼻口に砂が入り込む。
このままではまた死んでしまいそうだ。線路の途中に置き去りにされた電車があるはずだ。そこへ避難すべきだ。
電車は近くにあった。車輪が外れて窓も割れている。風も砂も防げないが外に身を晒すより、少しでも物陰に隠れていたほうが良い。
まともに目も開けられないまま手探りで出入り口を探す。電車の位置もその出入り口も覚えてしまった。それらしい場所を見つけると跳ねて電車の中へと逃げる。
袖で目を拭う。目の周りが赤く腫れて、もともと赤い目がさらに赤くなった。
車内でも砂嵐は吹雪いていたが、心なしか外寄りは弱くなっている気がする。この嵐が過ぎるまで大人しくしていようと風が弱い場所へと移動する。
車両の間接部に腰をおろし、一時の安らぎを得る。
砂嵐はより一層強さを増して車内に流れる砂さえも凶器になりうるのではないかと思えた。風が生む轟音、砂と鉄の衝突音がその身と精神を包み、狂ってしまいそうになる。だからといって優しく囁く小鳥はおらず、花薫る風は吹かない。誰かを想う詩は浮かばす、震い出る感情も生まれず、理解不能な思考に振り回されるだけの男はひたすらに無心を貫く。
無感dr見る四角い箱の中は天井の2本の平行線と床の平行線が視界の中心点へと集約されていくかのように伸びていた。その中心点は砂嵐に遮られて見えない。それでも、見えない筈の終着点を眺める。
そうしているうちに砂嵐の中に人影が浮かぶ。はっきりとした人の形だ。鬼ではない。轟音の中で狂ってしまったのだろうか。男以外に人間は存在しない。会ってもいないのだから確かだ。では、あの影はなんだろうか。幻だと理解させようとしても無心でいることはできなかった。
男は腰を上げて砂風構わずに向かう。好奇心のような驚きのような名前を付けられない感情が暴れ出す。その人影の真実を知りたかった。
砂嵐は弱まらず、砂の針は男を深く刺す。風に身を千切られようとも、その脚はすこしずつ人影に近づいていく。そして、その輪郭ははっきりと男の目に映る。
女性のようだが、風変わりな恰好をしている。異国人の身なりでその髪も瞳も見たことのない色をしていた。
砂粒が両目に入り、視界は遮られた。彼女はあの砂嵐の中でも平気なのだろうか。砂が頬、首、腕、脚を叩き、擦り傷の上に傷を負わせる。こんな痛みの中で平気でいられるはずがない。
風が止み、嵐は過ぎ去る。目を開けてみるとそこにいたはずの女性はいなくなっていた。やはり幻だったのだ。
期待はあった。人に会えるのは本当に久しかったからだ。あの幻も仏の遊びなのだろうか。
いいさ。落胆するのは慣れている。嵐は過ぎたのだから、先へ行こう。そう決意して、電車から降りる。風は穏やかになって前へと進めるようになった。
しばらくはひたすら真っ直ぐに行くだけだ。
落胆した心を隠す為、前向きに物事を考える。その細い芯を容易く折ったのは電車の屋根に降りた1体の鬼だった。
不意を突かれたその登場に呆然となって対応もできず、大きく開かれた口と牙によって視界は黒く染まる。
いつもの場所に目覚めて、悪態をつく。油断してしまった自分に腹が立つ。
武器を持ち、また進む。
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