糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
45 / 644
1章 神様が作った実験場

空の穴 6

しおりを挟む
 方向も大体の位置も学校ね。
 空の穴は学校の真下にあると近づくほど確信を持てた。
 宝石の鯉はあたしたちに害を及ぼしたりはせず、彼らは悠然として泳いであたしたちの前を通ったり真上を飛んで見せたりする。
 線路の橋を渡ると橋下に潜むように佇む飛行旅客機並みの巨大鯉があたしたちを上目で睨む。
 さすがにこれは危機感を持ったけれど、その巨大鯉は睨むだけであたしたちを食おうとしなかった。
 「ピノキオだったわね。巨大な魚に食べられる話」
 「それは、食べられるだけの話か?」
 「いいえ、人形が人になる話よ」
 「そんなことが?」
 「おとぎ話よ。人形が人になるなんて有り得ないじゃない」
 「そう、だな。人が人形になるのはよくあるのにな」
 空の穴の光は禍々しくあたしたちに降り注ぐ。この光が強くなるとカンダタの足取りが遅くなっていった。
 橋から学校までは15分ぐらいで着くはずがカンダタに合わせていたせいで30分以上も時間が過ぎた。目的地に着いたとしてもすぐに学校には入れなかった。
 あたしたちは学校の目先にある商店に身を隠してガラス戸から注がれる光を避ける為、奥へと入る。
 「ここまで来た感想はどうなのよ?」
 喜悦の感想を求めずにカンダタに聞いてみる。
 長年、この地を求めてそれだけを支えにしてきたわりにカンダタの様子は憂鬱そのものだった。あの光はカンダタも弱らせるらしい。
 「で、どうすんのよ」
 「そこまで、考えたことなかった」
 カンダタは頭を抱えたまま答えたあと、大きく息を吐いた。
 「何よ、それ。屋上にでも行ってみる?神様に懺悔してお願いでもする?」
 「今更、祈りも聞き入れないさ」
 「なら、天国の道標をここから眺めるの?あたしには待ち人もいなし、神も信じていないわ。ここに根を下ろすならあたしは別のとこにいく」
 悩みに悩むカンダタは空の穴を眺める。青褪めても身体が震えてもその眼差しは冷めない熱が籠っていた。到底理解できないその熱は彼を立ち上がらせ、身体を支えた。
 「もう少しだけ、付き合ってくれ。あそこの頂上まで」
 そうなるだろうとなんとなく予測していた。
 顔も名前も思い出せないその「待ち人」とやらはそこまで思われているのなら幸せ者なんでしょうね。まぁ、その人が実在すればの話だけど。
 「体調がよろしくないみたいだけど?」
 「歩くだけなら平気だ。鬼もいないだろ」
 「そこまでして行きたいの?」
 「それしかないんだ。俺には、それしか」
   頭痛がカンダタを苦しめて戸惑いが脚を遅らせて焦燥もまた彼を追い詰めた。睡魔と闘い、怪我を残したままでも進む。
  そこまでなっても彼を動かすのはあの盲信からでしょうね。「君に会いたい」とか「永遠の誓い」とか、脳みそが花畑になっている奴らの台詞はその場限りの妄想でしかないのにカンダタという男は枯れた一輪の花を花畑と讃えて、妄想を現実だと謳う。
  馬鹿みたいにメルヘンチックなその盲信は時折、吐き気がするほど気持ち悪い。
  商店からでると2人を見下す光に晒される。鬼もいないので学校へは正面から堂々と行けたけどカンダタの体調は時間が経過するほどに悪くなる。
  商店から正門までの短い距離でも何度か脚を止めてしまい、あたしは背中を押す。なんとか校内に入り、光が遮られてもカンダタの体調は回復しなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...