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1章 神様が作った実験場
魂のプログラム 3
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竹林路を通って行くと開けた空間が広がる。
光弥が言っていた通り、そこには大池があった。大池といっても海みたいな開放感がある。池を囲んでいるはずの陸が見当たらなかったからだ。水平線がどこまでも続くほどに池は大きかった。
水上に浮かぶのは、黄金の蓮。気取った花が至る所で咲いており、水面と朱色の寝殿に金色が飾られている。寝殿造りの城は平屋なのに高く幅広く、威風堂々と建つ。
他にもいくつかの小舟が大池の移動手段として使われていて、舟に乗っている者は人の形をしていなかった。2本足で立つ獣だったり、4本腕を持つ男だったり、中には目が8つもある人もいた。その見た目は様々で同じ姿を持つ者はいなかった。
あたしたちがいたのは3つある中島の1つだった。光弥はひとつの小舟を用意するとそれに乗る。光弥には見えないけれどハクもあたしの向かいに座る。光弥は舟の末端に立ち、オールで島と舟を離す。
「池を覗いてごらんよ。面白いのがあるぜ」
得意気な笑顔で言ってくる。苛立ちながらも一応従って、舟から首を伸ばしてみる。
池に底はなかった。悠々と水上をゆく舟のその下には第4と呼ばれている地獄があった。
なるほどね。あたしとカンダタが見上げて向かっていたのはこの池だったわけね。
「あの中島にものぞき穴があったけど、大池ははっきり見えるだろ。第4の担当者たちがこうやって舟に乗り、観察を兼ねた監視をしているんだ」
「苦しんで跪く人たちを高いとこから観賞しているわけね」
「仕事さ。楽しんでないしね。監視をしていないと不備があったりするし、池の真下にきても困るしね。それに、囚人の観察はこれからの研究に必要なるからね」
「地獄っていったら血の沼とか針の山とかじゃないの」
「それは先代のデザインさ。代替わりしらたら、地獄のデザインを変更するのが習わしなんだ。何千年も同じデザインだと飽きるだろ」
光弥は面白おかしく話していたけれどこちらとしては笑えない。光弥の父とやらがデザインしたせいであたしたちは走って追われたのだから。
ひとつの舟があたしたちの舟と行き違いになる。その舟には2人が乗り、一人はトカゲの頭、もう一人はヤギのような角が生えていた。見た目は違うけれど二人とも同じ服装をしていて、モスグリーリンの着物に白い羽織を着ていた。
あたしたちが行き違うと作業の手を止めて、光弥が漕ぐ舟を凝視する。
違うわね。あたしだけを見ている。あの2人組は物珍しそうな、それでいて畏怖する目をこちらに向けていた。
行き違った2つの舟はゆっくりとした動作で離れていく。なのに、4つの目玉はまだあたしを映している。
見渡してみればあらゆる人たちがあたしを遠目から見物していた。中島にいる者、舟に乗る者、本殿にいる者。目玉がついている人があたしを凝視していた。
「あたしは珍獣なの?どちらかというと彼らが珍獣じゃない?」
無数の目線に疑問を抱くのは必然だったし、目線に不安を募らせるのは自然なことだった。光弥はそれを軽く笑い飛ばす。
「瑠璃にはおかしな人たちに見えるだろうけど、ここではあれが普通だよ。まあ、あいつらは精度が低いから気にしなくてもいいよ」
現世の人間が珍しいのかそれとも生きたまま地獄に落ちたのが珍しいのか、彼らの言う「珍獣」とか何か。それらを聞いてみても光弥は急に言葉を濁してはぐらかして答えはくれなかった。
そうしているうちに西側の波止場に舟が到着する。
本殿はいくつかの館に分かれて、光弥たちは西対、北対といった呼び名でその建築物を指す。
西対から渡り橋を通り、本殿の回廊を歩く。奥へと連れて行かれ、光弥がふすまを開けると、寝殿の風景は一変する。
寝殿の奥は近代的な、あたしにとっては馴染みのあるフローリングの廊下と天井には細長いLEDライトが並ぶ。
「最近、改装したばかりなんだ」
内部の説明をぺらぺらと喋りながら光弥が歩き出し、あたしは彼に続く。内部でもすれ違う人たちはあたしを恐れて見澄ます。
「ねぇ、生きたまま地獄に落ちた理由、まだ聞いていなかったわね」
光弥が喋っているにも関わらず、あたしはひとつの質問を投げてみる。
「あーっと、それは」
「何よ。さっきまでペラペラと無駄話していたくせにあたしのことにあると歯切れが悪くなるのね」
「そんな焦らすなよ。糸と鋏に関して親父が答えてくれるからさ」
あたしはこの2つに関して口を出していない。この2つが関係しているのは確かみたいね。
余計なものまで話してしまうから、光弥の口の軽さが知れる。
光弥が一つのドアを前にしてノックする。中から返答の声がすると光弥はあたしを中へと招き入れた。
所長室にしては廊下の隅にあり、広さも1Kほどしかない。けれど、天井はどこまでも固く、壁をピッタリに合わせた本棚は同じ高さにまで伸びて1mmの隙間もなく本が並ぶ。
それでも束ねられた資料や解かれた巻物、本、それらが本棚に収まらず、それこそ、足の踏み場もないくらいに情報の詰まった紙束が重ねられ、山となり、連なっていた。
山脈の中心にいるのは隻腕の男と眼鏡をかけた真面目そうな女性だった。女性は他の人と同じ着物と羽織を着ていて、その背中には小さな翼がある。隻腕の男は一般的なスーツで、片腕以外は光弥と変わりがない。父と呼ばれるには若く、大体40歳前後の見た目をしている。
翼を持った女性は隻腕の男と会話をしつつ、スマホに耳を当てて、電話向こうの誰かに指示を伝える。隻腕の男は女性に指示を出しては資料を読み、机に戻さずに床に落とす。
道理でデスクの周りが異常に散らかっているわけね。
常に部屋を清潔に保っているあたしからしてみれば、この部屋は無法地帯でできれば入りたくない。
「親父、例の子がきた」
そう言って、光弥は手の平を向こうへと差し出して2人のもとへと勧めてくる。
紙束と本の山々からわずかな足場をみつけて踏み入れる。
忙しい手と口を止めた男女はここまで来るあたしをまじましと見守る。いや、語弊があるわね。
眉間に皺を寄せたその表情は試験官の結果を見定める学者の観察眼をしている。
「君が瑠璃だね」
男の第一声にあたしの固い警戒心が反応する。あたしが嫌っているものを知っているみたいだった。
「なんで名前知ってるの?」
「調べさせてもらったよ。ここのことは光弥から教わったか?」
「えぇ、口が軽い息子さんから。あたしが糸と鋏を持っているせいでこんなことになっているのものね」
あたしがそれを言ったのは光弥のように口を滑らせたわけじゃなく、隻腕の男の反応を計る為だった。
光弥はあたしに関しての質問を避けているみたいだった。さっきも父親なら答える、と言っていた。それって、あたしが得ると不都合な情報があると考えるのが妥当よね。
光弥が言っていた通り、そこには大池があった。大池といっても海みたいな開放感がある。池を囲んでいるはずの陸が見当たらなかったからだ。水平線がどこまでも続くほどに池は大きかった。
水上に浮かぶのは、黄金の蓮。気取った花が至る所で咲いており、水面と朱色の寝殿に金色が飾られている。寝殿造りの城は平屋なのに高く幅広く、威風堂々と建つ。
他にもいくつかの小舟が大池の移動手段として使われていて、舟に乗っている者は人の形をしていなかった。2本足で立つ獣だったり、4本腕を持つ男だったり、中には目が8つもある人もいた。その見た目は様々で同じ姿を持つ者はいなかった。
あたしたちがいたのは3つある中島の1つだった。光弥はひとつの小舟を用意するとそれに乗る。光弥には見えないけれどハクもあたしの向かいに座る。光弥は舟の末端に立ち、オールで島と舟を離す。
「池を覗いてごらんよ。面白いのがあるぜ」
得意気な笑顔で言ってくる。苛立ちながらも一応従って、舟から首を伸ばしてみる。
池に底はなかった。悠々と水上をゆく舟のその下には第4と呼ばれている地獄があった。
なるほどね。あたしとカンダタが見上げて向かっていたのはこの池だったわけね。
「あの中島にものぞき穴があったけど、大池ははっきり見えるだろ。第4の担当者たちがこうやって舟に乗り、観察を兼ねた監視をしているんだ」
「苦しんで跪く人たちを高いとこから観賞しているわけね」
「仕事さ。楽しんでないしね。監視をしていないと不備があったりするし、池の真下にきても困るしね。それに、囚人の観察はこれからの研究に必要なるからね」
「地獄っていったら血の沼とか針の山とかじゃないの」
「それは先代のデザインさ。代替わりしらたら、地獄のデザインを変更するのが習わしなんだ。何千年も同じデザインだと飽きるだろ」
光弥は面白おかしく話していたけれどこちらとしては笑えない。光弥の父とやらがデザインしたせいであたしたちは走って追われたのだから。
ひとつの舟があたしたちの舟と行き違いになる。その舟には2人が乗り、一人はトカゲの頭、もう一人はヤギのような角が生えていた。見た目は違うけれど二人とも同じ服装をしていて、モスグリーリンの着物に白い羽織を着ていた。
あたしたちが行き違うと作業の手を止めて、光弥が漕ぐ舟を凝視する。
違うわね。あたしだけを見ている。あの2人組は物珍しそうな、それでいて畏怖する目をこちらに向けていた。
行き違った2つの舟はゆっくりとした動作で離れていく。なのに、4つの目玉はまだあたしを映している。
見渡してみればあらゆる人たちがあたしを遠目から見物していた。中島にいる者、舟に乗る者、本殿にいる者。目玉がついている人があたしを凝視していた。
「あたしは珍獣なの?どちらかというと彼らが珍獣じゃない?」
無数の目線に疑問を抱くのは必然だったし、目線に不安を募らせるのは自然なことだった。光弥はそれを軽く笑い飛ばす。
「瑠璃にはおかしな人たちに見えるだろうけど、ここではあれが普通だよ。まあ、あいつらは精度が低いから気にしなくてもいいよ」
現世の人間が珍しいのかそれとも生きたまま地獄に落ちたのが珍しいのか、彼らの言う「珍獣」とか何か。それらを聞いてみても光弥は急に言葉を濁してはぐらかして答えはくれなかった。
そうしているうちに西側の波止場に舟が到着する。
本殿はいくつかの館に分かれて、光弥たちは西対、北対といった呼び名でその建築物を指す。
西対から渡り橋を通り、本殿の回廊を歩く。奥へと連れて行かれ、光弥がふすまを開けると、寝殿の風景は一変する。
寝殿の奥は近代的な、あたしにとっては馴染みのあるフローリングの廊下と天井には細長いLEDライトが並ぶ。
「最近、改装したばかりなんだ」
内部の説明をぺらぺらと喋りながら光弥が歩き出し、あたしは彼に続く。内部でもすれ違う人たちはあたしを恐れて見澄ます。
「ねぇ、生きたまま地獄に落ちた理由、まだ聞いていなかったわね」
光弥が喋っているにも関わらず、あたしはひとつの質問を投げてみる。
「あーっと、それは」
「何よ。さっきまでペラペラと無駄話していたくせにあたしのことにあると歯切れが悪くなるのね」
「そんな焦らすなよ。糸と鋏に関して親父が答えてくれるからさ」
あたしはこの2つに関して口を出していない。この2つが関係しているのは確かみたいね。
余計なものまで話してしまうから、光弥の口の軽さが知れる。
光弥が一つのドアを前にしてノックする。中から返答の声がすると光弥はあたしを中へと招き入れた。
所長室にしては廊下の隅にあり、広さも1Kほどしかない。けれど、天井はどこまでも固く、壁をピッタリに合わせた本棚は同じ高さにまで伸びて1mmの隙間もなく本が並ぶ。
それでも束ねられた資料や解かれた巻物、本、それらが本棚に収まらず、それこそ、足の踏み場もないくらいに情報の詰まった紙束が重ねられ、山となり、連なっていた。
山脈の中心にいるのは隻腕の男と眼鏡をかけた真面目そうな女性だった。女性は他の人と同じ着物と羽織を着ていて、その背中には小さな翼がある。隻腕の男は一般的なスーツで、片腕以外は光弥と変わりがない。父と呼ばれるには若く、大体40歳前後の見た目をしている。
翼を持った女性は隻腕の男と会話をしつつ、スマホに耳を当てて、電話向こうの誰かに指示を伝える。隻腕の男は女性に指示を出しては資料を読み、机に戻さずに床に落とす。
道理でデスクの周りが異常に散らかっているわけね。
常に部屋を清潔に保っているあたしからしてみれば、この部屋は無法地帯でできれば入りたくない。
「親父、例の子がきた」
そう言って、光弥は手の平を向こうへと差し出して2人のもとへと勧めてくる。
紙束と本の山々からわずかな足場をみつけて踏み入れる。
忙しい手と口を止めた男女はここまで来るあたしをまじましと見守る。いや、語弊があるわね。
眉間に皺を寄せたその表情は試験官の結果を見定める学者の観察眼をしている。
「君が瑠璃だね」
男の第一声にあたしの固い警戒心が反応する。あたしが嫌っているものを知っているみたいだった。
「なんで名前知ってるの?」
「調べさせてもらったよ。ここのことは光弥から教わったか?」
「えぇ、口が軽い息子さんから。あたしが糸と鋏を持っているせいでこんなことになっているのものね」
あたしがそれを言ったのは光弥のように口を滑らせたわけじゃなく、隻腕の男の反応を計る為だった。
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