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1章 神様が作った実験場
ずれ 13
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咆哮は声だけで悍ましい姿は現れなかった。不気味さだけが増していく。歩いているうちに真上にいるはずの蝶たちが下へと降りてきた。あたしの周りを飛ぶ赤い文様の黒い蝶は先への不穏を告げる。
カンダタは蝶が近寄ってから発狂した。それに続いてあたしも発狂したりして。
急に自身の正気を疑ったあたしは腕を確かめる。血も流さず、筋も引き抜かれていない綺麗な腕をしている。まだ、正常よね。
自分で異常か正常かの区別はつけられない。ただその疑いは杞憂でしかなかった。
あたしが歩く先に黒くまかれたミイラが横たわっていた。蝶たちはそのミイラを中心にして群がっている。
避けて通ろうとしたけれど一種の好奇心が囁く。「ミイラの正体を」と。
それは知らないほうがいい。根拠はないけれど、そんな嫌な予感があった。なのに、あたしは正体不明のミイラへと寄る。
ミイラに集る数多の蝶を払いのける。姿を隠していた黒い包帯は解けて、その明瞭ははっきりとあたしに映る。それは鬼だった。
上下の顎から伸びる牙、鉤爪、2mほどの体格、尾骨からの尾、開いた瞳孔は死骸だと告げている。
鬼が近寄らないわけね。同種の死骸がこんなに吊るされていれば、鬼たちも嫌悪するわね。
死んだ瞳孔をまじまじと見つめる。死骸だとわかっていても動くんじゃないかと不安になる。背を向ければ死んだふりをやめて油断したあたしをくってしまうんじゃないか。
開いた瞳孔はなにも語らない。蝶たちは死骸に群がる。なら、あれは死骸よ。動きはしない。
鬼の死骸を跨って先へと急ぐ。
しばらく歩いているとあたしたちを取り囲む陰が薄くなっていることに気付いた。ライトを消してみると自分の手がはっきりとわかる。出口が近い。
「カンダタより先に見つかったわね」
ハクは地下から出てしまうかと心配になり、後ろから吠える。
「うるさくしないで。わかってるわ。位置だけでも確認していいでしょ」
あたしの言葉は信用に足りないようでハクは疑いの目であたしを睨む。
薄暗く四角い出口をくぐるも血沼はその先にも浸っていた。百貨店の地下駐車場が繋いだのは地下歩道だった。T字の路の表面には反射ミラーがある。まだ薄暗さがあるけれど、T字の両サイドから外の光が差し込む。見覚えのある歩道だった。
「あたしたち、百貨店の下を歩いていたはずよね?」
ハクに確認しても頼りのないこいつは首を傾げるだけだった。
わざわざ、ハクに確認するものでもない。それは事実だった。何㎞も離れた場所から学校近辺の地下歩道まで瞬間移動してしまったのかしら。
あの蝶男の言う通りね。どういう理屈か、地下は近道になっていた。
出口はわかった。あとはカンダタを見つけるだけ。
踵を返してまた深い闇の中へと戻ろうとする。けれど、一寸先のぷかりと沼に浮かぶものがあった。指でつまんで持ち上げるとそれは赤く染まったマスクだった。これはあたしがカンダタに渡したものね。
そういえば、カンダタがあれほどひどいと騒いでいたのに血沼は水の青臭さがするだけで耐えられないものじゃない。商品棚からわざわざ持ち出したマスクはあたしには不要だった。
カンダタに渡したものがここにあるとするならカンダタもここを通り、出口に向かったってことよね。
「何よ。あたしより薄情者じゃない。探していたあたしが馬鹿みたい」
あたしが愚痴を漏らしても、安心はしていた。得体の知れない化け物がいるビックリ箱の中を歩くよりも少ない知識でもある程度、知識のある地上がまだ安らげる。
あたしは地上へ向かって歩道を歩き、T字路の真ん中に立つ。その左折の通路、地上の階段に黒い死骸が転がっている。カンダタじゃない。あれは鬼。
また死骸?でも、さっきのと様子が違う。
駐車場にいたのは黒い包帯に巻かれて外傷もなかった。地下歩道の階段で投げ出されて捨てられた鬼は何て言ったらいいのか、ひどい有様だった。
腕は引き抜かされて、首の皮が剥がされ、胸からはあばら骨が抜き出ている。
「これ、噛み跡よね」
無残な死骸を観察してみると霊長類特有の歯並びをした跡がある。あの咆哮の主?それとも。
カンダタは蝶が近寄ってから発狂した。それに続いてあたしも発狂したりして。
急に自身の正気を疑ったあたしは腕を確かめる。血も流さず、筋も引き抜かれていない綺麗な腕をしている。まだ、正常よね。
自分で異常か正常かの区別はつけられない。ただその疑いは杞憂でしかなかった。
あたしが歩く先に黒くまかれたミイラが横たわっていた。蝶たちはそのミイラを中心にして群がっている。
避けて通ろうとしたけれど一種の好奇心が囁く。「ミイラの正体を」と。
それは知らないほうがいい。根拠はないけれど、そんな嫌な予感があった。なのに、あたしは正体不明のミイラへと寄る。
ミイラに集る数多の蝶を払いのける。姿を隠していた黒い包帯は解けて、その明瞭ははっきりとあたしに映る。それは鬼だった。
上下の顎から伸びる牙、鉤爪、2mほどの体格、尾骨からの尾、開いた瞳孔は死骸だと告げている。
鬼が近寄らないわけね。同種の死骸がこんなに吊るされていれば、鬼たちも嫌悪するわね。
死んだ瞳孔をまじまじと見つめる。死骸だとわかっていても動くんじゃないかと不安になる。背を向ければ死んだふりをやめて油断したあたしをくってしまうんじゃないか。
開いた瞳孔はなにも語らない。蝶たちは死骸に群がる。なら、あれは死骸よ。動きはしない。
鬼の死骸を跨って先へと急ぐ。
しばらく歩いているとあたしたちを取り囲む陰が薄くなっていることに気付いた。ライトを消してみると自分の手がはっきりとわかる。出口が近い。
「カンダタより先に見つかったわね」
ハクは地下から出てしまうかと心配になり、後ろから吠える。
「うるさくしないで。わかってるわ。位置だけでも確認していいでしょ」
あたしの言葉は信用に足りないようでハクは疑いの目であたしを睨む。
薄暗く四角い出口をくぐるも血沼はその先にも浸っていた。百貨店の地下駐車場が繋いだのは地下歩道だった。T字の路の表面には反射ミラーがある。まだ薄暗さがあるけれど、T字の両サイドから外の光が差し込む。見覚えのある歩道だった。
「あたしたち、百貨店の下を歩いていたはずよね?」
ハクに確認しても頼りのないこいつは首を傾げるだけだった。
わざわざ、ハクに確認するものでもない。それは事実だった。何㎞も離れた場所から学校近辺の地下歩道まで瞬間移動してしまったのかしら。
あの蝶男の言う通りね。どういう理屈か、地下は近道になっていた。
出口はわかった。あとはカンダタを見つけるだけ。
踵を返してまた深い闇の中へと戻ろうとする。けれど、一寸先のぷかりと沼に浮かぶものがあった。指でつまんで持ち上げるとそれは赤く染まったマスクだった。これはあたしがカンダタに渡したものね。
そういえば、カンダタがあれほどひどいと騒いでいたのに血沼は水の青臭さがするだけで耐えられないものじゃない。商品棚からわざわざ持ち出したマスクはあたしには不要だった。
カンダタに渡したものがここにあるとするならカンダタもここを通り、出口に向かったってことよね。
「何よ。あたしより薄情者じゃない。探していたあたしが馬鹿みたい」
あたしが愚痴を漏らしても、安心はしていた。得体の知れない化け物がいるビックリ箱の中を歩くよりも少ない知識でもある程度、知識のある地上がまだ安らげる。
あたしは地上へ向かって歩道を歩き、T字路の真ん中に立つ。その左折の通路、地上の階段に黒い死骸が転がっている。カンダタじゃない。あれは鬼。
また死骸?でも、さっきのと様子が違う。
駐車場にいたのは黒い包帯に巻かれて外傷もなかった。地下歩道の階段で投げ出されて捨てられた鬼は何て言ったらいいのか、ひどい有様だった。
腕は引き抜かされて、首の皮が剥がされ、胸からはあばら骨が抜き出ている。
「これ、噛み跡よね」
無残な死骸を観察してみると霊長類特有の歯並びをした跡がある。あの咆哮の主?それとも。
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